見出し画像

ご本人登場!

『まさかこのタイミングでご本人様が登場するなんて!』
テレビでも無いのに街中で、そんな驚きを経験するとは思ってもいなかった。
私がこの時感じたことといえば、焦燥である。



時は遡り、前の休日のことだ。

普段は映像の業界に身を置いている私であるが、写真の世界に関しては、
とんでもなく「ちんぷんかんぷん」である。

ただその一方で、美術館や展覧会を覗いて「ほぅほぅ」と頭の良いフリをするのはとても好きで、
店内の片隅でたまたまやっている展覧会があると、なんとなく見てしまったりもする。

先日、カメラ屋の隅で写真展覧会がやっていた。
その展覧会では4人の写真家の作品が飾ってあって、人物を撮っている方もいれば建物を撮っている方もおり、世界観は様々であった。

ブース自体は大きくなく、私は一周ぐるりと回り、例に倣って「ほぅほぅ」と賢いフリをした。
全ての作品に時間を掛けて眺める割に何も得ていない私が、
ご丁寧に作者の紹介まで読んで、ブースから出ようと思ったところである。

「こんにちは〜」

男性が私に声を掛けてきた。
スタッフかしらと思い顔を上げると、
私はつい驚き退けた。

ご、御本人様だ!!

ふた回り程年上の男性が、
ニコニコと私の方を見ている。
在廊といって、作者が作品について語る為にやってくる時間に、私はちょうどぶつかったようである。

私は自己紹介文と本人を交互に見て、
それから作品を指差した。

「この写真、外国ですか?」

安堵した私がいた。
4人の写真の中でも、1番好みに合った作品だったからだ。
男性は今まで行った外国の話と、そこで撮った写真の話をしてくださった。
私はなんというか、
頭の中は作品についてでは無く、話題を広げることでいっぱいいっぱいだった。

外国の知識すらロクにない私が精一杯頭を回転させ、質問を考えていた時である。
隣にいた男性が在廊に
「この写真は、何のカメラで撮ってるんですか?」
と聞いた。

その手があったか〜。
めちゃくちゃ賢そうな質問である。
寧ろカメラ屋の隅で話すならば、これ以外不正解といっても過言では無かった。
カメラの話で盛り上がっている2人を見ながら、私は黙って頷いていた。

ここで終われば良かったのである。

私はこの会話の途中で
薄々気になっていたことがあった。
私と在廊、それからカメラの話をする男の他にもう一名、不思議と親しげに会話に入ってくる男性がいた。
実際気付いてはいたが、気付かなかったフリをしていたのである。

在廊がもう1人いる。

間違い無かった。
確信があった。
何故なら私は既に作者の紹介文を予習済みなのだ。

私の心配は他所に会話のキリが付いた時、
外国写真の男性が「それでは」と言ってブースを出て行った。
本来このタイミングで、私も帰るべきだったのだ。

帰れなかったのは、もう1人の在廊男性が明らかにソワソワしていたからである。
狭いブースの中は、在廊とカメラ男と私だけになった。
私はその人の作品をチラッと見た。
とんでもなく困った。
それらの写真はどちらかというと身近な建物をテーマにしており、
感受性の低い私はマジで1ミリも感想が思い浮かばなかったのである。

私は古いボウリング場を指差しながら
震えた声で話しかけた。

「レトロですね」

在廊男性は微笑んだ。
私も微笑んだ。

頼みの綱にしていたカメラ男も、横で微笑んでいた。

私は小走りでアンケートボックスへ向かうと、
走り書きでアンケートを書き、ブースを去った。


帰ってとても悔やんだ。
なんと私の感受性の低いことか。
私は自らの感受性について問う為に、
この日の出来事を記録に残したのである。

今回の出来事は
在廊男性のセンスや腕の問題では無く、
はたまた突如としてコミュニケーション能力を失ったカメラ男が悪い訳でもない。

等身大で作品を見られなかった、私の問題なのだ。

よろしければサポートをお願い致します!頂いたサポートに関しましては活動を続ける為の熱意と向上心に使わせて頂きます!