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日の名残り を読んで 再読の可能性を著作に見る

今回も、書評です。
前回の「小説の読み方」が役に立つかも、と少しだけ思いながら読んでみました。

少し前にこの書籍は購入していたのですが、なんだかんだで(苦笑)読んでいませんでしたが、やっと読めたという感じです。

では、書籍のメタデータを貼っておきますね。

今回も読書ノートからの書評ですので、小理屈野郎の読書ノート・ローカルルールの凡例を以下に示しておきます。

・;キーワード
→;全文から導き出されること
※;引用
☆;小理屈野郎自身が考えたこと


書名 日の名残り
読書開始日 2022/06/15 17:59
読了日 2022/06/17 15:38

読了後の考察

老執事が語るように物語が進んでいく。
老執事の丁寧なしゃべり方、最初は少しうっとうしいような感じを受けていたが、徐々に慣れてきたのか、途中から非常に快い感じがした。
執事が語る、以前のご主人様(ダーリントン卿)のエピソード、そのエピソードをそのままたどってもなかなか含蓄のある話のように聞こえたが、これらは何らかの含意を持っているのではないか? と考えることも出来るのではないかと考えた。
含意を持っていると考えると、単に筋を追うだけではなく、現在の社会の成り立ちや仕組みなどにも鋭く切り込んでいる ような気がした。
複層的に楽しめる、と感じられた。
そういう意味でも良く出来た作品ではないかと考えた。
氏の作品は、追って色々と読んでみるのも面白いかも知れない。
また、執事などのシステムがどのようになっているのかについて著作を半分程度読み進んでいたということも、理解の助けになっていたのではないかと考えた。(もちろんそこまでの理解がなくても十分に理解は出来ると思われるが)

概略・購入の経緯は?

どの著書か忘れたが、カズオ・イシグロ氏のこの著書が薦められていたため購入。
その後「夢をかなえるゾウ 0」でも話題になった。
「短い旅に出た老執事が、美しい田園風景の中古き良き時代を回想する」とのこと
ブッカー賞受賞作でもある。
そして著者はノーベル文学賞を獲っている。
ノーベル文学賞の作者は、川端康成など何人か読んでいるが、久しぶりの気がする。
一度読んでみよう。

本の対象読者は?

小説の好きな人
イギリス社会に興味のある人

著者の考えはどのようなものか?

・老執事

ダーリントン卿に仕えていたが、どうやら亡くなったようで、その後ダーリントン・ホール(お城)は、アメリカ人のファラディ氏に所有が移った。
かなり没落しつつあるお城の執事、というのが現在の状況。
往年はかなり隆盛を極め、この執事も執事としては十分な実力を持っていた。

雇主に対して批判的な態度をとりながら、同時に良いサービスを提供するということは、現実にはとても可能とは思われない

→☆世の中の出来事を吟味する、という姿勢は完全に封印している。そういうやり方もあるのかも知れないが、それでは自分が伸びるところも伸びられないような気もするが…これは時代背景ということもあるかも知れない。

執事が命あるうちにどなたかのお役に立とうと思うなら、いつかは主人捜しをやめるときが来なければなりません。そして「この雇主こそ、私が公器だと思い、賞賛してやまないすべてのものを体現しておられる。今後は、この方へのご奉仕に私のすべてを捧げよう」等いるときが来なければなりません。

→☆ある程度落ち着かないと、そして精神的な支えがないと成長できないということか。
そして身のほどを知る、ということの大切さを知ることでもあるのかも知れない。

・景色

老執事は短い旅に出るが、その途中で何回かきれいな景色を見ることになる。
これは、イギリスの良いところを見せているとともに、過去の栄光を意味しているのではないか? と考えた。

・品格について

品格について非常にたくさんの紙幅をとって、老執事は説明している。

長年にわたる自己啓発と経験の注意深いつっみかさねで、それを身につけていく。
時代によって変わってくる。以前は博識もその範疇に入っていた。
自己の尊厳とお客様への服従を完全に両立させる
自らの職業的あり方を貫き、それに耐える能力(中略)自らの職業的あり方に常住し、最後の最後までそこに踏みとどまれること。

