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『ゴッドファーザー(上)(下)』(マリオ・プーヅォ著・一ノ瀬直二訳)を読んで…あらすじ・映画との比較・疑問  -第10回-

    小説『ゴッドファーザー』は、“新しい発見の宝庫”だった!

第8部(下)
〇29~31
〇マイケルにドンとしての多くの教育を施していたドン・コルレオーネが突然の死を迎えた。ドンの跡を継いだマイケルは、周到な準備と計画のもと、ファミリーに牙を向けるバルツィーニやタッタリアなどの敵や、身内の裏切り者を粛清する。そして、名実ともにコルレオーネ・ファミリーのドンとして成長していく。(P349~P404=Netflix:147~173分/177分)

〇ドン・コルレオーネがマイケルに施した教育とは?

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 マイケル・コルレオーネは、不測の事態に備えてあらゆる予防策を講じていた。彼の計画は完全無欠で、その確実性には非の打ちどころがなかった。その年いっぱい準備に費やしたいと考えていたが、運命が彼の前に立ちはだかった。彼を苦しみのどん底に突き落としたのは、偉大なるドンその人であった。
  
 陽の照りつけるある日曜日の朝、ドン・ヴィトー・コルレオーネは庭着に着替え終えた。彼は、健康のためにトマトの世話をしていた。
 ドンは野菜に水をやろうと急いでいた。日差しは刻一刻と強くなっており、水をやるにはぎりぎりの時刻だった。途中、添え木をしてやらなければならない苗が2・3本あり、彼は地面にかがみこんだ。最後の列をやり終えたら、家の中にもどるつもりだった。
 それはまるで、太陽が彼の頭のすぐ上まで降ってきたかのようだった。まったく突然に、あたりは踊りまわる金色の点々におおわれた。マイケルの長男が、膝をついたドンのほうへと走ってくるが、次の瞬間、ドンはまっすぐ地面に倒れこんだ。少年は父親を呼びに、全力で走り去った。

ゴッドファーザー125ドンと孫

ゴッドファーザー68ドンと孫

ゴッドファーザー116ドンと孫

ゴッドファーザー179ドンと孫③

 もう一度息子を見ようと、ドンは非常な力で目を開いたが、彼は死の際にあった。「人生はこんなにも美しい」ドンはそうささやき、彼がいちばん愛した息子の手を握りしめながら息を引き取った。
 葬儀は荘厳にとり行われた。五ファミリーもドンと幹部を送った。ジョニー・フォンティーンは、マイケルの忠告にもかかわらず出席し、ドンが自分のゴッドファーザーであり、今までに自分が知ったうちで最も立派な人物であり、最後の尊敬を払うのを誇りに思うと新聞に声明を載せた。
 アメリゴ・ボナッセラは、彼の友人であった人を心からの愛情と丹精をこめて整えた。ロッコ・ランボーネとアルベルト・ネリは、クレメンツァ、テッシオ、ドンの息子たちと共に、柩の付添い役を務めた。散歩道と家のまわりは、花輪であふれんばかりだった。
 この家にこんなに人が集まったのは、ほとんど10年ぶりのことで、コニーとカルロの結婚式以来のことであった。パン屋のナゾリーネ、コロンボの未亡人と息子たち、そして、彼が厳格に、だが公正に統治した社会の数知れないほどの人々。そこには、彼の敵だった者さえも何人か、敬意を表しにやってきていた。

