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生きるほど悲しいことは色々あるけれど、いよいよ華やぐ私の命

最近「楽しい」の感度が鈍い、という方へ、小説の一片を!

ご紹介するのは、岡本かの子作「老妓抄」から。
「老妓抄」は、長年の芸妓生活でそれなりに財産を成し、仕事も選べるようになった現役芸妓、平出園子のお話です。人生の大ベテランの園子を「老妓」と呼び、命を燃やすための探求に懸命な老妓の様子が描かれています。

この作品は、経緯は思い出せないのですが、「お金持ちの老妓が、若い男を囲い、度々逃げる彼を追いかける物語」と思い込んでいました。フランソワーズ・サガンの短編にみられた「ジゴロとの時間を楽しむお金持ちの老女」をイメージしていたのです。

今回、読んだことで、そんなイメージは、きれいに修正されました。
確かに「お金持ちの老妓が、若い男を囲い、度々逃げる彼を追いかける」ことは描かれていました。しかし、主人公が若い男に求めたものは、想像していた「一時の暇つぶしの相手」というものではなかった。

老妓が、生活の面倒をみている若い男に、彼女が望むものを話したときのことでした。男は、「そんな純粋なことは、今どきできもしなけりゃ、在るものでもない」と笑い飛ばします。しかし、彼は、その後すぐに、老妓が、その望みに傾ける、真摯で膨大な熱量に気付き、恐れをなすのです。

「老妓抄」から読み取れたものは、「限られた命に対し、完全燃焼でもって死を迎えたい」という老妓の願い、そしてそれを実現しようとする彼女の情熱でした。死への意識とともに、そのように願う人の悲しみ、願いの実現を追求する凄み、そして、新たな発見がある喜びを感じました。その集約と言えるのが、本作の最後に、老妓の最近の歌として掲げられた、次の歌です。

年々にわが悲しみは深くして いよいよ華やぐ命なりけり

お立ち寄り頂き、ありがとうございました。

物語の一片 No.16 岡本かの子作「老妓抄」


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