『ゴッドファーザー(上)(下)』(マリオ・プーヅォ著・一ノ瀬直二訳)を読んで…あらすじ・映画との比較・疑問 -第4回-

第2部(上)
〇12~13
ジョニー・フォンティーンはドン・コルレオーネの庇護のもと、ハリウッドでの映画出演を実現させることが出来た。ジョニーにとって、今は前妻のジニーや二人の娘たちと共に過ごす時間がとても大切であった。一方、アカデミー賞主演男優賞受賞に向けて、コルレオーネ・ファミリーの援護が続く。 (P293~P362=映画ではシーンなし)


〇ヴィトー・コルレオーネの力でハリウッドでの映画出演を実現させることができたジョニー・フォンティーンの、その後は?
〇ジョニー・フォンティーンの、アカデミー主演男優賞獲得の行方は?そして、裏で何が?

                 12

 ジョニー・フォンティーンは、さりげなく執事に手を振り、「じゃあ、ビリー、また明日な」と言った。ジョニーは、シャロン・ムーアという、チャーミングでウィットに富んだ女優を夜の食事に招待していた。シャロンとは、彼がウォルツの映画に出演している際に知り合った。
 ジョニーは、若くて美しい女の子は奇麗なドレスに目がないのと、デートの時にはかなりよく食べることを知っていたので、たくさんの食べ物と、酒の類をふんだんに用意しておいた。彼は酒と、あらかじめ用意してあった食べ物をすすめた。食事が終わると居間にシャロンを案内した。
 ジョニーはシャロンの隣に座ると、取りとめのない話を交わしながら、彼女がどんなタイプの女性なのか、考えていた。二人は身を寄せ合い、親しげにゆったりとソファに座っていた。ジョニーはシャロンの唇にキスをした。友だちにするような、乾いたキスだった。彼女はそれ以上の反応を示そうとはせず、彼もさらに進もうとはしなかった。彼女はジョニーに何か歌ってほしいと言ったが、彼は声の調子が良くないこと、自分のレコードも聞くのにうんざりしているとことなどを話した。 
 ジョニーは立ち上がってシャロンのブランデーグラスに注ぎ足すと、金の頭文字の入ったタバコを渡し、ライターに火をつけて彼女に差し出した。ジョニーは片手でグラスを持ち、空いたほうの手をシャロンの膝の上に置いた。それは少しも邪心のない温もりを求める子どものような無邪気な仕草で、やがてその手は絹のドレスを引き上げ、金色で薄地の網ストッキングの上の、乳白色の太ももをあらわにした。それを目にしたとたん、これまでの有り余るほどの数と歳月と慣れとにもかかわらず、ジョニーは、ねばっこく温かい液体が全身にひろがっていくのを感じた。奇跡はまだ起こるようだ。しかしもし、彼の声と同じようにそっちまでだめになったとしたら、ジョニーはいったいどうしたらいいのだろうか?
 ジョニーの準備はできていた。象眼模様のカクテル・テーブルの上にグラスを置くと、身体をシャロンのほうに向けた。彼は自身にあふれ、落ち着き払い、しかも優しかった。またその愛撫には、少しも好色じみたいやらしいところがなかった。彼は唇を彼女の唇に重ね、両の手を胸の上にはわせた。やがてその手は、絹のような温かい太ももへと降りて行った。シャロンが返す口づけは、情味こそあれ情熱的ではなかったが、今のジョニーにはその方が心地よく思われた。スイッチが入ると急に、エロチックな電流が全身をめぐり、身体をくねらせはじめるような女は好きになれなかったのだ。
