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お母さんの知恵袋


「人に聞く前にまず調べなさい」
小学生の頃、母によく言われた言葉である。

あの頃は母に聞くのが何よりも早いと思っていた。
母は私の中で「家族の中の、絶対的存在」だった。


それが今や、私が母に
「まず調べてくれ」と懇願する立場になろうとは、
幼少期の私は予想もしていなかっただろう。


母はマジもんのアナログ人間である。
私が記憶するに、同じガラケーを10年は使っているし(もっとかもしれない)
最近はようやく手に入れた格安のタブレットに悪戦苦闘する毎日である。
「ネットで調べよう!」という発想がない為、
「ネットで調べれる」私に、なんでも聞くようになったのだ。

その上で若干不安視している点としては、
我が家は今、私以外みんな同居しているというのに、
何故だか分からないことは、全て私に聞いてくる。
家族全体の戦力が低すぎやしないだろうか?
私が幼少期母に質問していたのは、
「調べるより早い」という信頼感であったが、
今我が家は「そこにいる父や兄に聞くより、遠く離れた私に聞くのが一番早い」状況だと言うのか。
とんでも無いことである。

パズドラやドラクエはあまり詳しく無い私だが、
このパーティーで旅に出てはいけないことだけは分かる。
3人寄れば文殊の知恵という言葉があるが、あれは嘘だ。

皮肉なことに、今や私が最も信頼しているのは
「ネット」であり「デジタル」である。

一人暮らしということもあって、
自分から母に何か尋ねということは随分と減ってしまった。
私が唯一電話をして聞いた記憶といえば、
カードを作って5年間、ずっとリボ払い設定になっていた事実を知った夜くらいである。(高い布団を買わされて母に嘆くというあるあるシチュエーションが身に染みて分かった出来事だった)

ネットには、大抵の答えが載っている。
それも30秒あれば、大体のことが解決するのだ。
大変ありがたい世の中になった。

さて、話は一度逸れるのだが、
最近私の家の台所が壊れた。

2くちコンロが気に入って契約したというのに、
片方のコンロが付かなくなってしまったのだ。
生きていけないわけでは無いけれど、大変不便であった。
私は早速、ネットを駆使して解決を試みた。

『ガスコンロを分解して、○○の部分を見てみましょう』
『元栓が閉じていませんか?気づかぬうちに閉じていることがあります』

ほほーん、そう来たか。
そもそも元栓ってどこにあるのだ?
○○ってなんだ??

この時直感的に「こりゃあネットじゃ解決出来る問題じゃねえや」と悟った。
こうして私は久々に、母へ質問を投げかけたのである。

『コンロの上にあるカバーがずれているのでは?』

母のアンサーは、とんでもなく簡潔だった。
そんなことはネットのどこにも載っていなかったでは無いか。
私は重たい腰を上げて、なんとなくカバーを触ってみた。
コンロは、息を吹き返したかのように、囂々と燃えた。

母が、デジタルに、機械に勝ったのである。
これは『お母さんの知恵袋』であり『mother!知恵袋』だ。
ベストアンサーが、こんなところに潜んでいたとは。

母は大層、私に頼る機会が増えた。
だけど、私にとっても母は「困ったときのお母さん」なのだ。

私は直ったコンロで鍋を温めながら、
母の作った雑炊の味を、再現している次第である。


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