見出し画像

イギリスあるある

この数日の間に、いわゆる「イギリスあるある」に直面しているnoterさんとのやり取りが偶然にもいくつか連続してあった。
そうか、今では疑問に思うこともなくなったけれど、いろんな「イギリスあるある」に私も翻弄されてきたよなあとしみじみ思いだす。
なので、今回はそんなこの国のあるあるを振り返ってみようと思う。

イギリスだけでなく、違う文化と密接に暮らすことになって衝撃を受けている方にとって、「まあ、新しいところにいけば、そういうものか」と、そして「いつかは笑えるようになる」というエールだと思っていただけたらうれしい。


物価が高い

イギリスに旅行で訪れたり、留学で来た方が、一番最初に衝撃を受けることは、おそらく、イギリスの物価の高さだろう。

私がイギリスに転勤したころは、1ポンド=220円だったので、その衝撃はよくわかる。ただ、言い訳するわけではないけれど、ここで触れたいのは、2023年現在の物価の高さには、いくつかの要素が混じっているということ。

インフレ

ここ半年~1年くらいの間にイギリスにきた方は、ただ物価が高いというだけでなく、それが毎週のように平気で値上げされていることにも驚いているだろう。
スーパーでみる食料品やトイレットペーパーなどの生活必需品、そしてなによりも光熱費が恐ろしい勢いで値上げされている。そして、それはずっとこの国に住む人にとっても未曽有の上昇率なのだ。

イギリスの物価は高い。

高いけど、これまではそんなにすごかったわけでもないのだ。

Consumer Prices, OECD - Updated: 4 April 2023

グラフを見てもわかるように、他の国に比較にならない勢いでイギリスではインフレが進んでいる。

そこにはいくつかの理由があると私は個人的に思っている。
ひとつはブレクジット。もうひとつはパンデミックだ。

ブレクジット

2020年1月、イギリスはEC→EUと加盟してきたヨーロッパの連帯から約50年ぶりに脱退した。
これは2016年6月に行われた国民投票の結果が「脱退」だったから。とはいえ、脱退が51.89%、残留が48.11%というものすごい僅差だった。(当時の首相キャメロンは残留を予想し国民投票にゴーサインを出したため、この後辞任。後日、やがて首相となったボリスが、自分が首相の座を得るために誤情報を散々流して脱退キャンペーンをしたといわれた)

国を半分に分割するような、EU離脱の決断。
しかも、今思い返してみれば、この2016年当時、「4年後の世界」がどんなか誰も予想していなかった。

そう、2020年。パンデミックだ。

パンデミック

2019年に少しずつ世界に広がったパンデミックの影響は2022年の2月にイギリスですべてのCOVID-19規制が解除されるまで続いた。

それはワクチン開発、ワクチン接種、娯楽や飲食業などへの補助金の支給など大量の国費の支出だけではなかった。
イギリスで発見された変異種を理由にヨーロッパ大陸との国境閉鎖が行われた。それにより物流も人流もストップしたのだ。
しかも、国境閉鎖はまさにクリスマス。もともとブレクジットを見越してイギリスを去り始めていたEU各国からの労働者たちは、母国へと帰り、そして戻って来なかった。

国境が閉じたイギリスに、海外からの新しく労働者はやって来ない。
結果として、2016年の段階で「EUからの労働者がいなくなったってイギリスで働きたい安価な労働者はアジアなどからやってくるはず」と脱退に投票した人々の予想は完全に裏切られた。

イギリスの農業はEUのもっと賃金の安い国からの労働者に支えられていた。
そんな野菜の収穫や、家畜の世話をしていたそんな季節労働者が、一気にいなくなったのだ。
だからといって野菜や果物の成長は止まらない。
家畜は今まで通りの手間がかかる。

こうして、収穫タイミングを逃し腐っていく農産物、世話が行き届かない肉製品不足のニュースが毎日報道された。
当然、これらの値段はロックダウン中の品不足ともあいまって、ぐんぐん上昇していった。

そして、いよいよブレクジットが施行される。
もちろん値段は下がらない。
下がらないどころか、これまで関税なく入ってきたEUからの製品が、がんがん値上げされていった。
イタリアのパスタ。フランスのチーズ。スペインの果物。

スーパーの店先では、モロッコ産、エジプト産などが増えたが、値段が同じわけがない。
フランス産のワインより、南半球のニュージーランドやオーストラリア産のほうが安くなるという逆転まで起こり、ブレクジットとパンデミックとの掛け算のインフレはどんどんと進行していった。

そもそもエネルギーが高い

イギリスだけでなく、世界ではエネルギーというのは高いもの、だ。
日本の安い電気代は原発が支えていたとはよくいわれるが、原発依存率がそこまでではないヨーロッパなどではエネルギーの値段は高い。

そして、だから、電気を使っている公共交通機関の値段も、高い。

通勤に電車を使って1-2時間が当たり前という日本のような生活スタイルにならないのは、この高い電車賃が大きく影響しているといわれる。
そして、コロナによって自宅勤務が選択肢となったいま、さらに電車の乗客が減り、だから収益率が下がったからさらに値段があがるという負のスパイラルになっている。

