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病院に向かう途中、月がすごくきれいに見えて。

2回目の「緊急事態宣言」が1都3県に出された直後の、2021年1月10日。滋賀在住、工芸作家の真珠美(ますみ)さんは自宅近くの病院で、3人目のお子さんを無事に出産しました。

過去、1人目・2人目のときに経験していたのは、自分の実家での出産。コロナ禍で東京への里帰りを諦めざるを得ず、当初は「とにかく不安だった」と真珠美さんは話します。

そんな彼女を支えてくれたのは、2回目となる育休を取得してくれた夫・祥秀(よしひで)さんでした。

ひとり病院に向かうタクシーのなかでの、不思議な安心感。自宅で過ごすパートナーとの毎日が「思った以上に穏やか」なこと。祥秀さんの育休が明ける直前に、そのお話をうかがいました。

(聞き手・執筆/佐々木将史 編集/ウィルソン麻菜、2021年2月にインタビュー)

「不安しかない」コロナ禍の出産

妊娠がわかったのは、たしか去年の5月ぐらいでした。かなり早い段階でわかって……もちろん嬉しかったんですけど。すぐにコロナのことが心配になって、そこからもう、ずうっと不安だったんです。

というのも、上の2人、長男(りっくん)と次男(ななくん)の出産は里帰りだったんですよ。特にななくんのときは、夫も育休を取って、私の実家に2ヶ月ぐらいいてくれて。

陣痛がきても母が一緒にタクシー乗ってくれたし、生まれたあともりっくん——あのとき4歳だったかな——の相手は、夫が1人で引き受けてくれました。自分はとにかく赤ちゃんだけを見ればいい状態にしてくれて。それがすごく助かった、ありがたかったんですよね。

ただ今回はコロナがあるし、「どうしようどうしよう」って。私の実家が東京なので、移動だけで大変だし、行っても子どものお出かけも難しいし。すごく悩んだあと、里帰りは諦めることにしました。夫に今回も育休をとってもらって、自分たちだけで赤ちゃんを迎えることにしたんです。

とはいっても、やっぱり恐かったですよ。万がいち夫のいないときに産気づいたら、近所のお友達に上の子をみてもらえるようお願いして、一方で「夫が家に絶対いてくれる!」って状態で出産を迎えるために、陣痛促進剤を使った計画分娩も考えました。

でも、どれだけ準備しても本当に不安だらけで。なので予定日より前に、たまたま夫がいる日曜に陣痛が来たときは、「うわぁ!ラッキー!」って思ったくらいなんです。

“痛くて穏やか”な出産のこと

今回の産院は、コロナ禍でも夫の出産立ち会いはOKでした。ただ子どもたちは入れない決まりだったから、陣痛が来ても夫には予定どおり残ってもらって。タクシーに乗ったのが、明け方の4時半ぐらいだったと思います。

で、いざ送り出されて1人になると、不安だった気持ちが穏やかになってるかもって気づいて。いやもちろん、陣痛なのですごく痛いです(笑)。痛いんですけど、「いてて……でも夫がいてほんとに良かったな」みたいな。

だからか、すごくきれいな明けの三日月が目に入って。実は上の2人も同じ時間の移動だったけど、夏だからもう明るくて月は見えなかったんですよね。今回はまだ暗くて、「あー月がきれいだな、でも痛い、でも月きれい……」なんてタクシーの窓からずっと見てたのを、すごく覚えてるんです。

それが実は、名付けにもつながって。数時間後に出てきた男の子は、『月誠(つきなり)』って名前になりました。

生まれて少ししてから家族にも連絡を入れたんですけど、その日の夕方、夫から写真が送られてきたんです。「三男の誕生パーティーだ!」って、夫が作ったとんこつラーメンを囲んで。上の2人が楽しそうにしてて。

その様子を見たときに、「ああ、この夫とこの子どもたちなら大丈夫だな」って思いました。私が赤ちゃんと入院している間も、安心して任せられる。ありがたいなぁって。

里帰りじゃなくても「いいぞこれ」

5日後に退院して、私と三男(つきくん)が家に帰ってからは、5人の生活が始まって。といっても私はまだ動けないので、家事は基本ぜんぶ夫。「負担が多くて申し訳ない」って思いながらも、里帰りとは違う過ごし方に慣れると「これすごくいいぞ……!」って感じるようになったんです。