 シャロンの反応は一風変わっていた。彼女は指先も口づけも、すべて受け入れていたが、やがてジョニーの口づけをのがれると、身体をソファにそって軽く後ろに押しやり、グラスを手に取った。それは冷静で、しかも断固とした拒否であった。時々あることだった。まれにではあるが、そういうこともあったのだ。ジョニーもグラスを取り、タバコに火をつけた。
 シャロンは陽気に何事かしゃべっていた。「あなたのことを嫌いってわけじゃないのよ、ジョニー。あなたは私が考えていたよりずっと素敵だわ。それにわたし何も気取っているわけでもないの。ただ男の人とそうするには、わたしもその気にならなければならないの。私の言うこと、わかってもらえるでしょう?」「つまり、ぼくが相手じゃその気にならないってことだね?」
 シャロンは少しどぎまぎした。「あのねえ、あなたが一世を風靡していた時には、わたしはまだほんの子どもだったのよ。実際にはわたし、次の世代の人間なんだわ。もしあなたがジェームス・ディーンとか、わたしが一緒に育った時代の人だったら、わたしもその場でパンティを脱いでしまってるわ」シャロンは愛らしく、ウィットに富んでいて、しかも賢かった。
熱が冷めるにつれて、ジョニーは気が楽になった。彼は酒をすすり、太平洋をながめやった。彼女が言った。「怒っていないわよね、ジョニー」「怒ってなんかいないよ」と彼は言った。二人はもう一杯酒を飲み、何回か形ばかりのキスをかわし、やがてシャロンは帰ることにした。
ジョニーの前には長い夜が待っていた。今では映画の仕事も一段落し、これからはもっと子どもたちと遊ぶ暇もできるだろう。ジョニーはもう一度、以前の生活にもどってみたかった。彼は受話器を手に取った。「やあ、ジニー。君、今夜は忙しいかい? ちょっと寄ってもいいかな?」「いいわよ」彼女は言った。「でも、子どもたちはもう眠っているの。起こしたくないんだけど」「それはかまわないよ、ぼくは君と話がしたいだけなんだ」「話って、大変なこと?何か大切なこと?」「いや、別に」ジョニーは言った。「今日撮影が終わってね、君と会って話がしたくなったんだ。それに子どもたちの寝顔もちょっとのぞいてみたいし」「わかったわ」彼女は言った。
 ジョニー・フォンティーンは、かつては自分も住んでいたビバリー・ヒルズの家に着くと、しばし車を止めて様子を見つめていた。そして彼は、自分の人生を思いどおりに生きてみる、と言ったゴッド・ファーザーの言葉を思い出していた。
ジョニーは居間へ行き、彼女はコーヒーと手作りのクッキーを持って来た。「ソファに横におなりなさいな、とても疲れているみたい」彼女が言った。
「おかしいわ」「おかしいって何が?」彼は訊き返した。
「偉大なジョニー・フォンティーンにデートの相手もいないなんて」
「偉大なジョニー・フォンティーンももうお手上げなのさ」
「あなた、何かあったのね?」
 ジョニーは、シャロンとのことを話した。「そんなくだらない女なんかほっときゃいいのよ」驚いたことに、ジニーの顔を怒りの色がかすめすぎた。「そうやってあなたの興味を引こうとしたのに決まってるわ」本気で腹を立てているジニーの様子を見て、「いや、いいんだよ」と彼は言った。
