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ぼっち the ランナーのbots!! ALONESOME RUNNER

0’00’00

夜7時。俺はジョギングをスタートした。
LEDライトを点け、スマートウォッチのランニングメニューをポチポチする。
本当は、就寝時間が遅くなるのでもっと早く動き出したいのだが、やはり、その誰もが狙う逢魔が時、ランニングコースは犬と犬の散歩者の社交場になっていて、そんな聖域を我が物顔で直進する身勝手さは持ち合わせていない。だから、犬たちと入れ替わるように走り出す。といっても、すべての犬たちは帰宅したわけではない。ぽつぽつ残っているのは犬が遊び足りないのか、意図的にラッシュアワーを回避するオフピーク派の主人の性質なのか。俺には分からない。

0’07’51 / 1km

スマートウォッチがブブブと鳴った。
遅い。どうしても環七の交差点で止まらざるを得ず、最初の1キロはタイムロスをしてしまう。
なぜ走るのか。友人から一緒に走ろうよ!と勧められたのがきっかけだ。そもそも興味ねーしなんで一緒になのかもわからない。いつもならそんな見当違いのことを持ちかけられると「なにそれライフハック?(笑)ライフハック72~なんちゃって。えわかんない?ハック8×9=72」と、泡のように消える会話のひとつになるところだが、そうならなかったのは47才なりの停滞状況が横たわっていたのだった。不眠。骨折による運動不足。体重はライフタイムベストの77キロ。在宅勤務で1000歩も歩かないのにビールを飲みラーメンを啜るという摂取カロリーオーバーによる背徳感。

0’06’58 / 2km

そいつはジョギング中に音楽を聴いているという。俺は何も聴かない。何も聴かないと、無秩序に過去や妄想が現れてくる。元カノと行った初夏のアウトレットは鳥浜で、生温い風に将来の不安を感じたこと。子供の頃に聴いたFM福岡のUSA for AFRICAの長時間特番で今何かすごいことが起こっている!と興奮するも今思えばやり手の番組販売、ビジネスだったんだな。過去の事多め。

ラジオや音楽やポッドキャストがあってもいいかもとは思うが、頭皮から汗が流れる環境に、電線をゴムで覆った安定性のないイヤホンというのはいかにも相性が悪いし想像したくない。皆、ジョギング後は拭き掃除をしているのだろうか。日本は狭い住環境が由来で、イヤホンやヘッドホンがドメスティックに進化したという。しかしカナル型もダメだしカダルカナル型もダメだ。身体にその寄る辺を頼らないイヤホンが開発されたら喜んでゲットしたい。

0’06’50 / 3km

衛口川区には河沿いにジョギングコースが設けられている。支払い過ぎの税金の元を取るべく日夜利用しているが、上流になるほど街灯の間隔が長くなる。つまり手抜きの中抜きだ。どうせ「夜利用する人は少ない」という想像力を欠いた前提に則って建築計画が立てられているのだろう。もう、ひと昔前の常識は通らない。

闇の中、焚火のように浮かび上がる一角がある。お祭りだろうか。
結界のような中古車販売店の万国旗が庇うのは、化石燃料で動く型落ちのガソリン車たち。同じく石油由来のビニール製の旗は厳しい日光で劣化し、風に抵抗する力を失っている。風見鶏のようにバタつくそれは色も抜けていて、廃墟の遊園地のようだ。「布なんかで作ってらんないヨ笑、安いし軽いし水にも強い、但し経年劣化は加速度的でゴミになっても何世紀も分解されないけどサ」とりあえず目先のコスパだけを考えたケチケチ精神の本部から送られてきたものだろう。分かるよ、本部。ケチケチになるのも仕方がない。景気は30年悪い。
照明はLEDではなく白熱灯で暖かみがある。子供の頃から変わらないその光景は、ノスタルジーではなく、変化することができない墓場のような寒々しさを感じる。俺はこの2023年現在、産業革命の時代を生きているのか。Steel&fossile。化石燃料と鋼鉄の延命。

0’07’07 / 4km

左手に「スクラップ買取」の大きな看板が見える。明日は資源ごみの日だった。俺は缶を潰す。アルミ缶回収のおっさんのために。500ml缶の真ん中を潰し上下も平らにする。さらに残った三角の突起も体重をかけ潰し平らにする。できるだけ薄く、薄く、コンドームとまでいかないが体積をミニマムに。
アルミのおっさんたちと受け入れ業者の関係は法的にグレーなのだろうか。クロだとしたらその法はおかしい。よく「法的に云々」ぬかす連中がいるが、それは自分に自信がないから法を持ち出すだけ。法は不完全な人間が作った非常に不安定なものなのに。例えば法律が変われば連中は自己が保てなくなるだろう。ダサすぎる。
ゴミ捨て場の缶回収箱「資源は区の財産です」という嫌味な印字を横目に、そんな時間とコストがあれば社会保障に充てろと思うが、とにかく俺は缶を潰す。一週間でこれだけ酒を飲んだというまとめ申請報告、後ろ暗い気持ちを正当化しようとしているだけかもしれない。

ある日、ゴミ捨て場でアルミのおっさんと遭遇した。
おっさんは、いい加減なゴミの出し方によって散らかったゴミを分別していた。
こぼれたゴミをビニールにまとめ口を縛り、ペットボトルのフィルムを剥がし、風に飛ばされた段ボールを一カ所にまとめる。
「清掃中失礼します」と念じながら俺は近づいた。
彼は脱兎のごとく去ろうとしたが「入れますよ」とバケツほどのアルミ缶をガラガラと引き渡した。
おっさんは無言で闇に消えた。

0’07’27 / 5km
平均ペース 0’07’14
最速 0’06’15 / km
時間 0’36’16
カロリー 368kcal
歩数 5,930歩

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