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50年目の七夕 マイアミの熱い風 番外1

1999年9月 マイアミへ
  シアトルから国内線に乗り換えて4時間、ようやくマイアミ空港に到着した。
現地時間で22時。荷物を待っていると、犬を連れたポニーテールの白人麻薬捜査官が、ジーンズにフィールドジャケットというラフな格好で、飛行機からはき出される荷物の周りをうろついている。ジャケット下には銃のホルダーが見える。治安のいい都市とはいえないマイアミ。ここに俺と山崎と野島は降り立った。

ジェット・リー
 荷物を受け取り、ゲートを出ると、ジェット・リー(カンフーアクター)のような風貌のツアーコンダクターのミスター山田が迎えに来ていた。オールバック、黒いスーツ、深夜なのにサングラスをかけている。

 「こいつはメン・インブラックか」横で山崎が呟く。知らない土地での緊張感の中、
「ようこそマイアミへ」山田が笑って言う。
「今日は遅いので、取り敢えずホテルへお送りします」
俺達3人は、山田の乗ってきたGMのミニバンに乗り込み宿泊先のホテルへ向かった。
 
 着いたホテルはリゾートホテルとは程遠い、オフィス街にあるビジネスホテルだった。ホテルのチェックインを済ませると山田が言う
「では、明日7時に迎えに来ます」
「早いな、ところで明日の予定は何だっけ?」俺が言う
「明日はドーラルゴルフ場でのゴルフです」
「了解、それで仕事は?」
「それも仕事だと思えばいいじゃないですか、」とお気楽な野島が言う。
ともかく移動で疲れていたので、俺達は各自、部屋に向かった。

 部屋に入ると、いきなり見ていたかのように電話が鳴った。
「ハロー」
「もしもし、山田です。忘れていました。実は事前にお話したいことがあります。ロビーまで降りてきてもらえませんでしょうか」
電話でもいいのに何故だろう。
「いいですよ」ジーパンに着替え、アロハを羽織ってから、俺はロビーへ行く。
 
 廊下に出ると、エレベータの前に女がいた。
背は高くショートカット、生成りの麻のジャケットとジーンズ、靴はナイキだった。しかし夜中にも関わらずサングラスを掛けている。
「あれ、こんばんは」そう言うとその女はサングラスを外した。
「お前、なんで」サングラスの下はあの目だ。
アーモンドアイが笑いながら言う。
「時差ボケなのか眠れなくて、ホテルのバーで一杯飲もうかと思ったの、ところで貴方は、どうしてここに?」俺は、その流れの話をしたいのではないが、エレベータが来たので乗り込み、その話を続けた。

 「うん、ツアコンに呼び出されてロビーに行く」
「へー、こんな夜中に大変ね、じゃあさぁ、それを終わったら、そのツアコンさんに店を聞いて、タクシーで飲みに行きましょう」ヨウコは嬉しそうに言う。
「なんで、そうなる」

 意外と暗いロビー、ダウンライトの茜色が揺らいでいる。まるで地獄の入り口に入るような気分になった。ロビーのソファーに足を組んで座っていた山田は、俺とヨウコの姿を見ると、一瞬体を強ばらせた。

 「どうしたのですか、お揃いで」立ち上がって言う。
「うん、実はね、そこで、偶然に会ってしまった」俺はヨウコの提案を話した。
山田が言うには、たいした話ではなく、親睦を深めたいので何処かで一杯やりたかったそうだ。だから別にガールフレンドが一緒でもいいということだ。
「いや、ガールフレンドというより腐れ縁で、痛」ヨウコのつま先が俺の脛を蹴った。
 「そうですか、まあいいでしょう。マイアミビーチのモデルバーでも行きましょう。そこでお話します」と山田は笑った。
「では、行きましょう」そう言うと山田はホテルの出口に向かった。

真夜中のマイアミ
 車がトヨタのセダンに代わっていた。後部シートにヨウコが座った。俺は助手席に座った。

 「ここはマドンナの別荘です」山田が車のライトに照らし出される門塀を指して言う
「これはスタローンの別荘」
「あそこの別荘の門の前、あそこがヴェルサーチが射殺された場所です。連続殺人鬼のクナナンが最後のターゲットとしたのがジャンニ・ヴェルサーチだったのです」
ちょっとした観光案内だった。

 しばらく走ると山田の運転するトヨタはメイン道路から外れた。外灯も少なく暗い道だ。山田は外に手を振り言う。
「ヨウコさん、この地区は非常に危険な場所ですから、昼間でも一人では出歩かないでください、100%強盗にあいます。殺される場合もあります」

 外を見ると、アル中、ジャンキーみたいな黒人が当てもなくうろついている。気づくと、次の交差点に丈の短いドレスで、太ももをむき出したコールガールがこの車を目で追っている。

 「やばそうですね、信号で止まったら襲われたりしませんか?」と俺が訊く。
「たまに、あります、でも大丈夫です」目の前の信号が赤になった。車は止まった。
「この信号は無視したほうがいいと思うけど]俺は道路まで出てきたコールガールを見て言った。

 遅かった。いきなり、その女が手に持っていたビンを車になげつけてきた。ビンはフロントガラスにぶち当たり砕けた。そして、片手でジッポーライターを点けると、車に投げつけた。

