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【連載】わたしの湯 vol.8 / スタッフ紹介

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―おぺさん!ついにおぺさんを取材できる日がやってきました!
緊張します~(笑) 何喋ろう。

嬉しそうな美帆さんと照れるおぺさんを見ていたら、それだけで「あ~取材できて良かったな」と実感した。
今年 4 月のある日、わたしの湯 企画者つっつーからの熱烈なラブコールを受け、今回からわたしの湯の取材とライテ ィングを担当する冨岡久美子(くみこまる)です。 最初に誰に話を聞きたいだろうと思った時浮かんだのが、おぺさん。彼女は新しく入る番頭スタッフの面談や研修の 多くを担当しており、私の初出勤や、その後のシフトも一緒だったので、仕事のやり方や姿勢はおぺさんから学んだ。
おぺさんを知るうえで欠かせないのが“演劇”。大学時代から「いいへんじ」という演劇団体を主宰しており、社会人になった今でも、仕事と演劇の両立は続いている。演劇をしながら働くってどういう生活なんだろう、おぺさんを突き動かすものは何なんだろう、どんな想いで日々過ごしてるんだろう。企画:つっつー/インタビュアー:美帆さん/ライティング:くみこまる/編集:江口彩乃/写真:Gota Shinohara

小杉湯とおぺ 一番好きな仕事は…

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―おぺは私(美帆さん)が小杉湯で働く前から、小杉湯に居たんだよね?
そうです。2018 年の 2 月頃に、深夜清掃で最初入りました。Twitter でたまたま募集が流れてきて。でも小杉湯も知らなかったし、それまで銭湯に入ったことがなかったんですよ。大学近くの松の湯(2020 年 7 月閉店)に入ったこと があるかないかぐらいで、銭湯に親しみみたいなのがあんまりなかった。ちょうど深夜アルバイトを探してたので、ちょっと遠いけど、普通のバイトよりは「夢を応援してくれるとかって書いてあるし、楽しそうだなー」と思って応募しました。…実は、こないだ土居くんのインタビューの時に、土居くんが一回落ちちゃったみたいな話があったじゃないですか。あの時受かってたのが私(笑)

―あらー!それちょっと土居くんに言えないですね(笑)
でもそのあと、すぐ土居くん入ってきてくれたんで(笑)

ーでも、一度深夜清掃は終わるんだよね?
そうですね。2018年の秋頃にちょっと体調を崩しまして。「深夜清掃は続けられないかも。ちょっと一旦お休みをもらえると嬉しい」みたいなことを佑介さんに伝えました。2019年4月頃に、体調も良くなってきつつあったので、番頭募集のタイミングで、私もその時間帯で働けますか?って佑介さんに言ったんですよね。それで番頭アルバイトとして復帰した。そこで、美帆さんとはじめて会った。

―そうなんです、そこで初めて私たちは出会うんです! おぺが来た時に、「体調無理しないでねー」って窯場の上で言ったのを覚えております、私は。「自分のペースで無理のない範囲で頑張ってみましょう」ってなってやり始めて、今は番台も番頭も両方やってるけど、どうですか?
私は番頭が自分に合ってるなと思います。深夜清掃も体力的に続けられなかったんですけど、好きでした。多分黙々と仕事してる方が好きなんだと思います。一方で、番頭だったら、お客さんの気配も感じられる。その距離感がちょうど良いなと。今の働き方は、平日の昼間は家で小杉湯の仕事をして、土日で来れる時は出勤して番頭やって、夜は執筆をしたり稽古をしたりっていう感じ。このサイクルは、色々試行錯誤した上で一番しっくりきています。

―その中でもこれは好きだな・大事だなって思う仕事はありますか?
番頭、番台、開店準備、朝清掃も…いつのまにか全部なんとなくやらせてもらってて、今は結局事務に落ち着いてます。全てやった上で、一番好きなのは、シフト調整です!

―そうなんだ!(笑) 今やみんなが嫌いとしている、シフト調整! みんなが小杉湯で自由にお休みを出せるのはおぺさんのおかげですね。超ありがたい。
いないと思いますよね、シフト調整好きな人って。おかしいと思うんですけど(笑) でも、バラバラな状態を一旦まとめて整理して、みんながわかりやすい形にするっていうのがすごい好きで、大変だけど快感を覚えるんです。みんなにお休み希望出してもらって、ヘルプを決めていって、「じゃあ今月のシフトはこれだ!」って出すのが快感。ほんと天職だと思ってます(笑)

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―いや、本当にそのおかげでみんながお休みできる。今までお休み希望でダメですよって言ったことないと思う。
やっぱり、いろんな立場を経験してみて、「みんなが働きやすい環境であった方が、巡り巡ってお客さんにも良い環境を提供することにつながるな」っていうのを最近はより考えるようになってて。私もスタッフの一人として、小杉湯という環境を整えるのも好きだけど、小杉湯で働いている人たちの環境も整えられたら良いなあ…みたいなのは考えていますね。