もちろん実家でも色々と助けてもらえたんですよ。でも、家に押しかけて頼ってることに、やっぱり気を遣うんですね。かと思えば母に対して「私たち育てたことあるんだし、そのくらいわかってよ!」って思っちゃう部分もあって。

親には素直に頼めなかったり、ありがとうが言えなかったり、思い返したら結構葛藤があったなぁって気づきました。

でも、夫はもともとが他人だって知ってるから、今回はやってほしいことを「ちゃんと言葉にしないと」って思えるし、感謝も言いやすいんですよね。チームメイトじゃないけど、フラットな関係で頼れるのが逆に居心地がよくて。

あと、夫はあんまり言わないですけど、私の実家にずっといるのはやっぱり気疲れしたんだろうなって。家事は手伝いにくいし、「りっくんの面倒だけよろしく!」って言われても、そればっかりだとストレスが溜まることもあったはずだし。今回のほうが忙しいはずなのに、今の夫はどこか穏やかに過ごしてる気がして、「ああ悪かったなぁ」って反省しました。

子どもたちにとっても、いい影響はあると思います。上の2人はお父さんといっぱい遊べるし。今1年生のりっくんは、朝の学校の準備を一緒にやってもらったり、3歳のななくんもちょっと母親べったりなところがあったのが、ずいぶんお父さんと仲良くなったり。

そうやってみんな穏やかだからか、新生児なのにつきくんまでよく寝るんですよね。夜もぐっすり眠るのを見て、「ああよかったのかも」って今は思ってます。

育休がくれた「大丈夫」という気づき

夫がいて、育休があってありがたいなって思うぶん、もしそのサポートがなかったら本当に大変だったと思います。

たとえば私、産後に身体がボロボロだったんです。「骨盤がずれてる」とか言われて、実際ほとんど歩けなくなってしまって。ずっと安静にさせてくれたので、今はほとんど回復できました。

他にも先日、ななくんが今プレで通っている幼稚園の、春からの説明会があって。私もつきくんもまだ外出できない時期だったから夫に任せたんですが、上の子どもを見ながら赤ちゃんを育てるって「自分1人ではどうやっても無理だったよなぁ」と、行ってもらって改めて気づきました。

ただ、夫自身の子育ての姿勢という意味では、あんまり変わってないなとも感じてます。家族の時間は当然すごく増えてますけど、今までも一緒に子育てしてきたし。じゃあ育休で何が変わったのかなって考えたときに、「私の見え方が変わったんじゃないか」と最近思ったんですよ。

家にいる時間が多くなっただけ、「家族と関わる夫」の姿が私によく見える。すると、「この夫なら大丈夫」と思えるから、子育ての不安がなくなっていくのかなって。

実は今回、職場の事情で夫の育休は1ヶ月で終わるんです。以前は3ヶ月だったので、それより短いのは結構不安だったんですけど、それも今はちょっとずつ「大丈夫かも」って思えるようになりました。実際、しばらくは時短勤務で仕事を調整してくれることになってます。

この出産で改めて思ったんですけど、「いろんな人が子どもに関わる」ってすごく大事。1人より2人いたほうが心強いし、周りに他の人もいたらもっといいし。

親の不安が大きくなっちゃうのって結局、「責任の大きさ」が一番の原因な気がするんです。それぞれの子に人生があって、身体も気持ちもどんどん成長していって、進路の悩みとかもあって……それをぜんぶ1人で背負うって、ちょっと重過ぎるなって思うんですね。

だからそんな感じにならない、生きやすい社会になったらいいなぁと思いますし、子どもたちも将来、パートナーと一緒に暮らすことになったら、「ちゃんと信頼関係つくって助け合うんだよ」って伝えたいです。

私がめちゃくちゃ感謝してる、この父の背中を見習うんだよって(笑)。

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※ 今回の「#大切な日が言葉になったなら」は、出産、育休の日々についてご夫婦それぞれにお話を伺っています。
こちらに夫・祥秀さんへのインタビューもありますので、あわせてご覧ください。



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