ロンドンを走っているチューブ(地下鉄)の運賃は、ゾーンによって決まっている。もし中心部であるゾーン1をよけて移動した場合には距離が長くても安くなるし、通勤のピーク時間帯を避ければ安くなるため人流の動機付けに役立っている。

電気やガスが高いので、イギリス人はアメリカ人のように冷暖房をガンガン使わない。
冬はしっかりセーターを着込んでいるし、夏はもともと暑くならないこともありほとんど冷房は存在しない。

加えて、われらが「円」の弱いこと

私の場合、イギリスにやってきた理由はロンドン本社への転勤だったから、引っ越しに伴って円建てから完全ポンド建ての給料に変わった。
なのでポンドの値札をみるたびに日本円に交換するということはしない。
1ポンドは100円。18ポンドのフィッシュアンドチップスは、1800円の気持ちで考える。
この話は以前にも書いた。

とはいえ、旅行や留学など、円建てで貯めたお金のプールを切り崩す環境にある場合は当然「円にしたらいくらか」が頭をよぎるだろう。
そんなとき、昨今の「弱い円」は、とても辛い。

ただ、私が転勤する直前、給与交渉をしていた2019年の為替レートは、今よりさらに弱い1ポンド=220円だった。
出張の時も、日当では満足に食事ができず、自費で持ち出ししてようやくピザを食べられるくらいだった。
つまり、長い視点で考えれば為替レートは変わるもの。
なので、経済力指標である為替が弱いのはなぜか、いろんな考える側面があると思う。
一概に「イギリスが高い」と捉えるべきなのか、「日本の賃金や物価がきちんと上昇していない」のか。
その国の平均給与に対するモノの値段として考えないと、「物価が高い」とは言い切れないと思う。

サービスはお金を払うもの

日本以外のおそらくどこの国でも、「サービスとは対価を払って受けるもの」だ。
ゆえに、イギリスでは、人のサービスを伴うものがとても高い。
時計の電池交換やクリーニング代は日本に比べたらとても高い。メンテがサービスということもまずありえない。
昔、真珠のチョーカーの糸が緩んできたので、銀座同様で当然無料と思いメイフェアにあるミキモトへ持っていった。ら、引き取るときに50ポンドくらい請求されて、顔を引きつらせながら支払ったのは痛い思い出だ。

イギリスで飲食をすると、パブやファストフードなどカウンターで自分で注文する店でない場合、たいてい10-12.5%程度のサービス料がレシートにあらかじめ加えられている。
アメリカ、カナダの20%に比べたら低いほうだが、それでもやはり、サービスというのは対価を払うものなのだ。

お店だけではない。
大工さんの作業や、ペインターさんに窓枠のペンキを塗りなおしてもらうなんていう工賃も、とても高い。
最近は大工とお客さんをマッチするサイトがあるけれど、値段勝負にすると、安い価格でやってくれるのはルーマニア人、アルメニア人、エストニア人、ギリシャ人など。
ちょっと前まではポーランド人が多かったが、経済力をつけ出稼ぎが減り、ブレクジットもあってだいぶ少なくなった。
ただ、国によってテクニックに違いがあるらしく、そういうこだわりがあるイギリス人は、高くてもイギリス人の職人を雇うらしい。

時間は参考程度

イギリスでは、いろんなものの時間が「参考程度」でしかない。

地下鉄や電車やバスを使おうと思ったひとはみな思うだろう。「時刻表って守らないの?」と。

時間どおりにきたらもうけもの

ちなみに、たいていのガイジンたちは、東京のものすごいラッシュアワーと、手袋をはめ「乗客を押す駅員さん」のことを知っている。
日本では電車もバスも時刻ぴったりにくるんでしょう?と。

私はよく「どうして日本の鉄道はコンマ1秒単位で時刻表をたてて、しかも守れるかしってる?」と尋ねる。
ガイジンたちは技術だなんだと答えるが(確かにJR東日本の運行システムや日立の車両はイギリスに輸出されている)私の答えはこうだ。

「違います。乗客が、遅らせないようにと協業するからです。あれだけ混んだラッシュアワーの電車も、ちゃんと阿吽の呼吸でこれ以上は無理して乗ろうとしたら遅延しちゃうって乗客が判断してあきらめるの。だからこそ過密ダイヤでも日本の鉄道はピッチリ時間を守れるんだよ。」

全体のために個をあきらめることを小さいころからしつけられている日本の感覚では、電車が遅れようとなんだろうと、無理やりドアをこじ開けてまで乗ってくるオレ文化にはなじめない。

ただ、そのオレ文化は、秒どころか何十分も日常的に遅れることを「寛容する文化」でもある。
この国では、秒を節約せねばとプレッシャーを受け脱線する福知山線事故のようなことは起こらないだろう。

郵便や宅配便は「結構」届く

めんどくさくなって郵便を家にためていた郵便局員や宅配ドライバーが日本にもいるようだけれど、けっこうこの国ではそんなもの。
在宅勤務中でぜったいに家にいたのに、ドアベルが鳴らされもせずに不在通知がいれられていたりもする。