ゴッドファーザー190バルジ―二②

ゴッドファーザー205葬儀

 葬儀の日の翌朝、コルレオーネ・ファミリーの最高幹部たちは全員散歩道に集合した。マイケル・コルレオーネが彼らを迎えた。書斎は、彼らでほとんどいっぱいになった。クレメンツァとテッシオの二人の幹部、理性的で有能そうなロッコ・ランボーネ、非常に静かで、自分の位置をわきまえているカルロ・リッティ。トムは、自分に課せられた厳密に法的な役割を放棄していた。アルベルト・ネリは、具体的にマイケルのそばにいようと努めた。
 マイケルは、静かに言った。ドンがいなくなってもわれわれが計画してきたことに変更はないこと、何が起こるかじっと腰をすえて見ていること、いかなる挑発にものってはいけないこと、2・3週間の猶予を与えてほしいこと、その時が来たら、みんなのために出来得る最高の計画を実行に移すこと、最終的な会議を開き、最後の決定を下すことになることを。
 マイケルは、ネリがみんなを外へ案内した後、トムに言った。「2・3分そばにいてくれ」トムは言った。「政治的なこねはすっかり取り付けたのかい?」マイケルは残念そうに言った。「全部じゃないんだ。あと4ヶ月ほどほしかったな。…コルレオーネ・ファミリーは、みんなが思っているよりずっと強力なのさ、だがぼくはそれを絶対確実なものにしたかったんだ。今じゃもう、君にはすっかりわかっているんだろうな」トムはうなずいた。
 マイケルは笑った。「…。ぼくはここで君が必要だ、少なくともこれから2・3週間はね。…」トムは言った。「どうして君は、奴らが君を狙っていると思うのかね?」マイケルはため息をついた。ドンが教えてくれたんだ。それも誰か身近の者を通してだろうとね。バルツィーニは、誰か、ぼくがおそらく疑ってもみないような親しい者を通じて、ぼくを罠にはめようとしているにちがいない」

ゴッドファーザー192ドンとマイケル②

 トムが彼に微笑みかけた。「誰か私のような者をね」マイケルが微笑み返した。「君はアイルランド人だ、奴らは君を信用しないよ。…。ネリは警官だから、彼んところにも行かないだろう。君たち二人ともぼくに近すぎる。…それほど身近にいない者といえば、ロッコ・ランポーネか。いや、クレメンツァかテッシオか、あるいはカルロ・リッツィだな」トムは静かに言った。「私はカルロ・リッツィだと思うね」「いずれわかるさ」マイケルは言った。「遠い先のことじゃない」

 翌朝、トムとマイケルが一緒に朝食をとっている時に、書斎の電話が鳴った。マイケルが受け、戻ってきてトムに言った。「すっかりお膳立てが整ったぜ。1週間後に、ぼくはバルツィーニと会うことになった。…」
 トムは尋ねた。「誰が電話してきた、連絡をつけたのは誰なんだ?」マイケルはトムに、残念そうな淋しげな微笑を見せて言った。「テッシオさ」彼らは押し黙って朝食を続けた。コーヒーを飲みながらトムが言った。「…。テッシオだとはまったく予想もしなかった。彼は最高の奴だったのに」「それに頭の切れる男だった」マイケルが言った。トムが言った。「君はバルツィーニとの会見に同意したんだね?」「ああ」とマイケルが言った。「今晩から1週間後だよ。ブルックリンのテッシオの本拠地で」(映画ではドン・コルレオーネの葬儀の日に、テッシオがマイケルにバルツィーニとの会議を伝えた)

ゴッドファーザー86テッシオ

 コルレオーネ、バルツィーニ両ファミリーの停戦会議に先立つその週のあいだ、マイケルは注意深く過ごした。だが、一つだけ厄介な問題が生じた。コニーとカルロの長男が教会で堅信礼を受けることになり、コニーから頼まれたケイが、ゴッドファーザーになってくれるようマイケルに頼んだのである。最初は拒否したマイケルだが、ケイの強い頼みを聞き入れた。
 かくして、バルツィーニ・ファミリーとの会見の前日、マイケル・コルレオーネはゴッドファーザーとなった。カルロの家で小さなパーティが開かれ、散歩道に住む全員が招待された。コニーは感動しきった様子でケイにささやいた。「カルロとマイクは、今、本当の友だちになろうとしているんだと思うわ。…」ケイは義妹を抱きしめて言った。「わたし、ほんとに嬉しいわ」

