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レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.65

【過去の投稿です】

[74枚目]●ボニー・レイット『ギヴ・イット・アップ』<ワーナー>(72/98)

※本文を書くに当たり、小倉エージさんのライナーを大いに参考にしています。

SNSの効用のひとつは、音楽ファンとの交流から得られる未聴音楽の情報だ。ボニー・レイットの名前は知っていたし、YouTubeで検討すればおおよその事は判るものの、やはり生の意見を聞いた方が早い。ブルース好きの人が、ボニー・レイットのオススメ盤として必ずと言っていいほど上げておられたのが本盤だった。日本盤として初めてリリースされたのもこれとの事。但し、デビュー盤ではなくセカンド・アルバムとなる。小倉さんもライナーでボニー初体験と書かれているので、当初は大きな話題を呼んだというほどでもなかったのだろう。日本でのCD化は90年が最初。私が持っているのは、98年<フォーエヴァー・ミュージック>シリーズの一環。

とにかく、抵抗なくスイスイ聴ける。ブルースに精通した上で体現化出来ているのを感じる。ゆえに、ブルースにとらわれ過ぎずにブルースにリンクしている音楽を取り入れている面白味がある。ヴォーカルも無駄な力みがなく、飾らず真っ直ぐで好感が持てる。

ボニーは、カリフォルニア州バーバンクの生まれ。父親は、ミュージカル・コメディーのスター、ジョン・レイット。その為、ハリウッドとニューヨークを行き来する生活で、最終的にハリウッドに落ち着く。両親は熱心なクエーカー教徒で、父親が旅回りの一座に加わっている9歳~15歳の間、教徒の子供たちが集まるサマー・キャンプでボニーは過ごしていた。キャンプ地はニューポート近くにあり、フォーク・フェスティバルを通してフォーク・ソングの世界に触れ、更に12歳頃からは、フォークよりブルースに熱中していったとの事だ。因みにクエーカー教徒は、急進的な活動に身を投じる人が多く、ボニーにもその影響があるのか、本盤は、師と仰ぐフレッド・マクダウェルの他に、北ベトナムの人民に捧げると銘打っている。しかしながら、政治的な歌詞の曲があるわけではない。

ブルース浸りの中ケンブリッジの大学に入ったが、中退してフィラデルフィアで仕事をする一方、プロシンガーを目指しクラブでも歌っていた。一旦ケンブリッジに戻り、白人ブルースマン、ジョン・コーナーと一緒に歌うなどして徐々に頭角を現してゆく。ケンブリッジ~ボストン~ニューヨークと活動の幅を広げ、<ワーナー>との契約に至った。1stは、白人ブルースマン、ウィリー・マーフィーのプロデュースで、相棒フリーボの他に、ジュニア・ウェルズやA.C.リードも参加しているとの事。音を聴きもしないのに判断してはいけないだろうが、色々調べた結果、2ndよりブルース度が濃いようだ。逆に言うと、ボニー・レイットらしさというのは2ndで醸されたのではないだろうか。

①いきなり、時代を巻き戻すようなナショナル・スティール・ギターのスライドが流れる。しかし、ブルースの沼には向かわず、ナチュラルなサウンドに続く。途中からクラリネットやホーンが幅を利かせるのは親父さんの影響だろうか。ある種の"レビュー感覚"を感じる。もっとも、ライナーに拠れば、この時期のブルース系ロック・ミュージシャンはオールド・ジャズをサウンドに取り入れる傾向にあったらしい。いずれにしろ冒頭の一曲にふさわしい。②も自然に展開していく。キャロル・キングを想起。③ニュー・オーリンズの歌姫、バーバラ・ジョージのヒット曲。ペタペタスタスタしたドラムに、極端なメリハリはないが、ゆらゆら揺れるN.O.サウンドだ。④爽快な歌声を聴かせるボニーだが、微妙な哀切感を孕んでいる(全体的にそうだけど)。⑤アルバム全体のバランスは崩さないながらも、重量感のあるブルース。⑦ジャクソン・ブラウンの作品。ストーンズ調のルーズなロックンロールだ。⑧フレッド・マクダウェルと同じく交流のあった、ブルースウーマン、シッピー・ウォレスの作品。シッピーはテント・ショーの経験などもあるので、ボニーとは音楽的に重なる部分があったのかも知れない。⑨全ての楽器がパーカッシヴに躍動するボニー作品。サンタナぽいかな?⑩エリック・カズ作品。哀愁と温もりを感じる。

私は、この時期のアメリカン・ロックの知識がほとんど無いので、参加メンバーの名前を聞いてもピンとこない部分があるのが正直なところ。ただ、小倉エージさんの丁寧なライナーを読んで調べてみると、ここに登場しているミュージシャンが新鮮味に溢れているのに気が付く。グループ名で上げ申し訳ないが、ハングリー・チャックの1stが72年、オーリアンズの1stが73年、私がこのアルバムで名前を知り、後にアルバムを2枚買うほど気に入ったエリック・カズの1stが72年、参加はしていないが曲を取り上げているジャクソン・ブラウンの1stも72年、ハープで参加のポール・バターフィールドは、65年~71年までのブルース・バンドの活動を経て、73年にソロ作を出す直前だ。この他は、盟友フリーボを初めとする友人たちが参加している。若くして才能のあるミュージシャンが集まり創り上げたアルバムだけに、渋みを沈殿させながらもフレッシュな感覚に満たされている。それが名盤として残り続ける所以だろう。

① Give It up or Let Me Go

② Nothing Seems to Matter

③ I Know

④ If You Gotta Make a Fool of Somebody

⑤ Love Me Like a Man

⑥ Too Long at the Fair

⑦ Under the Falling Sky

⑧ You Got to Know How

⑨ You Told Me Baby

⑩ Love Has No Pride


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