そもそも、オンラインショッピングでデリバリーを頼むと、「平日夕方や土曜日は追加料金」が普通。日曜の配達はほとんど選択肢としてありえない。
イギリスに来てすぐのころ、家具付きアパートとして借りた部屋のマットレスがペコペコすぎてひどかったので、腰痛持ちの私は自分で買うことにした。
ところが、配達は平日の「午前」か「午後」でしか選べないというのだ。
コロナの10年ほど前のこと。自宅勤務なんてまだめずらしく、しかもそのときまだ家にインターネットもなかった。
だから、平日にマットレスを受け取るには、「配達のために仕事を半休」するしかない。
そんなの、なんて説明するんだろうとためらいつつ言い出すと、ジェニーは「そうよね、いろいろ来たばっかりで物入りだものね」と当たり前に受け入れた。

そう。
今でもそうだが、「宅配便が届くから会社を休む」はこの国ではまったくもって普通の理由なのだ。
というよりも、会社を休むのに理由なんていわなくていいし、訊ねない。
だって権利だから。

ただ、怖いのはそのあと。
仕事を休んでまで家でじーっと配達を待ち続ける、のに、マットレスはやってこない。スマホの前の時代、そしてネット回線もまだないからやることがない。
午前とか午後とかざっくりした枠でしか言われていないから、怖くて家から一歩も出られない。
そこまでがんばってもやってこない。
ないない尽くしだ。

仕方なく翌日会社からカスタマーセンターに電話する。
と、「交通事情で4時までにいけなさそうだったからドライバーが倉庫に戻ってきたので、今日向かってますよ」とかいわれる。
大慌てで、家に戻り、なんとかマットレスを受け取ったものだ。

今でこそスマホ全盛、状況のアップデートもテキストメッセージやメールで逐次やってくる。
オンラインで確認もできる。
けれど、私がイギリスにきた当時はまだ電話で問い合わせるしかなかった。
英語をしゃべって交渉するのは本当にゲッソリしたものだ。
おかげで、いまや電話で交渉することはすっかり慣れてしまったのだけれど。

工事もいっこうに終わらない

イギリスに来てすぐ一番最初に必要なもの。
それは、インターネット回線だ。

私が最初に借りた家は、大家が賃貸用に改装した直後の家だった。
そして、不動産屋いわく「だから、あなたが自分で新しくケーブル契約を結び、回線も引き込んでもらわないとならない」のだという。
日本とつながるため、いや、それだけじゃない。
新居に必要な情報も、ショッピングもインターネットがないと始まらないのに、「工事は4週間後」という返事。衝撃的だった。

まだ、スマホがない時代。
しかたなく会社に遅くまで残り、会社のパソコンで検索や個人メールをしたり、近所のマクドナルドで無料WiFiを何時間も使ったものだった。

工事の時間予約は「午前か午後」というざっくりした予約枠。日本のように「午後3時」といった予約はありえない。
しかも、時間を午後で予約するとたいてい来ない。
「ああ、その前のお客さんの作業がどんどん遅れていったから、あなたの順番まで来なかったんです。だからキャンセルの通知を送りました。別の予約を取ってあげましょうか」とまるでサービスかのように再設定をオファーされる。

え、そもそも時間に余裕もってアポイント取るべきだったのはそっちじゃないの?
お詫び連絡とか、そっちが送ってくるべきじゃないの?

今では、もうぜったいに工事や配送は「朝一番」を頼む。これが一番確実だから。

お客様は神様じゃない

イギリスではお客様は神様じゃない。
サービスの提供者も、受領者も同じ人間。それが考え方だ。

だから、不動産屋は日曜日は閉まる。
物件見学は平日はせいぜい5時か、遅くても6時まで。土曜の見学は3時か4時まで。
だって不動産屋にも人生をエンジョイする権利があるから(なのかどうかは知らないが)。
電車だって、深夜に夜通しで工事して影響を最小限にするなんてことはない。週末当たり前のようにチューブは止まって(計画工事による運行停止です、キッパリ)、利用者はバスや歩いて迂回する。

宅配便や工事をするひとたちの生活だって人間的じゃないといけないということなんだと、私は思う。

逆に言えば、日本で宅配便が何度もなんども再配達されて、夜の9時まで届くなんていうのは、その裏に配達の方の超過勤務や長時間労働があってこそ成り立っているものなのだ。

同じように薬局やパン屋など、お店だって郊外だったら6時にはほとんど閉まってしまう。
個人商店の八百屋や肉屋は5時で閉まる。
もちろんスーパーがあるから食うに困りはしない。

朝4時からパンを仕込み、朝7時から夜7時まで店を開け、夜の9時まで会計仕事をしていた両親をみて育った私。
もし、イギリスのお店やさんの子だったら、もっと親と時間を過ごせたんだろうなと少し羨ましく思える。

と、いうことで、長くなったのでとりあえずいったんここで第一弾は終了。






いただいたサポートは、ロンドンの保護猫活動に寄付させていただきます。ときどき我が家の猫にマグロを食べさせます。