ゴッドファーザー204

ゴッドファーザー206洗礼②

                 30

 アルベルト・ネリはブロンクスの彼のアパートの一室に坐って、古い紺のサージの警官の制服に念入りのブラシをかけていた。それは、2年ほど前に妻が彼のもとを去って以来めったにない幸せな時であった。ネリは、リタが高校生で、彼が新米の警官だった頃、彼女と結婚した。5年のあいだに、彼はニューヨーク市警察で最も恐れられる警官の一人になった。
 だが、不良な姉の息子を叩きなおす姿を見て、彼女は実家に帰ってしまった。さらに、二人の女性をナイフで傷を負わせた麻薬常用の黒人を殴打し死亡させてしまった。裁判で有罪判決を受けたネリは、はらわたが煮えくり返るようであった。一生消えない傷を負わされ、まだ病院に入っている二人の女性はどうなるのだ。
 ネリが刑務所に入ることを恐れていた義父は、コルレオーネ・ファミリーに仲裁を願い出た。コルレオーネ・ファミリーは、ネリのことをよく知っていた。彼は、法を守る警官として一種伝説的な存在で、彼そのものが人に恐怖心を起こさせ得る男として評判を博していた。クレメンツァがトムの注意をネリの件に向けさせた。クレメンツァの話を聞いて、トムは言った。「ひょっとすると、われわれはもう一人のルカ・ブラージを手に入れることになるかもしれんな」クレメンツァは勢いよくうなずいた。
 ネリは、州北部の刑務所へ移送となる寸前に、新たな情報と警察からの宣誓陳述書に基づいて、判決は執行猶予となり、彼は釈放された。ネリはリタとの離婚に同意することによって、義父に恩返しをした。彼は、恩人に礼を述べるためロングビーチへおもむいた。
 ネリは、マイケルの温かい思いやりに驚き、同時に喜ばしい気分にもなった。彼はいつも口数の少ない男だったが、マイケル・コルレオーネに対しては胸襟を開いている自分に気がついた。
 最後にマイケルは言った。「君を刑務所から出しておいて、干上がらせておくっていうのもおかしな話だ。…」ネリは言った。「助けてもらいたい時には、連絡します」「そうだ、それがいい」マイケルはそう言い、腕時計をのぞきこんだ。ネリが帰ろうと立ち上がったが、マイケルが言った。「昼飯時だな。来いよ、私の家族と一緒に食事をしよう。…」
 その午後は、両親がまだ生きていた頃以来、彼が過ごした最も楽しい午後であった。自分はやっと、自分に本当に合った人間に巡り合えたのだ、ネリはそういう思いに心を打たれていた。
 ネリが決心を固めるには、三日とかからなかった。ネリは再びマイケルを訪ね、自分の忠誠を明らかにした。マイケルは感動し、ネリにはそれがはっきりと見て取れた。マイケルは、マイアミにあるファミリーのホテルで休暇をとるよう、彼を説き伏せた。その休暇はネリにとって初めての贅沢な休暇だった。
 ネリはクレメンツァの組織に入れられ、注意深くためされた。しかしネリの本来の獰猛さは、一年と経たないうちに彼を筋金入りとならしめた。ネリは、新しいルカ・ブラージであった。そしてネリは―トムをクッションにして―直接マイケルが責任を負うことになった。トムはマイケルをからかうように言った。「今じゃ、君には君のルカがいるな」
 父親に教育される長い日々を送っていたある日、マイケルはドンに尋ねてみた。「どうやってルカ・ブラージのような男を手なずけたんですか?あんな獣みたいな奴を?」
 ドンは息子に対する教育を続けた。「この世には、殺してくれと言いながら歩きまわっているような人間がいるのだよ。…ルカ・ブラージはそういった男だったな。だが彼はまったく並はずれた男だったので、長いこと誰も彼を殺すことができなかった。…こつは、この世でこの人にだけは殺されたくないと彼が心から願う、そんな人間におまえ自身がなることだ。…そうなれば、彼はすでにおまえのものだよ」
 それは生前にドンによって与えられた最も価値ある教訓の一つであった。そしてマイケルは、ネリを自分のルカ・ブラージとするためにこれを用いたのだった。

ゴッドファーザー169マイケルとドン

 そして今、ネリは再び警官の制服を身に着けようとしているところだった。ネリは自らの意思を持って働いていた。マイケル・コルレオーネは自分にまったき信頼を置いている。そして今日、自分は彼の信頼を裏切ることがないであろう。

