【第9話】ハイブランド・ジャーニー
12月23日。
仕事を終える19時に「お疲れ様でした」と家路を急ぐ。帰宅してすぐ着替えて事前にまとめておいた荷物を持ってまたすぐ家を後にした。
もちろん、彼へのクリスマスプレゼントだけは忘れずに。
僕にとって、初めての恋人とのクリスマス。
楽しみと、ほんの少しの不安を混じらせながら、彼に会いに、片道三時間かけて東京へ向かう。
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初めてのクリスマスとはいえ、僕たちはまだ一回しか会ったことがない。
そんなふたりが恋人としてどんな夜を過ごすのか。しかも同性同士で。外に出たらきっと東京なんか男女のカップルで溢れているんだろうなと、想像してみたらちょっと不安だった。
名古屋まで乗る地元の列車には、僕以外誰も乗車していなかった。「今から向かうね」「気をつけてね」そんなやりとりをしながらぼんやりとただ車窓越しに景色を眺めていた。
こんな田舎者が東京まで遠距離恋愛をしているなんて、誰が想像するだろうか?親も、誰も知らない。僕でさえ不思議な感覚だ。
僕のなかだけで世界は動いている。誰もが自分のストーリーの主人公。自分のなかで掟破りとなっていた同性同士の恋愛に拍車がかかる。
新幹線のなかも、ほとんどガラガラだった。ウイルスが蔓延しているご時世だからか、東京駅に到着すると構内も人が少なく思えた。
「到着したよー!何処に行けばいい?」
彼にメッセージを送ると、すぐに電話がかかってきた。地下にある改札で待ってくれているようだった。まだ東京駅のことを知り尽くしてない僕は、彼が指示する通りになんとか辿ってゆく。
「どこ?どこ?」と言いながら改札口を通ろうとすると、まさかのすぐ目の前にいた。ぜんぜん視界に入ってこなかった。だってまだ一回しか会ったことがないし、二ヶ月ぶりだったから、彼の顔がどんなだったかも正直記憶が曖昧だった。そんなカップル、普通ありえる?基本的にテレビ電話はしないふたりである。
「お疲れ様」
いつも電話で話しているからか、実際に会うのは二回目でもぎこちなさは感じられなかった。でもお互い人見知りだから、まだちょっと照れが残ってたかも。
関係性は「恋人」。「本当に僕たちは恋人としてクリスマスを過ごすのかな?」と変な感じがしてならなかった。
東京駅から彼が住む駅まで30分ほど移動する。電車には、人が少ないとはいえ普段乗る田舎の列車とは違ってちらほらと人が乗っていた。
彼らの目には僕らがどんなふうに映っているのだろうか?何だかつい変に意識してソワソワした。
すると、ふと下を見るとそこに彼の手が見えた。
彼はちょっとビックリしたかのように目線だけ動かして周りを見る。
「…誰かに見られちゃうよ?」
大きな手荷物を膝に乗せて手元を隠すように彼の手を握ってみた。最初はちょっと冗談のつもりだったけど、彼はそう言いながらもギュッと握り返してくれた。
”本当に、恋人になったんだな。”
寒い冬の夜、ほんのり温かい電車のなか。心のなかでそう思いながら、降りる駅までずっと手を繋いでいた。
「夜は本当にマックでいいの?」
このご時世、コンビニは開いてるけどもほとんどのお店が8時で閉まっていた。でも、マックがよかった。友達とすら、というか友達と遊びに出掛けたことなんてここ10年以上ないような気がする。なんて寂しい人間なんだろうと書いてて思う…。
だから誰かとマックを食べることができるのが、なんとなく嬉しかった。
彼の部屋に到着したころには、時計は0時になろうとしていた。ここまで遠くへ来ると、なんだか数時間前まで仕事をしてたとは思えないな。
ハンバーガー3つ、ポテト2つ、ナゲットにマックフルーリー。ドリンクも。ふたりで食べるにはちょっと多い量をシェアして食べた。もうこんな遅い時間なのにね。でもそんな罪悪感など忘れて、とにかくふたりで過ごす時間を楽しむクリスマスにしよう。そう思った。
この日の夜は彼が溜めてた録画を見て、お風呂に入って就寝した。
朝起きると、彼の第一声は「あ、、なにこれ!プレゼントが置いてある!」だった。
そう、夜中途中でトイレに行くときに、彼がいびきをかいて寝てるのを確認してこっそり机の上に置いておいたのだ。
「でもプレゼントって25日に渡すもんじゃないの?(笑)」
彼はそう言うけども、一緒に過ごせる時間は短いから、すぐにでも渡したかった。嘘。クリスマスプレゼントって25日に渡すもんなんだ?そうなの??
