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入居者にあのキャラが重なった話

ノー友のふるやのもりさんの記事を読んでめちゃくちゃお好み焼きが食べたくなり今日の夕飯のメニューをお好み焼きにしたのですが、広島風(麺入り)を主張する僕とノーマルを主張する奥さんとで揉めて今険悪なムードです。どうしてくれるんですか、ふるやのもりさん。責任とって広島風お好み焼きを送ってください。

こんにちは、コッシーです。


さて、うちの入居者でHさんという男性の方がお見えです。

Hさんは普段歩行器を使って歩行をされていますが、徐々に歩行が不安定なってきており、最近では居室で転倒された事もありました。デイサービスで歩行訓練をされていますが、なかなか向上はしない様子で、転倒し骨折などのリスクを考え歩行器から車椅子への変更も検討をしていました。

ただ、介護に携わっている方は理解されていると思いますが、『自分の足で歩く事』というのは介護にとって非常に重要な要素であり、それが出来ると出来ないとではご本人の生活スタイルや介護支援方法などが一変すると言っても過言ではありません。

ですので、歩行を車椅子に代えるのはしっかりと検討し慎重に行う必要があります。僕らは毎日のようにHさんの歩行状態を観測して歩行器の継続か、車椅子への変更かなどを話し合っていました。

そんなある日Hさんから信じられない要望を受けました。

「自転車に乗りたい。自転車に乗って買い物に行きたい」

歩行器から車椅子に代える検討をしている状態の方が自転車に乗れるとは到底思えませんでした。誰もがHさんの発言に失笑しましたし、お身内の息子さんまでも「バカな事言わないでくれよ(笑)」と笑っていました。

僕も正直Hさんが自転車に乗れるとは思えませんでした。

周りから「無理ですよ」「危ないのでやめましょう」「それよりもちゃんと歩ける訓練をしましょう」などの言葉を受けたHさんでしたが、それでも諦めずこちらにお願いをしてこられます。しかしスタッフもご家族も聞く耳を持ちません。するとHさんはこんな事を言いだしました。

「1度だけで良いから試したい。自分が自転車に乗れるかどうかやってみたい。無理なら諦めますので」

その言葉を聞いた他のスタッフは「そうは言ってもねぇ。怪我するかもしれないしね」とそれでも認めようとはしませんでした。

でも僕は、諦めず1度だけでいいから試したいと言われるHさんのその姿にあのキャラクターを重ねました。

そう、えんとつ町のプペルのルビッチです。

「誰か見たのかよ…誰も見てないだろ。だったらまだ分かんないじゃないか!」

ルビッチ えんとつ町のプペル

この映画で1番有名なセリフでありこの言葉に多くの方が勇気をもらったことでしょう。僕もその1人です。

「わしが自転車に乗るところを誰か見たんかね…誰も見てないじゃろ。だったらまだ分からんやろがい!」

そう言ってるように見えました。

「1回やってみようか」

そう言う僕にスタッフ達は当然反対をします。無理と分かりきってる事を試してそれこそ怪我でもしたら責任問題です。家族からもお願いをされているわけでもありません。もちろん僕も危険なマネをするつもりはありませんでした。

デイサービスにリハビリ用のエアロバイクがあります。そこに跨げるかどうか試してみてはどうかと提案しました。スタッフは難色を示しましたが、それなら危険も少ないし、本人の試したいという希望を叶えることができます。

「1回だけですよ」と渋々了承してもらい、デイサービスの利用日にエアロバイクに跨げるかどうか試すことになりました。


誤解のないように言わせてもらいますが、うちのスタッフは意地悪でダメだと言ってるわけでも、どうせダメならやる必要がないでしょと言ってるわけではありません。

Hさんは入浴時に跨ぎも出来ない状態であり、自転車に乗れる可能性は限りなく0%に近いと思います。もしかしたら0%かもしれません。その状況で転倒して怪我をしてしまうリスクを考えたらやらない方が良いに決まっています。

10人いたらきっと9人は試さないという選択をすると思いますので、スタッフが僕の提案に難色を示したり反対するのは当然の事です。今回の場合おかしいのは多分僕の方です(笑)。


それから何日かしてHさんのデイサービスの利用日がやってきます。エアロバイクに跨げるかどうか気になったので見に行きました。

「Hさん、自転車に跨げますか?」

リハビリスタッフがHさんに声を掛けます。Hさんがゆっくりとエアロバイクの方に向かいます。歩行器から手を離しハンドルに手をかけます。

「さぁ、Hさん、足を上げて跨げますか?」

もう一度声を掛けます。Hさんがハンドル握り直します。リハビリ室が静寂に包まれます。緊張が走ります。次の瞬間「ふんっ!」とHさんから声が漏れますが、身体は全く動いていません。

ん?もしかして今跨ごうとしたのかな?

そう思った時、「無理ですわ」とHさんが言われました。

「ですよねー(笑)」「まぁ納得してもらえたなら良かった」「無事終わったね」とスタッフは笑っていましたが、僕はHさんのこの挑戦を本当に誇りに思うし、なんならブルーノがルビッチを思う気持ちと同じで気を抜くと涙が出そうでした。

結局それ以来Hさんが「自転車に乗りたい」と言われることはありませんでした。


普通の日常に感動を差し込んでくれる映画『えんとつ町のプペル』は絶賛公開中です。


現場からは以上です。それではまた。

コッシー

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