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違いよりも共通点をみつけたい

観測史上もっとも暖かい元旦となった2022年ロンドンのお正月。
曇り空、ぱらぱらっと降る雨、そして、また曇り空。
日本からたくさん送られてくる美しい初日の出の写真とは対照的に、あいにく日の出をみることはできなかった。

ようやく晴れ間がのぞいた1月3日。
初詣代わりに、テムズ川岸から東の方角に向かい太陽を拝んだ。

日本では12月26日には大急ぎでクリスマス飾りが外され、お正月飾りに取って代わられる。
しかし、12月あたまに始まるアドヴェント(待降節)から1月初旬のエピファニア(公現祭)までが「降誕節」としてのクリスマス。だから、ここロンドンではまだまだそこら中でリースやツリーが飾られている。

 12月25日はローマ暦上の冬至 、1月6日はエジプト暦上の冬至で、それぞれローマ帝国の太陽神の祝日、エジプトの太陽神の祝日だったそうな。

つまりは、古くからニンゲンは、ふたたびそこから太陽の力が強くなりはじめる冬至の日をひとつの重要な区切りとして祝っていたということなのだろう。
そういえば、ナポリの国立考古学博物館でポンペイ遺跡から出土した発掘品をみたとき、エジプトの神々の影響が強いことに驚いたっけ。

初日の出をみのがし、あいにく近所に神社があるわけでもないので、だったら晴れた朝にテムズ川岸までお日さまを「拝みに」行こうという私の原始的な気持ちも根っこは同じ。

元旦には近所に住むポーランド人の友達を招き、お節料理をふるまった。

4-5年前のこと。クリスマスになにも予定がないと話した私を、ポーランドの伝統的なクリスマスディナーに招待してくれたカーシャとエミリア。

「キリスト教の12使徒にちなんで、クリスマスの夕食には伝統的にデザートを含む12種類の料理を食べるの」

それを聞いたとき、昆布や紅白なますといった日本のお節の習慣につながるものを感じた。

「そしてテーブルセットはひとつ余分におくの。それは、クリスマスイブの夜に貧しい人や困った人が玄関にきたら招き入れるという伝統からなのよ」

それはイギリスの祝日、ボクシングデーと同じ考えだ。
どうして12/26がお休みか。ボクシング発祥の日かなにかかと思ったら、「クリスマスのごちそうを翌日箱につめて貧しい人たちに持っていくからボクシングデー(箱詰めにする日)だ」と教わった。

「こんど私がお正月をロンドンで過ごすことがあったら、きっちり日本の伝統的なお節料理をつくるから、食べにきてね」

暖かい光と食べ物に感謝しつつポーランドのクリスマスディナーをご馳走になった私はそう告げた。

帰省できなかった今年のお正月。逆にいえば、あの時の約束を叶えるチャンスだ。
普段から、ひじきや昆布の佃煮が大好きなカーシャとエミリアのこと、楽しんでもらえるのではないかと思ってはいたけれど、それ以上のヒットだった。

お節料理を喜んでぱくついてくれただけではない。お雑煮もだ。

さすがピエロギ(餃子に似た小麦粉の皮で肉やキノコを包んだ料理)が国民食といわれるポーランド。しかも世界中旅していろんな食べ物を躊躇なく試してきたカーシャ。
たいていの西欧人が「ウェッ、なんでこんな歯にくっつくネトネトしたものを食べるの?」と嫌がるお餅を、おいしいおいしいといって平らげてくれたのだ。

「どれも本当においしかったんだけど、あえていうなら、ベスト3はキャビアみたいだったこれ(数の子のこと)、あとニシンの入った海藻(昆布巻のこと)、そしてふわふわで甘いこれ(伊達巻のこと)、ああ、でもあとねっとりしたカラメルがかかっているのにサクサク歯ごたえのいいこの小魚も捨てられないわ(田作りのこと)!あれ、3つじゃなくって4つ選んじゃった。あはははは」

自分の伝統的な食べ物を、お世辞抜きに受け入れてもらえるって気持ちいい。
自分が特別な料理として食べるものを同じようにおいしく食べてくれるなんて。

コロナはいろんな害をもたらしているけれど、こんな風に宗教、人種、言語や文化を超えた「共通の敵」が世界のいたるところに影響を及ぼしたことなんてなかったと思う。

そんな「共通の敵」を前にした今、ニンゲン同士、文化や宗教、言葉の違いに目を向けるよりも、どんな共通点があるのかに目を向けていたい。

2022年が、どうか、よい年になりますように。

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