→☆これは一般的に仕事をするときにも通用する話ではないか?品格というか、仕事をするものの心得として考えることも出来るのではないか。こういう風に考えられる場面がこの品格についてだけではなく、何度もあった ので含意が非常にある作品と考えた。

→自分や周りの人の大事なことよりも、使えている人の行事などを最優先する。これは個人の仕事観の問題か。
☆昔はこれで通用したが、これからはこれが通用しないのではないかとも思われた。

→爵位に囚われずに、人間としてフェアであるとか正義を守っている、そして世界に良い影響を与える人に仕えたいと思っている。

「理想主義的な」動機が、随所で大きな役割を果たした

→☆個人の生活において、理想主義的な動機というのは個人的には大事だと思う。しかし最近は、新自由主義的な、損得勘定的なことだけで動くことをいとわない人もたくさん出てきている。どこで、どうすればそのような発想になってしまうのかはっきりしないが、それに対しても問題提起しているのではないか?

・貴族とアマチュアリズム

貴族が、実際の政治の裏側で筋道を立てて政治は動いていた、という観が第2次世界大戦まではあったようだ。
それに対してアメリカ的感覚では、アマチュアである、そしてアマチュアが政治を動かしていける時代ではなくなった、と喝破している。
しかし、ダーリントン卿はあくまでもそのアマチュアリズムにこだわった。そしてそのアマチュアリズム、というのは騎士道のようなフェアな考え方につながると思われた。
現在の世の中もフェアな考え方より新自由主義を謳歌しているようなところがある。それに対する痛烈な批判とも受け取ることが出来る だろう。

・ミス・ケントン

元々ダーリントン卿時代に務めていて非常に惹かれる(恋愛的な意味ではなく)女性が、結婚をして地方に引っ越した。その人に会うために旅行に出ている、というのがこの物語の仕立て。
結局彼女に会うことが出来たが、彼女は彼女でそれなりに満足した生活をしているようだということが分かる。
時間というものが色々なものを変えるある意味の無常観を味わう ことになる。
しかし、これがときの流れ、というものだろう、というほろ苦さみたいなものも感じた。

その考えにどのような印象を持ったか?

複層的に色々なものが見えるので、どこまでを作者が狙ったのかが分からないが、おそらくこのように読者が複層的に捉えられたら、作者としては満足ではなかろうか。

印象に残ったフレーズやセンテンスは何か?

普通選挙にいつまでもこだわっていられるほど、今の世界は単純な場所ではない
強い指導者に行動の機会を与えれば、どれほどのことが出来るかをな。普通選挙だなんだという戯言は、あの国々では誰もいわない。
執事の任務はご主人様に良いサービスを提供することであって、国家の大問題に首を突っ込むことではありません。
大問題を理解できない私どもが、それでもこの世に自分の足跡を残そうとしたらどうすれば良いか?自分の領分に属する事柄に全力を集中する

→☆これは現代社会から考えるといささか古くになっているのではないかと思われる。
また、社会に起こっている問題について一定の距離を置き、考えないようにしているとも受け取れる。ある意味イギリスの階級社会を匂わすような気もする。

類書との違いはどこか

古典的な読み方の出来る英語文学
→☆英文学、英語文学というジャンルの考え方について解説文に書いていた。こういう視点を持っていなかったので斬新に感じた。

関連する情報は何かあるか

イギリスの執事システムについて

まとめ

ジェフ・ベゾスがこの小説を愛読書としているとのことだが、おそらく彼の見えている世界と、自分の見えている世界はおなじ著作を読んでも全く違うのではないかと思われる。
彼がどのように理解しているかというのはあまり知りたくもないが、そんな感じを受けた。


この書評、ある意味一面しか捉えていないと思っています。なんだか読み方を変えるともっと色々なことが見えてきそうな気がしています。
要するに再読する価値のある本 ということではないかなと思うのです。
ちょっと抽象的に見えるので、何回か読むことによってその印象を変えながら、その作品を楽しみ、そして含意をとれると良いなと感じました。

久しぶりにもう一度時間を空けて読みたいなと思う著作でした。

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