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帰る場所がある

名古屋に来て5年になった。
実のところ、私は今名古屋に住んでいることが人生の設計図において、てんで予想外な出来事である。

名古屋は父の出身地で、幼少期から時々墓参りに訪れていたので縁もゆかりも無いという訳ではなかった。
しかしその頃私の頭にはマイナスイメージばかり焼き付いていて、それもそのはず当時の記憶が消極的な思い出ばかりなのである。

親があんかけスパゲッティを嫌いだと言ったこと。
雨で東山動物園に連れて行って貰えなかったこと。
同じ名字が多すぎて、全然知らない人のお墓を参っていたこと。

そんな思い出がつらつらと並ぶ中、1番の大きな理由は両親が「名古屋の人は気が強い」「名古屋は変な場所だ」と言い張っていたからに他ならない。

怒らないで欲しい。これは本当に両親の偏見以外の何でも無いのだ。
両親の言葉というのは子供にとっては本当に影響力があって、私はまんまと「名古屋は気が強い人が多くて怖い」とインプットされてしまった訳である。

墓参りに通っていたのは小学生の頃が1番多かったので、それから丁度10年経った辺りになる。
就職活動の末、なんの縁か名古屋の会社に勤めることになった。
大学には昔名古屋に住んでいた同級生が居たので「名古屋って変な人が多いの?」と聞くと、同級生は「そうだよ」と言った。
これも、ただの偏見である。
しかし偏見も多数派になると正しい答えな気がしてくる。
私は不安と共に名古屋へ引っ越すことになった。

結論からいうと、名古屋はとても良いところだった。
なんなら私からすると、良くも悪くも長年住んでいた大阪の方が面白い人が多かった。
これもまた偏見と地域差ではある。

名古屋は電車が静かだ。
大阪なんて、コロナ禍になるまで通路を挟んでお喋りしているのも日常茶飯事だった。
知らない人もまるで親戚のように話し掛けてくる。よく言えばフレンドリー。だけどパーソナルスペースに線を引いている私にとってはその一連でドッと疲れることも多かった。

音量のつまみを回したくなる都会の騒がしさは、楽しさや興味深さもあるが、私には少々刺激的だったのだ。
住めば都。
今の私にとって名古屋は住みやすい。

半年前、転職を機に大阪に帰ることも出来た。
それでも結局名古屋に残ることにした。
正直、そこまで名古屋を気に入っている自分に驚いた程である。

大阪が大好きで住み続ける人もいる。
私の場合、思い込みで大阪に住む選択を続けなくて良かったなと思っている。
多分、この機会に大阪を出なければ私は一生大阪から出ることもなかったのだろう。

もちろん大阪は今でも大好きだ。
時々無性に通い詰めた難波が恋しくなっちゃうし、
突然たこ焼きが食べたくなった時、私の求めている本場のたこ焼きが売っていないのは今でもネックである。

大阪も名古屋も好き。
ただ、自分の行動力のお陰で好きな場所が増えただけだ。

大阪の友達は会うといつも「帰っておいで」と言ってくれる。
名古屋の友達は「名古屋に居続けてくれて嬉しい」と言ってくれる。

大阪にも名古屋にも帰る場所がある。
それが今、大変幸せである。


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