「映画はどうなったの?ちょっとはあなたのためになるかしら?」彼女が尋ねた。ジョニーはうなずいた。「うん、ぼくをまた元どおりにしてしてくれるだろうさ。もしアカデミー賞でも取れて、余計なヘマさえしなけりゃ、歌など歌わなくてもうまくやっていけるだろうね。そうしたら、君や子どもたちにももっと金を渡せるんだ。それにもっと子どもたちにも会いたいし、毎週金曜日の夜にここで夕食をご馳走になってもいいかな?絶対にすっぽかしたりしないよ。どこにいようと、どれほど忙しかろうとぼくはその日には飛んでくる。それにできるかぎりここで週末をすごしたいし、子どもたちにもできたら、休暇の何日かはぼくと一緒に過ごしてもらいたいんだ」「わたしはかまわないわよ」と彼女は言った。「わたしが再婚しないのも、あなたにあの子たちの父親でいてもらいたいからですもの」ジニーはさらりと言った。「ところで、誰がわたしのところに電話してきたと思う?」「誰だい?」「あなたのゴッドファーザーよ」ジョニーは目を白黒させてしまった。「彼は電話で話をしない筈なんだがな、で、君に何って言ったんだい?」「あなたの力になってやってくれって」
 ジニーが言った。「あなたはまた元どおり有名になるが、今度は信じあえる人間が必要なんだって、そう言ってたわ。どうしてわたしが、って訊いたの。そうしたら彼は言ったわ、あなたがわたしの子どもの父親だからって。本当に優しい方なのね、うわさではひどく恐ろしい人のようだけど」そして今、キッチンの電話が鳴っていた。「ジョニー、あなたによ。トム・ハーゲンから、大切なことですって」ジョニーはキッチンに行き、電話をとった。「やあ、トム」トムは、ゴッドファーザーの命令で、撮影が終わった段階でジョニーを助けられるよう手はずをととのえることになったこと、明日の朝の飛行機でロサンゼルスに行くので迎えに来てほしいこと、その日のうちにニューヨークに戻らなければならないことを電話で伝えた。「分かったよ、トム」ジョニーは言った。居間にもどると「ゴッドファーザーがぼくのために何か計画してくれているらしいんだ」と彼女に説明した。疲れていそうなジョニーの様子をみてジニーが言った。「今夜は家に帰らずに、来客用の寝室でおやすみになったらどう?子どもたちと一緒に朝食が食べられるし、こんなに遅く車を運転して変える必要もないわ」ジョニーが言った。「君の寝室で寝るわけにはいかないのかい?」ジニーの顔に赤味がさした。「だめよ」そう彼女は言ってほほ笑みを返した。二人は元のとおり友人のままだった。
 翌朝、ジョニーの二人の娘たちが朝食用のワゴンを押して入ってきた。娘たちはあまりに美しく、彼は唖然としてしまった。二人はもう、枕の取りあいや高い高いをしてもらう年頃は過ぎ、髪の毛にもちゃんと手入れが行き届いていた。
「すぐに支度をしたほうがいいわ」とジニーが言った。「ああ」ジョニーが言った。「ところでね、ジニー、ぼくはもうじき離婚しようと思っているんだ。いずれまた自由の身に逆もどりさ」
 ジニーは彼に上着を着せてやり、娘たちと一緒に車道に停めてある車のところまで送ってきた。ジョニーはとても幸せそうで、彼女にもその喜びが伝わってくるみたいだった。

