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男がつらいと、女は大変だ!「 二人比丘尼色懺悔」by 尾崎紅葉

第2回 尾崎紅葉作 二人比丘尼色懺悔
発表1889年(明治22)

こんにちは。今回、悪戦苦闘した作品は、尾崎紅葉のデビュー作、「二人比丘尼色懺悔」です。「物語の巧みさと艶麗な文章で圧倒的な人気を獲得した(広辞苑)」と言われる作家の、華麗な文体に苦しみながらも、切れのよい物語の展開に、びっくりしました。

あらすじ


旅の若い比丘尼は、山中の庵に一宿した夜、偶然に庵主の比丘尼に宛てられたらしい手紙を読む。
その後、二人は、互いの身の上を語り合い、ある男を通じた悲しい縁があることを知る。

読むきっかけ

作品を読了していくためには、まず、明治時代の文章を読むことに慣れる必用があるように思えました。そのため、できるだけ発表年順に作品を選ぶこと、そして、同じ作者の作品は中・短編から読み、長編は文章に慣れてから読むことにしました。
以上から、二葉亭四迷『浮雲』の次に、尾崎紅葉デビュー作『二人比丘尼色懺悔』を選びました。

こう読みました

本作を読み進める上で、物語の種類、「確かめたい」の推進力、紅葉の野心作という3つのポイントが、大きな推進力となりました。

ポイント1 物語の種類
尾崎紅葉は、本作の作者曰(注意書きのようなもの)で、「この小説は涙を主眼とする」と述べています。
また、ニッポニカ(電子辞書に搭載)岡保生解説により、本作が「情趣深い悲哀小説として好評を博し」たことも知りました。
「涙するほど、読解できるのか」という問題もありますが、喜劇に比べて、悲劇は、筋を追いやすいと思い、読み始めました。

ポイント2 「確かめたい」の推進力
本作は、①「発端 奇遇の巻」で偶然に出会った二人の比丘尼が、実は、縁ある者であることを予感させる内容が描かれ、
②「戦場の巻」「恨言の巻」「自害の巻」で、二人の縁がいかにできたのかが描かれます。
以上の構成により、①で自分が予感した内容を、②でしっかり確かめたい、という欲求が生まれ、①よりも読解が難しい②の文章を読み進めることができました。

ポイント3 紅葉の野心作
本作には、作者自ら記載した序文と作者曰が付されています。
序文には、
・作家としてのシェイクスピアへの意識や
・硯友社の同人5人(共に硯友社を結成した丸岡九華、山田美妙、石橋思案と、続いて同人となった巌谷小波、川上眉山と思われる)は、本作には肯定的ではなく、不評が彼らの耳に入ることは困る、ということを、ユーモアを交えて書いています。

加えて、尾崎紅葉は、作者曰に、「雅俗折衷おかしからず。言文一致このもしからず。」との考えから、「一種異様な文体」を創出した旨を記しており、本作で作者が大きな挑戦に挑んだことがわかります。

作者の、この自負と高揚感に、否が応でも内容への期待が高まりました。

感想

二人の比丘尼がその境遇に至った経緯は、気の毒とは感じられますが、それ以上の気持ちにはなれませんでした。
その理由は、男の立場や心持ちの方に、つい共感した結果、二人の女たちを「仕方ないよね」みたいな目線で見てしまったからだと思います。
読解力の難から、読み落としが相当あると思われるので、再読し、男の運命の理不尽さや、彼自体の問題らしきものに発見があれば、比丘尼たちの身をよじるような苦しみや悲しみが、もっとわかるような気がします。

創作のヒント

本作は、一人の男を軸に、彼と二人の女の出来事が各々描かれ、最後に、それらの出来事が大きな悲劇を成したことがわかる、という構成といえます。
物語の時代や場所、敵対関係の背景など、悲劇の前提となる情報がほぼ省略されているため、本作を読むだけでは、落涙とまではいきませんでした。
しかし、余計な情報がない中、ただ三人で悲劇を紡ぎだすというシンプルさは、ショッキングで、劇的な効果を上げていると感じられました。

こう書いてきて、ついこの構成のバリエーションを考えてしまいました。
次のものですが、何のことはない、既存の作品で多くみられることに気が付きました。失礼しました!
・より理不尽な世界観の下での、悲劇的運命、その遺志を継ぐ人々の物語
・あるデーモン(悪霊)的人物と、それに絡まる人々の奇異な運命の物語
・ある出来事に関わった、個々には未知の複数の人々が、ある人物により繋げられる物語
・ある人物に関わりのある複数の人々の言葉が、ある人物の秘められた実像を露にする物語

第3回は、2021年2月21日 森鴎外作「舞姫」の投稿を予定しております。 


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