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自民党の「憲法改正草案」の極度に「あざとい手口」

図像:古賀誠『憲法九条は世界遺産』(かもがわ出版)、吉永小百合さん
(https://twitter.com/intheblue_1995/status/1106467207314206720

 2週間前に「自民党が憲法に『緊急事態条項』を取り入れようとしていること」の恐ろしさを指摘しました。それに続いて今回は「第9条 戦争の放棄」の改定案について考えてみます。

 まず、日本国憲法の改定に関して自民党は「4つの『変えたいこと』」(https://www.jimin.jp/kenpou/proposal/)という表題を掲げて、つぎのように記しています。

 「憲法は制定・施行されてから70数年間、1回も改正が行われていません。大きく変化した国内外の環境に合わせて、憲法にもアップデートが必要ではないでしょうか」

 その上で「日本国憲法の3原則は変えません」と言うのです。
 その「3原則」とは「国民主権、基本的人権の尊重、平和主義」だと言います。が、来週以後に、少し詳しく記しますが「これらはすべて虚偽である」というほかないことが判明するはずです。

 さて、自民党が「変えたいこと」の最初に提起しているのは、
 「『自衛隊』の明記と『自衛の措置』の言及」
 だといいます。その上で「現状」と「改正の方向性」をつぎのように記しています。

 「現状……●自衛隊の活動は多くの国民の支持を得ている。●自衛隊について、①合憲と言う憲法学者は少なく、②中学校の大半の教科書が違憲論に触れており、③政党の中には自衛隊を違憲と主張するものもある」
 「改正の方向性……●憲法改正により自衛隊をきちんと憲法に位置づけ『自衛隊違憲論』は解消すべき、●現行の9条1項・2項とその解釈を維持し、自衛隊を明記するとともに自衛の措置(自衛権)についても言及すべき」

 これらを読むと、「それなりに自民党の主張は納得できそう」と考える人は少なくないでしょう。
ところが、少し踏み込んで自民党の「憲法改正草案」を参照すると、先のサイトにおける一見「穏やかに見える提案」とは似ても似つかぬ条文が記されていて、びっくり仰天せざるを得ないのです。
(https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf)
 ここで改めて思い出しておくべきは現行の「日本国憲法」の「第二章 戦争の放棄」の条文です。

 「第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」

 これを自民党はどう書き変えたいのかを、つぎに検討してみます。

 自民党の「日本国憲法改正草案」では「第二章」の「戦争の放棄」が「安全保障」になっている。その上で第9条(平和主義)は、
 「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。②前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」

 ここで「戦力と交戦権の不保持」は割愛され「自衛権の発動」が書き加えられる。これが「自衛隊の明記」に該当するらしい。

 これに続けて「第9条の二」では「自衛隊の明記」ではなく「国防軍」が明記され、その定義が下される。

 「第9条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。
3 国防軍は、第一項に既定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる」

 この条文は、新たに定義された日本の国防軍を世界の任意の場所に派遣して戦争行為に従事させることを可能にする。もとより、あらゆる「戦争行為」は表向き必ず「自国の防衛」か「国際平和の維持」を目的として行なわれてきたからだ。と言う意味で「戦争の放棄」という理念は明らかに棄てられてしまっている。

 多くの人の目に触れそうな自民党の「4つの『変えたいこと』」には一見たいした問題になりそうにない甘言を並べて、実際の「改悪後の憲法草案」には「海外派兵を含む戦争行為を可能にする条文を書き込む」というのは実に「あざとい行為」だというほかあるまい。
 ここで念のために「あざとい」の意味を記しておくと、「思慮が浅い、小利口である、押しが強くて、やりかたが露骨である」といったあたりに落ち着くであろう。実に「汚い手口」なのである。

 さらに一点、「(領土等の保全等)第9条の三」で「国は主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない」と記している。

 ここで忘れてならないのは、このことを実現するには「日米安保条約に付随する(米軍の)地位協定」の破棄が必要不可欠となるという点である。この点に関して自民党は何も言及しない。

 ところで自民党は、現行憲法は「連合軍に押しつけられたもので、その改正は立党以来の悲願だ」と言う。が、これも明らかな虚偽なのだ。というのも「押しつけ憲法か否か」について衆議院憲法調査会(現・憲法審査会)は2005年の報告書に「国民の圧倒的支持を日本国憲法が受けてきたことは明確」と記されているのである。

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