―そうかそうか。小杉湯で働いてよかったなーって思うことはありますか?
なんだろなー。なんかやっぱ、職場っぽくないというか(笑) 普通に過ごしているとなかなか会えない人や面白い人がいっぱいいるし、ここにいる人たちが本当に素敵だなって思う。小杉湯にいると、小杉湯のことや高円寺のことを、だんだんホームだと思えるようになってくるというか。私も実際そうだし。働いていてよかったと思うことってよりは、ここに帰ってこれるうちの一人でよかったな、と思います。掃除や洗濯も、仕事でやるというよりは、自分も入るお風呂だし、それをより綺麗にすることができているのが嬉しいなと思います。

生みの苦しみと喜び

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―ここで働いている人は、いろんな人がいるんだよね。おぺは演劇、その中でも、演出をしていて、「なにかを生む苦しみ」みたいなのがあるのかな?と勝手に予想しているんだけど、こうやって仕事と両立しながら続けているのを見ていて、おぺの演劇への想いや、おぺを突き動かすモチベーションが気になります。
そうですね。まず、脚本を書く。そしてその脚本を俳優さんに読んでもらったり、実際に動いてもらったりという演出の、大きく分けて2つの仕事をしています。脚本を書くときはすごい孤独な作業なんですよね。自分に向き合う時間というか、生みの苦しみがあるとしたらそこが一番辛い。でもなんでやるのか…基本的に、自分が普段生活をしていてモヤモヤしたこととか、“ん?”って思うこと、引っかかることとかの解像度を上げたいっていう欲求があるんです。バラバラでモヤモヤで「どうなっちゃってんのこれ?」みたいなところに結構不安や不快感を感じることがあって、そういうのって、生きてると少なからずあるじゃないですか。人と接している中でとか、生きていて感じるモヤモヤみたいなのを詳しく見てみたい、考えてみたいという気持ちで、苦しいけど書いてます。

― へー! なるほど。
逆に、演出はすごい楽しい。俳優さんが自分のセリフを読んでくれると、自分だけの言葉だったのが、「あっ、同じ言葉でもこういう見方があるんだ。同じテーマでもいろんな考え方があるんだ」っていうのを稽古場で知ることができるのがすごい楽しくて。だからそのために書いてるっていうのもある。脚本の苦しみを乗り切れば、みんなでおしゃべりができる!それで頑張って書いて、最終的に上演してお客さんが作品としてそれを見た時に、同じように、また違う捉え方をしてくれて、感想をくれて。一人ぼっちで考えるんじゃなくて、お客さんが普段は考えてなかったようなことを私たちの作品がきっかけで、考えられたらいいなというのを目指してるところですね。
それでいうと、シフト調整がなんで好きなのかにも繋がるんですが、演出で人の立ち位置を決めるのと根本的なことは同じっていうか。人がどう動くかを考えて、それで人が心地よく動いてくれたら嬉しい。以前は仕事は仕事、演劇は演劇で、考え方を切り替えようと思っていたんですけど、小杉湯に関わってくれている人のことを考える時の自分と、演劇をやっている時の自分は同じなんだと気づいて、そこが乖離しすぎないようにしよう、と最近は心がけています。

―小杉湯で働いているときに、お芝居が浮かんだり、何かいい影響があったりするときもある?
よく言うじゃないですか、アーティストはシャワー浴びてる時やお風呂はいってる時に思い浮かぶとか。それって多分、ウーンって考えてるところから一回フって抜けた時だと思うんです。だから、お風呂にはいるタイミングでももちろんあるし、番頭やっててタオル畳みながら「あ、ここ、こうすればいんじゃん」って思うとかはあります。タオル畳んでる時って無心だから。煩悩がないから、急にアイデアがぽって浮かんできて、メモしておくとかはありますね。

苦しい人の背中をさすりたい 薬をもらいにいく薬

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―お芝居がもうすぐ始まりますよね。どういう感じのお芝居になっているのでしょうか?
今年の2月~3月頃に、また大きく体調を崩してしまって、小杉湯をお休みしていたんですけど、その時期に構想を練っていたのが、7月に上演する『薬をもらいにいく薬』です。「外に出たいんだけど、外の世界に対してすごく不安な気持ちになってしまう」という人に対して無責任に「大丈夫だよ、いけるよ」って言うのではなく、その人個人が抱えている感覚になるべく寄り添いたい。共感ができなくても理解をすることはできると思うし、背中を押すことはできなくてもさすってあげられるような作品が作れたらいいなと思っています。自分の心配性なところや気づき過ぎるところ、モヤモヤしたことを演劇という形に昇華してみんなの前でやることで、「あ、あるよね、こういうこと」とか「あ、こういうことってあるんだ」って気付いてもらえたら、世界の見え方がちょっと変わってくると思うし、みんなちょっとずつ自分にも他人にも優しくなれたりするのかなと思っていて。すごく小さな力かもしれないけど、普段気づかなかったことに気づいてもらえたり、逆に気づき過ぎてしまって辛い人が、「ああ!あるよね!」ってなってくれるのが一番嬉しいかも。救うことが目的ではなくて、私は作品や文章を書いてないと、演劇をやってないといられないから作ってるだけなんですけど。観劇を通して、見てくれる人が何か感じたり、結果的にひとりでも救われる人がいたらすごく嬉しいし、そういう演劇を作り続けられたらいいなと思っています。
深夜清掃の時もそうだったし、今こうやって戻ってきて違う働き方をしてる時も同じなんですけど、結局、意外と大丈夫なんだなって。2周くらい回って小杉湯に戻ってこれた経験もあるから、それを踏まえていますね。