                 31

 その同じ日、ロングビーチの散歩道には二台のリムジンが駐車していた。カルロ・リッツィの一家がラスベガスに定住するための下調べで、休暇に出かけてゆくところだった。しかし、マイケルは、コニーの意志を無視して、カルロに特別の指示を与えていた。もう一台のリムジンは、ニューハンプシャーの両親を訪ねていくケイと子どもたちのためだった。
 前の晩、マイケルはカルロに使いを出し、2・3日散歩道にいるように、週末には子どもたちと一緒になれるだろうと伝えた。コニーはカンカンになった。コニーはカルロにお別れのキスをした。「もし二日以内に向こうに来なかったら、私、連れにもどってくるわよ」そう彼女はおどかした。
 カルロは、小さな笑みを見せて言った。「行くともさ」コニーが尋ねた。「マイケルはあなたに何の用があるのかしら?」カルロは肩をすくめた。「彼はぼくにでっかいことを約束してたんだ。…」カルロは、その晩、バルツィーニ・ファミリーとの会見が予定されていることを知らなかった。
 マイケルが二人の子どもたちを見送りに出てきたのは、最初のリムジンが発ったすぐ後だった。マイクは言った。「引きとめてしまってすまなかったな、カルロ。二日以上は手間取らせないよ」
 それから10分ほどして、カルロは散歩道に新鮮な空気を吸いに出ていった。ロッコ・ランポーネが門の警護に立っていた。「やあ、あんたはドンと一緒に休暇に行ったんじゃないのかい?」「マイクが二日ほどそばにいろと言うんでね。俺に何か用事があるらしいんだ」
 
 マイケルは居間の窓ぎわに立って、カルロをじっと見つめていた。トムが飲み物を持ってくると、ありがたく思いながら口をつけた。背後でトムが言った。「マイク、動き出さなくちゃならんよ。そろそろ時間だ」
 マイケルはため息を漏らした。「こんなに早くなければよかったのに、おやじがもう少し持ちこたえていてくれたらな」「すべてうまくいくさ」トムは言った。「私が気づかなかったんだから、誰も気づきやしない。君は実にうまく準備したよ」
 マイケルは窓から顔をそむけた。「この計画の大部分はおやじが立てたんだ。彼がどれほど切れる男だったか、ぼくにもやっとわかった気がする。でも君はわかっていたんだろうな」「あの人は特別だよ」トムが言った。「だが、これは文句なしだ、最高だよ。だから君だって捨てたもんじゃないさ」「仕上げをごろうじろだ」マイケルが言った。「テッシオとクレメンツァは散歩道にいるのかい?」トムはうなずいた。「クレメンツァをよこしてくれ、自分で指示を与えよう。テッシオには絶対会いたくないな。…。クレメンツァの手の者が彼の世話をするだろう」
 あたりさわりのない調子でトムが言った。「テッシオを罠から放してやる道はないのかい?」「まったくないね」マイケルは答えた。

ゴッドファーザー79マイケルとトム

 バッファロー市の北部、裏通りに面してある小さなピザ店はてんてこ舞いをしていた。昼食時が過ぎると、仕事もやっと一段落つき、店の主人がカウンターの所にもどると、そこに一人のいかつい感じの男が立っていた。男は言った。「一切れくれ」店主は熱くなったピザを取り出し、紙皿にのせた。だが客は、彼を見つめ言った。「あんた、胸にすごい刺青してるんだってな。シャツの衿もとから少し見えるけど、全部見せちゃくれないかね?シャツを開けてみろよ。さあ、シャツのボタンをはずして見せてくれよ」店主はじりじりと後ずさりした。客はカウンター越しに手を上げ、そこには拳銃が握られていた。引き金が引かれた。弾は店主の胸をとらえ、彼をオーブンに叩きつけた。その身体に向けて客はもう一発撃ち、店主は床にどっと倒れこんだ。男は言った。「ファブリッツィオ、マイケル・コルレオーネがよろしくとさ」彼は拳銃を店主の頭からわずか二、三インチのところへ伸ばし、引き金を引いた。店を出て待っていた車に飛び乗ると、車は全速力で走り去った。

 ロッコ・ランポーネは、門の鉄柱の一つに取り付けられている電話を受けた。「小包の用意ができたぜ」相手の声が聞こえ、電話を切る音が聞こえた。ロッコは車に乗り、ジョーンズビーチ・コーズウェイを通ってワンター駅まで行き、そこで車を止めた。彼はもう一台の車に乗り換え、小さな山小屋風のバンガローへ向かった。ロッコはドアを一蹴りして室内に躍り込んだ。赤ん坊のようにまっ裸になって、フィリップ・タッタリアは、若い娘の横たわるベッドにかがみこんでいた。ロッコは彼に4発、すべて腹部に向けて銃を発射した。それから身を翻し、車に駆けもどった。二人の部下はワンター駅で彼を降ろし、ロッコは自分の車で散歩道へもどってきた。マイケルに会いに家の中に入っていき、再び門の自分の部署についた。

