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●アン・ピーブルズ『ディス・イズ・アン・ピーブルズ』<ハイ/ウルトラ・ヴァイヴ>(69/19)



【過去記事です】

※本文を書くに当たり、鈴木啓志さんのライナーを参考にしています。

メンフィス・ソウルのレジェンド・レーベル<ハイ>を代表する歌姫、アン・ピーブルズのファースト・アルバム。オリジナルは69年。今回購入したのは、当初<ウルトラ・ヴァイヴ>が13年にリリースした<ハイ>のシリーズを基にして、19年の<名盤1000円シリーズ>として出された物。その為、2種類の帯が付けられているのが特徴。

私は、アン・ピーブルズと言えば「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」を一番に連想する。彼女の全体的イメージもその1曲に集約してしまっている感がある。曰く、しっとりとしながらもクールな、日本の歌手ならいしだあゆみと言った所だ(歌唱部分は別として)。もちろん、熱唱曲が無い訳ではなく、総合的にメンフィス・ソウル・シンガーらしい歌手である事に異論はない。

しっとりイメージを念頭に置くと、本盤はかなり戸惑う。ほとんど全編スピード感を持ったアップテンポなソウルなのだ。ひとつの要因は、ジーン・"ボウレッグス"・ミラーが主体的に関わっている点だろう(アンはミラーの楽団で歌った縁でミラーの助力を得<ハイ>デビューした)。後の名参謀ウィリー・ミッチェルとプロデュースを分け合い、総合プロデューサーはミラーになっている。ところが、本盤のセールスは芳しくなく、ヒット曲「パート・タイム・ラブ」が生まれた後同一タイトルでリリースされた2枚目のアルバムに、本1stから非ミラー作品だけ再録されるという、いわくつきの作品である。いみじくも、鈴木さんがライナーで、ミラー作品に比べミッチェル作品は、「ファンキーより端正さ」「ゆったり感」という表現をされており、そのまま後のアン・ピーブルズのしっとりイメージに繋がるなぁと思った次第。

「スピード感」という言葉を使ったように、「チェイン・オブ・フールズ」「レスキュー・ミー」「リスペクト」といったカバー曲もオリジナルよりテンポアップした印象。ハスキーな歌声で、決めどころでは押しの強さも目立つアンの歌唱は、ティナ・ターナーを連想する瞬間もある。ただ、歌唱全体が青いというか硬い為、余裕や豊かさより、ヒリヒリした感触を受ける。
演奏陣は流石である。タメの効いたドラムに饒舌なベースが基礎となり、ギター、ホーン、女性コーラスなどが過不足なく絡む。贅沢な言い方をすると、型が決まり過ぎていて変化に乏しいと言えば乏しい。なので、アン・ピーブルズの魅力を知る者が聴けば愉しめるが、初めて聴く人が愉しめるアルバムとは言い難いのも事実である。


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