―うんうん。いろんな人に見にきてもらえたら良いね。
そうですね。劇場って結構ハードルが高いかもしれないし、さっき言った内容だけ聞くとすごい暗い話なんじゃないかと思われるかもしれないんですけど、私たちの作品は意外と結構コミカルにテンポよく見られるので、あんまり気負いやプレッシャーを感じずに劇場まで来てくれたらすごい嬉しいです。銭湯と劇場って似ているところがあるなと思ってて。銭湯だったらお風呂場、劇場だったらそこで上演されてる作品という、ひとつのものを共有している。そこでみんなそれぞれ違う感想や考えを持ったり、そのあと、一緒に来た人と帰り道に喋ったり、ひとりでしみじみと体験を持ち帰ったりとかが、私は結構似てると思います。だから、銭湯に来るような感じで劇場にも来て欲しいです。

みんなが帰ってこれる場所の仕組みをととのえたい

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―おぺみたいに何か抱えてるものがそれぞれあったとしても、みんなが帰ってこれる場所、ふらっと来れるような場所が今ここで作れてたら嬉しいなってすごく思う。
「小杉湯」という環境、創業80年以上の銭湯が持っている場所のパワーっていうのがもうすごいから、そこに集まって来る人たちが“えも言われぬ安心感”を感じるというのはすごくあると思うんです。あとはもう、「株式会社小杉湯」としての仕組みだけだなって。シフト調整から始まって、今は勤怠の管理や、給与明細の作成、新しく入ってきた子の面談・研修とかもやらせてもらってるんですけど、「小杉湯で働く人たちのために働く」みたいなことをやっていきたいなと思っているところです。働きやすさというか、エラーが起きても大丈夫だと思えるような仕組みをもっと整えられたらいいなという願望があって、それが今自分が働くモチベーションになっています。

―ありがとうございます(笑) 小杉湯で新しい人もずっといる人も、みんなが心地よく働ける空間を作るのって簡単ではないなと思っていたから、おぺがそういう風に考えてくれているのはありがたい。
お客様には顔を見せる機会が前よりは減っていますが…裏にいますので(笑) 今後ともよろしくおねがいします。

わたしの湯  みんなちがって、みんないいのだな。

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わたしが小杉湯で働き始めた初日の番頭中、常連さんに「くみこさんは仕事が丁寧ね」と褒められた。本当に右も左もわからない時に言われた一言に、「あ、わたしって丁寧なんだ。自分でも気づかなかったところを褒められて、なんだか嬉しいな。」と思ったことを、今でも覚えている。働く人の些細な所作に、お客さんが気付くって凄いことだ。働く人だけではない、小杉湯に集まる人はみんな、ここを作ってくれている一人だと感じる。否定も肯定もせず“ただそこにいる人”としてまるっと認めて包み込んでくれているから、あったかい。そんな場所を自分も作れているとしたら嬉しいし、おぺさんたちが整えてくれている環境にどっぷりと甘えながらも、自分も自分の関わり方でこれからもこの場所を守っていきたいなと思った。 くみこまる

今回の登場人物 小杉湯のひとたち

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公演情報

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芸劇eyes番外編 vol.3『もしもし、こちら弱いい派─かそけき声を聴くために─』 参加作品
いいへんじ『薬をもらいにいく薬(序章)』
作・演出 中島梓織
日程…2021年7月22日(木・祝)~7月25日(日)
会場…東京芸術劇場 シアターイースト
チケット発売中 一般:2,800円、高校生以下:1,000円
※詳しい情報は、こちらのURLからご確認ください。

チケット取り扱い

🎫東京芸術劇場ボックスオフィス
https://www.geigeki.jp/ti/
🎫チケットぴあ
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2112236
🎫イープラス
https://eplus.jp/sf/detail/0560990001
🎫ローソンチケット
https://l-tike.com/play/mevent/?mid=581192
🎫カンフェティ
https://s.confetti-web.com/detail.php?tid=61631&

Photo gallery by Gota Shinohara

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