 車のフロントが炎に包まれた。すかさず、山田はドアから飛び出る。
俺も慌てて飛び出した。やや遅れて、ヨウコも道路に飛び出してきた。それと同時に歩道の暗がりから3人の黒人が飛び出してきた。ジーンズに黒いスイングトップのジャンパー姿。友達になれるような人相ではない。早足で俺達に向かってきた。

 「ヨウコさん、やばい、逃げよう」俺が言ってはみたが、距離は3m程度だ逃げきれるかどうか分からない。見ると一番小柄な黒人の手には銃があった。銃が俺達に向けられた。
「危ない」俺は叫んでヨウコに被さり道路に身を伏せようとした。

 その時、一陣の風が舞った。そして、その小柄な黒人が道にぶっ倒れた。ジェット・リーだ。いや山田だった。
山田は倒れた黒人の銃を持つ手を足で踏みつぶした。うめき声がする。さらに頭に蹴りを入れて悶絶させた。

 残った二人の黒人が、山田と間合いを取り、にらみ合っていた。二人とも大柄で、手にはナイフを持っている。
「逃げて下さい。バーで落ち合いましょう」山田が俺達を見て言う。
「行こう」俺は気を取り直してヨウコに声をかた。そして右の路地の先にある明るいマイアミビーチ沿いの道に向かって走り出した。

 焦っているのか、なかなか道路は近づかない。後ろでは大きな悪意の固まりが追ってくるみたな波動がある。
ようやくマイアミビーチ沿いの道路に出た。後ろを振り返ると暗い道があるだけで、なにもなかったような静寂さだった。

 手を取って引きずっていたヨウコが息をきらして、座り込んでいる。
「とりあえずモデルバーだね」とヨウコは人気のないマイアミビーチを見ながら言う。
「なんか、凄いことになってきたな」

 俺とヨウコは明るく輝くモデルバーのネオンに向かって歩きだした。
思えば、3ヶ月前までは、俺は普通のサラリーマンだった。今となっては遠い話。

 この騒動は沖縄旅行から続いている。とにかく歩こう。まだ止まるには早すぎる。そしてマイアミの夜は熱い風が吹いていた。

マイアミビーチ

モデルバー
 店に入ると一斉に客の視線がこちらに向く、黒人、プエルトリコ人、白人は少ない。しかし男が多い。テーブル席がいくつかあり、後はカウンターだった。カウンターはほぼ埋まっている。

 テーブル席に着くと、スタイルのいい小柄な女がオーダーを聞きにきた。
「プエルトリコ系の女性は、小柄でキュートで日本人好みだよね、目がやらしよ」
女を凝視していた俺にヨウコは嫌みを言う。

 「そうだね、でも何を話しているのかわからん」
ヨウコが、スペイン語らしきもので、会話してビールとおつまみをオーダーした。
「ここマイアミ、キーウエストの先はキューバ、英語よりスペイン語ね」とヨウコは言う。
「そうなんだ」

 直ぐに運ばれてきたミラービールを飲み、おつまみに頼んだ魚のフライ食べながらヨウコ言う。目は周りに沢山いるイケメンの白人を見ている。
ここはその手のバーかも知れない。

 「ところで、あの騒動はなんだったの、それと山田は何者、普通のツアコンじゃないでしょう」
「そうだな、危なかった」
俺はそう答えたが、なんか芝居がかっているようなドタバタだと感じてもいた。

 電話が鳴った。マイアミ空港で、山田からレンタルしていた携帯電話だった。
室内はハードロックが鳴り響いており、他の客は気づいてないようだった。電話にでると山田からだった。

 「先ほど大変申し訳ありません、後始末があるので、帰りはタクシーでお願いします」
「いいですけど、話ってなんですか、後、ここは大丈夫なの?」
「問題ありません、話は明日にでも、そうだ、小さな男には気をつけてください、では失礼します」と言うと電話は切れた。

 「誰、山田?」とヨウコが聞いてきた。
「そうだけど、小さい男に気をつけろ、だってさぁ」
「あれ?」ヨウコの視線の先、カウンターの端っこに小さな男が座っていた。目が合うとニヤッと笑った。
 
 俺たちは直ぐに席を立ち、支払いを済ませた。小さな男の視線が絡みつくなか、外にでて直ぐに、タクシーを捕まえて、ホテルの名前をドライバーに告げた。
ラジオから流れるレゲーに合わせて歌っているドライバー、タクシーのバックミラーを見ると、小さな男は道路に立って俺たちを見送っていた。

マイアミのバー

マイアミの熱い夜
 ホテルへ着くと、アドレナリンの放出でさらに眠れない。
ロビーの椅子に座ったヨウコが言う
「ねぇ、私の部屋へ来る、色々聞きたいのでしょう」
[うん、分かった」俺はヨウコに見つめられるとイエスとしか言えない。

 部屋に入ると、シャワーも浴びずにヨウコとベッドに倒れ込んだ。
この状況に入り込んだのは何時からだろう。
沖縄恩納村からだ。あのときのドタバタを思いだした。

 とは言え、何時ものようにヨウコと過ごす夜でもあった。
「ねぇ、楽しくない?」ヨウコは笑って言う。
「まあなぁ」
「ところで、アレは持ってきたの?」
「あれねぇ」
事の始まりは7月の沖縄旅行からだった。

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「今回は恋愛なのミステリーなの」
「両方だなぁ」
「続きは?」
「まず沖縄だ」

50年目の七夕 番外

50年目の七夕 本編








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