 PR関係の人間や助手たちによって、すべての手はずはととのっていた。PR係りの男がトム・ハーゲンを迎えに行っているあいだ、ジョニーは車の中で待っていた。トムが車に乗るや二人は握手を交わし、彼らはジョニーの家へともどってきた。
 やがて、居間にはジョニーとトムの二人だけが残った。「ゴッドファーザーが私を寄こしたのは、君に力を貸すためなんだ」とトムが言った。「それもクリスマス前にはすべてを片づけなきゃならないんだ」ジョニーは、撮影が終わったこと、映画の中の自分がどのような印象をみんなに与えるかによってすべてが決まることを話した。
 トムが注意深く訊いた。「このアカデミー賞ってやつは、俳優という職業にはひどく大切なものかい?それとも、実際には大して意味のない宣伝の一種なのかね?」ジョニーはにやりとした。一つのアカデミー賞で俳優が10年飯が食えること、みんなが注目すること、今度はチャンスがあるかも知れない
 ことを、トムに話した。しかしトムは、ゴッドファーザーが今の状況では賞を貰うチャンスがないといっているとジョニーに伝えた。ジョニーは怒りをあらわにした。トムは心配そうに彼を見やりながら言った。ドンがジョニーのこと、そして将来のことを心配していること、まだ助けがいること、今度こそ問題を根こそぎ片づけてしまおうとしていることを。ジョニーは言った。「しかし、ぼくがアカデミー賞を獲れないってことがどうしてゴッドファーザーにわかるんだろう?」
 トムが言った。ジャック・ウォルツがジョニーを候補に推さないための圧力をかけている情報をつかんだこと、ウォルツの策謀は全部つぶすことができるとドンが言っていること、オスカーはきっとジョニーのものになるだろうこと、ジョニー自身がプロデューサーになるべきであることを。ジョニーは言った。「いったいドンはどうやってぼくにオスカーを獲らせようというんだろう?」
トムは鋭い調子で言った。ウォルツにできることがゴッドファーザーにできないことがないこと、映画界のすべての労働組合やほとんどすべての投票者を支配すること、ドンが動き出さないかぎり、ジョニーには勝算がないことを。「わかった」とジョニーは言った。トムはぶっきらぼうに言った。「オスカーを獲ったら、君自身がプロデュースする作品を3本から5本用意するんだ。そして、そのために必要な最高の人間、一流の技術者、一流のスターを集めてくれ」ジョニーは、2千万ドルはかかると答えたが、「金がいるときは私に連絡してくれ、ドンは悪い評判があることには、君を巻き込まないよう指示を出している」とトムが言った。ジョニーは笑みを浮かべ、「オーケー」と言った。
 二人はジョニーの車に乗り込み、飛行場に向かった。ジョニーは思ったよりもいい奴だ、トムはそう考えていた。ジョニー自らが彼を飛行場まで送ってくれた。自発的な思いやり、これこそがドンがいつも心していることだった。それからジョニーは、ドンを恐れない数少ない人間のひとりだった。トムが知っている人間のうちでそう言えるのは、多分ジョニーとマイケルの二人だけだろう。
ジョニーはトムを飛行場で降ろしてからジニーの家にもどってきた。考えをまとめ計画を練るにはジニーのところが一番だった。ジニーは、客用の寝室を彼のために用意してくれた。ジニーが用意してくれたコーヒーを飲み終えると、ジョニーは今晩から早速仕事に取りかかり、電話をいくつかかけ、将来の計画を立てるつもりだと言った。彼は椅子に背をもたせかけ、自分の映画の第一作目に予定しているニューヨークのベストセラー作家に電話をかけ、以前彼の作品のおかげで大役をもらったことのお礼を言った。そして次の小説はどうなっているか、またどんな内容かを尋ねた。「うーん、そりゃいい!できたらぜひ読ませていただきたいですね。コピーを送ってくれませんか―ひょっとしたらウォルツよりもいい条件で買い取ることになるかも知れませんから」ジョニーがそう言うと、作家は声を熱っぽくさせて、さすがに目が肥えているとジョニーに言った。次にジョニーは、撮影が終わったばかりの監督やカメラマンに電話をかけ、世話になったことのお礼を述べた。
 次の電話が一番肝心であった。ジャック・ウォルツに電話した。彼はやはり映画の礼を言い、これからも一緒に仕事ができたらどんなに嬉しいだろうと言った。むろん、彼を油断させるためのものだった。2・3日して、ウォルツはこの策略に気づき、仰天することだろう。それこそまさに、ジョニー・フォンティーンが狙いとするところだった。
 ジョニーは、彼を取り巻いてきた女たちについて回想しながら疲れ果て、ベッドにもぐりこむばかりだったが、一つの記憶が彼の頭から離れようとしなかった。それは、ニノ・バレンティと歌をうたっていた頃の記憶だった。そして急に、彼はドン・コルレオーネを喜ばせる最上のものに思い至った。彼はニノに電話をかけた。「やあ、ニノ、こっちへ来てぼくといっしょに仕事をする気はないかい?」「うん、いいな、考えてみよう」ニノが言った。「おいおい、冗談じゃないんだぜ、ニノ。ぼくはすぐに君が必要なんだ。明日の朝にでも飛行機で来てもらって、契約してもらいたいんだ。」ジョニーが言った。
長い沈黙が訪れた。それからニノは言った。「引き受けたよ、ジョニー」