「かわいいじゃん」
箱から中身を出して、「巻いてみて」と言って巻いてもらった。グレーと黒のチェックに黄色のラインが入ったカシミヤのマフラー。悩んだ末に選んだマフラーだったけど、喜んでくれている様子だった。(※プレゼント購入の様子は前回記事へ)
「こっぺは何が欲しいの?」
そう言われると、パッと思いつくのは財布ぐらいだった。10年以上ずっと同じのを使ってるからそろそろ代えたいなと。でも財布かぁ〜…。どうせ買うならいつかハイブランドの財布が今度はほしいな〜なんて思っていたから、さすがに遠慮して他のものを考えようかと思ったけど…
結局ほかに何も思い浮かばなかったからとりあえず「財布」と言ってみた。すると、
「どこの(ブランド)?ヴィトン?コーチ?」
と聞いてきた。はい?
正気か?冗談か?
向かった先は新宿高島屋だった。
嘘…、ハイブランドのお店なんて初めて入るんですけど???
向かう先は、ルイ・ヴィトン。
入った途端、「本日は何をご覧になられますか?」と声をかけられた。さらに「本日担当致します〇〇と申します」と物凄く丁寧な自己紹介から入った。ルイヴィトン、、凄い…!
これが普通なんだろうけど、庶民として生きてきた僕からすればとんだ場違いではないかと冷や汗をかきながらどうしてよいものかと紹介してくれるいくつもの財布をただただ拝見…。
10万超えェ
「一旦考えてまた来ます。」
ウロウロすること小一時間。
「こっぺ、そろそろ決めないと間に合わないよ?」
夕方からはイルミネーションを見に行く予定になっている。事前にとある場所の入場チケットも用意してくれていた。さあどうする?
悩んだ末、ジミーチュウのお店に行くことにした。
「前からちょっと気になってるブランドだったんだよね」
実はこんな話を出掛ける前に話していた。「デザインは好きな方がいいと思うよ?」と彼はさらっと言ってくれたが、ジミーチュウも、言っとくけどハイブランドだぞ。
ジミーチュウのお店にたどり着くと、一人の女性スタッフが声をかけてくれた。
「お探しのものはございましたか?」
訪れる前にホームページを見て気になる財布がショーケースに入っていた。
「これ、見てもいいですか?」
小さな星(☆)のスタッズが散りばめられている。ジミーチュウならではだけど、派手すぎずオシャレで今季限定のネイビーカラーで一目惚れした。いろんな商品を紹介してくれたけども、それにしか目がいかなかった。
「これがいいの?」
「え?あ、うーん…」
店舗に訪れたはいいものの、やはり金額が…。彼にプレゼントしたマフラーのおよそ2.5倍…。思考がやはりそこにいってしまう。しかし、
「これがいいんじゃないの?いいよ別に?」
スタッフが少し離れてるすきに彼は僕にクレジットカードを差し出す。
「パスワードはね…」
カップルだと思われないようになのか、あらかじめカードの暗証番号を教えてもらい、本当にいいのだろうか…とためらいつつ決済へ進む。
「ありがとう…」
少し小さめのショッピングバッグを震えながら持つ。これは絶対失くせない…。本当にこれ、頂いていいのだろうか…?
手が震えながらもとにかくちゃんとどこにも忘れないように握りしめて、新宿駅のロッカーに預けた。
ちなみに彼は、社長でもお金持ちの家の息子でもなんでもない。「今までハイブランドなんて誰にも買ってあげたことないよ!」と言っていた。「でもこっぺには不思議と買ってあげられたな〜」とも。
「その代わり来年は大したものあげられないからね?(笑)」
さり気なく来年も一緒に居る仮定にしてくれる。
そういえば一度だけ彼に「一途だよね」と言ったことがある。すると、「それはこっぺがじゃない?」と言った。
彼はもともと「人と付き合う」ということに興味を持ってなかった。あまり恋愛にいい思い出がないのかもしれないけど、深くはもう聞かないでおこうと思っている。
「そんな俺をこっぺは振り向かせたんだからね。自信持っていいんだよ?」
冗談含みにちょっと上から目線でそう言った。
僕はまだそのときは「付き合っている」って実感がなくて。だからこんなプレゼントを本当に頂いていいものなのかと、後々になって変な重圧がのしかかってくる。
来年も一緒に居るのかなぁ?
そんな期待と不安とともに想像を膨らませながら、これからイルミネーションを見にとある場所まで電車に乗って移動する。
───次回、クリスマス【後編】!
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