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予行演習

寒さで手先が痺れる。
こういう時、死にゆく時も同じなのだろうかとふと考える。
死んだら無なのだから、感覚が無くなる過程があって然るべきだ。
呆ける前の祖母に最後に会った時、「死ぬのが怖い」「最近何も感じなくなってきた」と言ったのはそういう意味なのか。

生きている間に経験することの出来ないことなのだから、きっと誰もが少なからず不安を感じたり緊張したりするだろう。
それを可能な限り穏やかな形で迎えたい。
直前になって後悔しても遅いのだ。
そう自分を正当化して、今日も死の予行演習をする。

ウィスキーを一息に飲み干す。
体温が上がって手の感覚が戻り、生を実感する。
程なくして、爪先から頭のてっぺんまで痺れて何を感じることもなくなる。

酩酊。

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