ゴッドファーザー201粛清③

 自分のアパートに一人いたアルベルト・ネリは、制服の手入れを終えると、ゆっくりとそれを身に着けた。クレメンツァから彼は、新しい38口径ポリススペシャルを渡されていた。彼はどこから見ても本物の警官そっくりであった。ネリは、ロッコ・ランポーネの二人の部下が待つ車に乗り込んだ。
 55丁目が五番街と交差するところで、ネリは車から降りて、大通りを歩き始めた。彼は駐停車禁止の線上に駐車してある一台の車の運転手に、車を移動するよう合図した。そっぽを向いた運転手に「ここから消え失せろ」ネリは言った。運転手は10ドル札を取り出し、ネリの上着の内側に突っ込もうとした。ネリは歩道に戻り、指を曲げてみせた。運転手は車からおりてきた。
 「免許証と登録証を見せてもらおうか」とネリは言った。事を起こす前に運転手を追い払ってしまいたかったのだが、その望みはなかった。目の片隅でネリは、三人の男がプラザビルの階段を降りて通りのほうへやってくるのをとらえていた。マイケル・コルレオーネとの会見に行く途中の、バルツィーニ本人と二人のボディガードであった。近寄って来たバルツィーニが声を荒げて言った。「こんな時にいったいどうしたっていうんだ?」
 ネリは38口径スペシャルを引き抜いた。他の3人が我にかえって掩護にとび出すよりも早く、ネリはバルツィーニの厚い胸板に3発弾を撃ち込んでいだ。ネリは待っている車にとび込むと帽子と制服を脱ぎ捨て、チェルシー公園の近くで別の車に乗り換えた。1時間後、彼は無事ロングビーチの散歩道にもどり、マイケル・コルレオーネのもとへ報告におもむいていた。

ゴッドファーザー196ネリ

ゴッドファーザー203粛清➄

 テッシオは先代のドンの家のキッチンで待っており、トム・ハーゲンがやってきた時には、ゆっくりとコーヒーをすすっていた。「じきにマイクは準備できるよ。バルツィーニに電話して、出発するよう伝えてもらいたいんだが」
 テッシオは立ち上がり、バルツィーニの事務所に電話した。「こちらはブルックリンに向かうところだ」彼はトムに微笑みかけた。「今晩のマイクの報告が楽しみだな」トムは重々しく言った。「彼はきっとうまくやるだろうよ」戸口のところで彼らは護衛の一人に引きとめられた。「ボスは別の車で行くそうです。あんたがた二人は先に行くようにとのことです」テッシオは顔をしかめ、トムを振り返った。「なんてことだ、それじゃ私の手配が台無しになっちまう」
 その時、さらに3人の護衛が彼らのまわりに姿を現わした。穏やかにトムが言った。「私も君と一緒には行けないんだ」白イタチのような顔の幹部は、一瞬のうちにすべて理解した。彼はトムに言った。「これは仕事だったんだ。私は昔から彼が好きだった。そうマイクに伝えてくれ」トムはうなずいた。「彼はわかっているよ」テッシオは一瞬ためらい、それから静かに言った。「トム、逃がしてくれることはできんかね?古い日々に免じて?」トムは首を振った。「私にはできないんだよ」

ゴッドファーザー181テッシオ

 テッシオはコルレオーネ・ファミリー中最高の兵隊だった。人生の晩年になって、このような致命的な判断上の誤りを犯したということは、あまりにも痛ましいことであった。
  
 カルロ・リッツィはまだマイケルからの呼び出しを待っていたが、ひっきりなしの車の出入りにそわそわしていた。マイケルに電話をかけたが、まもなく会えるだろうから、もうしばらく待っていてほしいという伝言を受けた。
 ドアをノックする音がした。戸口にはマイケル・コルレオーネが立っていた。すさまじい、吐き気を催させるような恐怖で、身体じゅうの力が抜けてゆくのを彼は感じた。彼の顔は、カルロがしばしば夢に見る、死の顔であった。

