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彼女のおかげで、あなたの作品を読みたいと思った。

ほんの感想です。 No.32 広津柳浪作「雨」 明治35年(1902年)発表

樋口一葉作品の影響で、明治期の貧困が、他の作家は、どのように描いているのか、興味を覚えるようになりました。ちょうどよい具合に、広津柳浪の「雨」という短編を知り、読んでみました。

広津柳浪は、永井荷風が入門した小説家であり、深刻小説(あるいは悲惨小説)と言われる作品を書いていたそうです。しかし、これまで、読んだことはありません。代表作とされる「変目伝(へめでん)」と「黒蜥蜴」のあらすじに、「無理」と感じたからです。

今は、樋口一葉のおかげで、広津柳浪作品を読む準備が整った、と思っています。

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舞台は、東京の貧民窟のある長屋。もう、十日間も降り続く雨が、人々の日雇い稼ぎを妨げています。さらに一週間も雨が続けば、米屋や、酒屋・質屋への打ちこわしが起きるのでは、と不穏な噂も伝わっています。

この長屋に住むお八重を、お志米という娘が別れを告げに訪れます。長雨で稼ぐことができず、地方の茶屋へ働きに行くというのです。

お八重は、お志米に、「自分も、三年間八王子の茶屋で酌婦として働いていた」、と明かします。父が亡くなり、遊び好きな母の借金のために売られたのです。「その後、吉松と知り合い、二人で借金を返し、所帯を持ったのだ」、と話し、お志米を励まします。

しかし、長雨の影響で生活が苦しくなるのは、お八重と吉松の夫婦も同様でした。そこに、お八重の強欲な母、お重が登場し、娘に激しく金を無心します。妻の母のために金を都合しようとした吉松は、・・・・・。

お話しできるのは、ここまで。

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お八重を訪ねたお志米は、六畳一間に上がり口の二畳が付いた借間を、「広い」と羨みます。三畳一間に七人が暮らす、彼女の家と比べれば、確かに広いと感じられたのでしょう。 

お志米は、借金のために自由を奪われる世界へと赴きます。その境遇から自由を取り返したお八重は、成功者と言えます。しかし、必死で掴んだと想像されるその成功は、長雨と実の母により、簡単に危険にさらされてしまうのです。夫婦の転落に向けて、とどめとなったのが、夫吉松の善意、と言う点がやりきれない。

いつもなら、静かに作品の世界を受け容れるのですが、「雨」に対しては、少々言わせてください。

「お重の悪婆キャラクターに対し、お八重と吉松にも、もっと屈強なキャラを与えて、お重に立ち向かわせて欲しかったです」。

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何を好んで、人が苦しむ様を、小説で読みたいと思うのか。それは、私自身が持つ、生きる上での不安感による気がします。その不安感は、まだ、漠然としか思い描けないので、もう少し「深刻小説」と言われる作品を読んでみたいと思います。

ここまで、読んでくださり、どうもありがとうございました。

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