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●早川義夫著『ぼくは本屋のおやじさん』<ちくま文庫>(初出82)

【過去の投稿です】


早川義夫さんが書店主を経験しているのは知っていたが、どうしてもミュージシャンとしての認識が強かった。でも、特にファンという訳でもないから、その人と成りまでは諒解していなかった。

逆に本書を読んだ事で早川さんの人間性に触れられた。早川さんが街の本屋経営を始めた経緯は「座っているだけの仕事に思えたから」だそう。つまりアクティブな理由ではない。

しかし、実際やってみるととんでもない世界だった。注文しても注文通りに書籍が来ない。どころか不要な本が来たりする。かと言って返品すると取次店等の心証が悪くなる。つまり下手に出ないと上手く経営を回す事ができない。数量を捌く大型書店は優遇され、中小書店に対しては対応もぞんざい。早川さんは自ら買い付けに走るが、買い付けも思うままにならず。他人事ながら読んでいて忸怩たる思いだ。

本書内容の7割方は、書店経営の不合理な現実に対する嘆きだ。元ミュージシャンの本屋というと、とても趣味的なセンス溢れる世界が創られていると思いきや、現実は厳しいのである。

それでも早川さん、お客さんを巻き込み「読書手帖」なるミニコミを作成。また、気の合う書店主と様々な企画を立てていた様子。ただ、その辺りの「頑張り振り」はサラリと流してらっしゃる。多分そういった事を書くのが恥ずかしいんじゃないだろうか。とてもシャイな方なのだ。

文章も、愚痴を連ねている割には読みやすく、尚かつさりげなく金言にも触れられる。ミュージシャンだけに感性の人なのだ。

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