見出し画像

子豚に埋もれる




大阪に子豚カフェがあるらしい。
友達から聞き、行かねばと思った。

子豚といえばブヒブヒ鳴いて、犬や猫のように共存するというよりは、どちらかというと野生み溢れた生き物である。
日本はフクロウやカワウソに留まらず、遂に子豚まで領域を広げたのだ。
子豚って!
チョイスー!!
そんなマニアックなところに手を出されると、私の好奇心も腕が鳴るってもんである。

私はその友達と早速来店の予約を取って、店に足を運んだ。

大阪に子豚カフェは2店舗あるらしい




お店は何故かお菓子をイメージした装飾に統一されており、なんとも可愛らしかった。
子豚とお菓子は一切関係ないけれど、大人なので敢えて声に出して突っ込んだりはしない。そんなガヤは品が無い。
呟く言葉は全てを含んだ「可愛い〜」のみである。

消毒をして店内に入る時、『子豚をお迎えしたくなった人への案内』パンフレットが渡された。
子豚を飼う発想が無かったので、今までの価値観を覆された気分である。
だって、子豚を飼っている人など周りに居ない。
パンフレットを手に持ちながら、「いやいや、幾ら可愛かったとしても!」なんてあしらっていた。
子豚のイメージが覆る5秒前の出来事である。

子豚は確かにいた。
沢山いた。
みんなポテポテと歩いたり、膝の上に乗って眠っている子豚が殆どだった。
その時点で私からすると「子豚ってこんなに人懐こいんか?!」という驚きでいっぱいだった。

今まで見てきた子豚は動物園や牧場くらいなもんで、お母さん豚のお腹の下あたりで落ち着いている姿しか知らなかったのだ。
その子たちが人間の膝の上で、無防備に眠っているなんて!

私たちは多少鼻息を荒くしながらも、案内された場所に大人しく座った。
子豚に寝てもらうには、足を伸ばすか胡座をかかねばいけないらしい。
普段胡座なんてかかないので足を伸ばしてみたが、周りを観察するに胡座の方が座って貰う…いや、頂きやすいようだったので、すぐさま胡座に変更した。
久々の胡座は、普段使わない関節に効く。ストレッチも兼ねているなんて何とも有難いイベント。子豚さんたちありがとう。

そうしているうちに、子豚たちは自ら膝の上にやって来てスヤスヤと眠り始めた。
初対面とは思えない懐き具合。どこかでお会いしました?
何だか余りにもイメージと違いすぎる。
せいぜい猫カフェみたいに、ご飯やオモチャで釣れば近付いてくる程度だと思っていた。
子豚たちは私の短い足のキャパなど考えず次々とやって来て、最終的には4匹が重なりながら寝てくれた。
可愛すぎる!!!母性が溢れまくりである。
当初持ち合わせていた知識とイメージ通りだったのは唯一『ブヒブヒ鳴くこと』だけだった。
子豚たちはずっとブヒブヒ鳴いている。
毛並みは結構しっかりしていて、筆にすれば墨をよく吸いそうだった。

どこかで会いましたっけ?


4匹も乗せているといよいよ股関節辺りが攣りそうになったが、足を崩せば子豚は解散してしまう。
そんな勿体無いことは出来ないので、なるべく子豚たちの睡眠を邪魔しないように身体の動きを止めるばかりだった。
気分はお母さん豚である。
いよいよ母性が爆発した私は友達に向かって口を開いた。

「そこにあるパンフレット取ってくれん?」

動けない私が目線を落としたのは、店に入る時渡された『子豚をお迎えしたくなったら』パンフレットだった。

友達は言葉に出さずとも「こいつ、飼いたくなってるやん」という顔をしていた。
そうなのだ、私は子豚を飼いたくなっていたのだ。
少なくともどのようにしてお迎え出来るのか、非常に興味が湧いていた。

どうやら子豚ちゃんは大体16万円で飼えるらしい。
ますますビックリである。
躾も出来るらしく、子豚は私が思っている何倍も頭が良いようだった。
ここまでくると豚を飼っている日本人が少なすぎる。
豚に魅了された私は頭がクラクラとしていた。
実家がもう少し広ければ、住んでる家がペット可であれば、どの子豚ちゃんを連れて帰るか選んでしまっていただろう。
現実は甘く無く、飼うスペースを持ち合わせていない私は静かにパンフレットを閉じた。
危うく理性がぶっ飛ぶところであった。


子豚カフェは30分で制限がやって来る。
店員さんが「一応、30分延長して頂けますと個室に案内出来ますが…」と言ったので、私たちは顔を見合わせた。
この子豚ちゃんたちのサービス精神に加えVIPルーム!?
ここは子豚カフェでは無く、子豚ホストの間違いでは無いだろうか!!
貢ぎたい…推し(子豚)にお金を落としたい。
私たちは迷いなく30分延長を選び、子豚ちゃんのいるVIPルームに吸い込まれていったのだった。


この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,258件

よろしければサポートをお願い致します!頂いたサポートに関しましては活動を続ける為の熱意と向上心に使わせて頂きます!