釉薬砂漠とヤモリの話
4月26日 くもり
本日のBGM The Persuaders
釉薬っていうのは長石というガラスの元や
木を燃やした灰や、酸化鉄とかの鉱物を
水に溶かしてできています。
これらはそれぞれ粉末状のものが水に溶けているので
例えばコンクリートの上に釉薬をこぼすと
まず水が蒸発して、灰などの軽いものは風で飛んでいくので
後に残るのは石や鉄などの粉末で、
ミクロの視点に立てば それは無機物だけの
極度乾燥(しなさい)な世界であり、カビも苔も生えない
生命に優しくないハードボイルドな世界でございます。
水分が飛んだ釉薬の中に虫が落ちてしまおうものなら
粉末のせいで壁を登れず、
お亡くなりになるまでそこから脱出できないし、
ご遺体となっても乾燥し続けるので微生物に分解されず
干からびて風化する過程を私のような大人間に観察される始末なのです。
庚申窯の釉薬をかける場所がそんな感じで、
今日も寂寥たる乾燥世界の拡充を図って
くすりかけをしていると、隅っこの方にヤモリのミイラを発見。
またこの砂漠の犠牲者が、と思ってつかもうとすると、
パタパタと動いて、釉薬砂漠唯一のオアシスにダイブ。
そいでそいで?と次の行動に期待したら
水の上に乗っかったまま虚空を見つめて微動だにしない。
わずかな波でゆらゆら流されていくだけで
何も動かないので、
これはもしやさっきのダッシュで力尽きて
お亡くなり遊ばされたのだろうか、
それとも乾燥した体に水が染み渡って
ワカメみたいに戻っている途中なのだろうか、
それとも自分のことをイモリだと思って
水にダイブしたものの全く泳げないことに今気づいた
おっちょこちょいヤモリなのだろうか、
などと考えている間もゆらゆらしてるだけなので
とりあえず掬い上げて、別の場所に移すことに。
指の大きさと比較するとかなり小さいですな。
指の上でも動かないものだから
やっぱりもう亡骸になってるんじゃないかなとか
私の徳の高い心を虫けらながらに理解して安心してやがるのかしらん
などと思いつつ、水はもういいのでなにか食べ物が必要だろうと思い
ちっちゃい虫が多そうな場所へ移すことに。
しかしいざ ちっちゃい虫の多そうなところと
言われてもなかなか思いつかず、
私の箱庭趣味も相まって植木鉢の中に置いてみることに。
するとヤモさん、しばらく動かないと思ったら
何かを見つけたように奥の方へ。
一体何を見つけたんだヤモさん。
いい感じに弱ってるワラジムシか、それとも魂の故郷バルハラか
さっきより元気に突進していきます。
ここまでくると間違い探しですな。
で、お皿の縁まできたと思ったらこの姿勢で停止
視線の先には特に何もないし、大変に無愛想なので
感情も読み取れず、この姿勢のまま またしてもフリーズ。
なにかこちらの世界とは違う時間を過ごしているのかしら。
いい姿勢だとは思うけど。
とりあえず元気そうなので戻ってくすりかけ再開しました。
野生動物との心温まる魂の触れ合いの記録終わり。
高鶴裕太 コウヅルユウタ
陶芸家
1991年生まれ
2013年横浜国立大学経済学部卒業
上野焼窯元 庚申窯3代目