ゴッドファーザー52カルロ

 マイケルの後ろには、トムとロッコ・ランポーネが立っていた。彼らは、厳粛な面持ちをしていた。カルロは彼らを居間に案内した。しかし、マイケルの言葉は、彼を不快にさせ、実際に吐き気を催させた。
 「君はサンティノの償いをしなければならない」そうマイケルは言った。「君はバルツィーニにソニーを売ったんだ。君がぼくの妹を相手にやってのけたあとの茶番だが、バルツィーニはあれでコルレオーネの者がだまされるだろうと君に言ったのかね?」カルロは、殺さないでくれと懇願した。

 マイケルは静かに言った。「バルツィーニは死んだ。フィリップ・タッタリアもだ、俺は今晩、ファミリーの過去の勘定を清算したいんだ。だから、君が無実だとは言うな。自分のやったことは認めたほうが身のためだ」トムとロッコはびっくりしてマイケルを見つめた。カルロの罪は弁解の余地のないところまで立証されているのだ。カルロは依然として答えなかった。
 「そんなにこわがらなくたっていいんだ。俺が自分の妹を未亡人にすると思うのかい? 自分の甥を父無し子にとすると思うのかね? なんといっても、俺は君の子どものゴッドファーザーなんだぜ。…君は妻や子どもたちが待つラスベガスへ行って、しかる後はわれわれとは無縁の生活を送ることになる。…だから、無実だとは言い張るな、俺の知力を侮辱して、俺を怒らせるんじゃない。誰が君に話をもちかけたんだ、タッタリアか、それともバルツィーニかね?」

ゴッドファーザー156カルロとマイケル

 カルロは答えた。「バルツィーニだ」「よし、よし」マイケルは柔らかく言い、右の手で合図した。「それではすぐに出発してほしい。君を空港に連れていくよう、車が待っているんだよ」カルロが戸口を出、他の3人がぴったりと彼に続いた。一台の車が止まり、カルロは車に乗り込んだ。

ゴッドファーザー173カルロとマイケル

 車は動き出し、門のほうへ向かった。後ろに座っている男が誰なのか確かめようと、カルロは頭をめぐらそうとした。その瞬間、クレメンツァはカルロの首にガロットを巻きつけた。そしてそにロープの端を彼は力まかせに引きしぼり、カルロの身体は踊り上がった。クレメンツァはカルロの身体がぐったりとなるまで、ガロットを締め続けた。
 コルレオーネ・ファミリーの勝利は完全であった。その同じ24時間のあいだに、バルツィーニの最高幹部二人が射殺され。八百長競馬の演出屋は帰宅後に狙い撃ちされた。埠頭の暴利金融業者二人は姿を消した後、何ヵ月か後に、沼地で発見された。
 マイケル・コルレオーネにとって、妹コニーのヒステリー騒動さえなければ、完璧な勝利であっただろう。コニーはマイケルの家へと突っ走り、ドアから飛び込んだ。「卑劣なろくでなし!」コニーは続けた。「…。彼は初めから私の夫を殺すつもりだったのよ。…新聞を読むといいわ。バルツィーニっとタッタリアと、それにそのほかにもたくさんいるのよ。ここにいる私の兄がその人たちを殺させたんだわ」「彼女を家にかえして、医者を呼んでやってくれ」とマイケルは言った。
 ケイはまだショックから覚めきっていなかった。「彼女はどうしてあんなことを言ったの?」「ちょっとヒステリーを起こしただけのことさ」マイケルは肩をすくめた。ケイは彼の目をのぞき込んだ。「あれは本当じゃないわね、お願い、本当じゃないと言って」「今度だけは、ぼくの仕事について君に尋ねるのを許し、ぼくは君に答えよう。あれは絶対に本当じゃない」これ以上、ケイは疑えなかった。悲しげに微笑みかけると、彼女はキスを求めて彼の腕の中に入っていった。

ゴッドファーザー㊵ケイ

 その時、玄関からクレメンツァ、ネリ、ロッコ・ランポーネが入ってきた。彼女の夫に向かって「ドン・マイケル」そうクレメンツァは言った。ケイは、コニーの言葉が真実だと悟り、キッチンで静かに涙を流した。

ゴッドファーザー157ドンマイケル

ゴッドファーザー207ドン・マイケル

          (続く…次回<最終回>は10/5<月>投稿予定)


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