                 13

 ジョニー・フォンティーンは大きな録音質の中に座り、黄色紙のノートに費用の計算をしていた。音楽家たちが次々と入ってくる。ポップス音楽の伴奏では一流と言われる指揮者、エディ・ネイルズがジョニーへの好意からこのレコーディングを引き受けてくれた。ニノとジョニーがコニー・コルレオーネの結婚式で歌った掛け合いデュエットに、専門的な工夫を施してくれた。ジョニーがニノに言った。「今日いい仕事をしてみろ、ハリウッドで最上の女を君に用意してやるよ」ニノがウィスキーをあおった。「女って誰だい、ラッシーかい?」「ディーナ・ダンさ」「ラッシーはどうでもだめなのかい?」
休憩と打ち合わせを入れて、彼らはおよそ4時間の仕事をした。ジョニーはニノをかかえるようにして彼のアパートへ帰って行った。 
 ニノが目を覚ますと、ジョニーは必要な知識を彼に教え込んだ。「このパーティは映画スターのロンリー・ハーツ・クラブと呼ばれてるんだ」彼は説明した。「いいか、ニノ、今夜はあまり酒を飲むんじゃないぜ。ハリウッドの女たちに相棒がからきし意気地がないなんて思われたらことだからな。女の中には映画界に顔のきく奴もいる。そいつらから仕事をもらうことだってできるんだからな。とにかく愛想よくしているんだ」   
 ハリウッド映画スターのロンリー・ハーツ・クラブは、毎週金曜日に、ロイ・マックエルロイの、撮影所所有の宮殿のような屋敷で開かれることになっていた。ロイは国際映画会社のPR顧問のような仕事についていた。
 新しい映画の上映は真夜中に行われ、ジョニーとニノは11時に到着した。ロイ・マックルエルは歓声を上げ、ジョニー・フォンティーンを迎えた。「いったいなんでまたこんなところに?」ジョニーは手を差し伸べた。「故郷のいとこを案内しているんですよ。ニノっていいます」
 ディーナ・ダンは二つのアカデミー賞を受けたことがあり、ハリウッドの長者番付に入っていた。ジョニーから紹介され、ニノはディーナ・ダンと邸宅内にある、映画を上映する部屋へと行った。照明が消えるとディーナ・ダンが彼の性器へ突進してきた。彼は酒をすすり画面に目を向けていたが、味もしなければ映画の筋もわからなかった。彼は今までになく興奮していた。それは、暗闇の中で彼にサービスしているこの女が、彼の青春の夢の対象であったからにすぎなかった。この世界的に有名なディーナ・ダンが十二分に満足し、ニノの後始末を終えると、ニノはゆっくりとくつろいだ声でこう言った。「うん、この映画いい線いってるみたいだな」

 ドン・コルレオーネの狙撃事件を知った時、病院にゴッドファーザーを見舞いたいと思ったが、ドンは彼に悪評が立つのを望まないだろうという理由で、足止めを食ってしまった。そこで彼は待っていた。1週間後にトムの使いがやってき、出資は今まで通りだが、映画の製作は一時一本にするようにと彼に伝えた。
 ジョニーはてきぱきと仕事を進めていった。彼は名の売れたプロデューサーを雇い入れた。ある日、そのプロデューサーが、組合の代表を5万ドルで手を打つ必要がある言った。組合の代表はビリー・ゴフという名前だった。「組合の件はぼくの友人が片をつけてくれたはずだがね」ゴフが言った。「事態は変わったんです。あんたの友人は災難に遭って、もうこんな西のほうに影響力がなくなってしまったんですよ」ジョニーは肩をすくめた。「2・3日したらまた来てくれ。オーケー?」ゴフは微笑んだ。「オーケー、ジョニー」「ニューヨークに電話したところで役には立たないと思いますがね」
 だが、ニューヨークへの電話は役に立った。電話を受けたトムは、支払う必要はない、とそっけなく言った。そしてジョニーは2・3日待ってみることにした。二晩後に、グレンデールの自宅でゴフの射殺体が発見された。
  それから何週間かが過ぎ、ジョニーは仕事に忙殺されていたが、アカデミー賞候補者の名前が発表され、その中に自分の名前を見つけた。ゴッドファーザーの影響力がなくなった今、候補者に名前を連ねただけでもましだろうと自らを慰めていた。
 新しい映画の撮影を開始する1週間前に、アカデミー賞発表の夜となった。その夜、ニノは約束どおり、まったくの素面でジョニーの家にやってきた。二人は一緒に授賞式が行われる劇場に出かけていった。
 最優秀男優賞が発表されるまでのアカデミー賞授賞式は、ニノにとって退屈きわまりないものであった。ところが、「ジョニー・フォンティーン」という名前を聞いたとたんに、彼は宙に飛び上がり、両手をこわれんばかりに打ち合わせていた。
 その後は、ジャック・ウォルツの映画が主だった賞を独占し、撮影所主催のパーティーは報道関係の人々や情欲をむき出しにした男女の俳優たちであふれんばかりだった。ジョニーの酔いはひどくなる一方で、何人かの女たちが彼の服を脱がしにかかったが、ニノは半裸にされたジョニーを肩にかつぐと、人垣をかき分け、車まで運んでいった。(明日に続く)

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