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メイバランス

あんなに食いしん坊で、なにがあっても食欲だけは落ちなかった父だが、もうほとんど固形物が食べられなくなってしまった。

昨日姉たちと夕食の時間まで病院にいた。同じ病棟の人たちはみんな、部屋ではなくロビーの大きなテーブルに着いて食事をする。けれど父は車椅子も危険なので部屋食。いつもは看護師さんが介助してくれている。

食事の時間になっても、メイバランス(小さな牛乳パックのような見かけの栄養食)しかこないので、あれ?忘れられているのかな?と思ったら、そのメイバランス1本が1食分だった。125ml。前より小さなパックになっていた。

口を開けてくれないので、姉がこっそり(といっても公認)持参した水羊羹を口に運んだらようやく口を開けてくれた。そういうことだよね。食べたいものしか食べたくないよ、それは一生変わらない。父は甘いものが、それこそ死ぬほど大好きなのだった。メイバランスはコーヒー味と書いてあり、コーヒー牛乳のにおいがしたけれど、きっと期待するほど甘くないのだと思う。もしくはまずい。

父はとても病院に恵まれ、医師も看護師さんたちもとても親身になってくれている。人生の最後に入院した病院が、とてもいい病院だったことがうれしい。遠くてお見舞いに行くのが嫌になったけれど、それだけが救い。

世の中にはいろんな病院、いろんな医師、いろんな看護師さんがいることを、父のおかげで嫌というほど見せてもらった。父がこういういい病院(働いている人が良い人で、場の気がいいという意味です。高級病院ではない)に入院できたのは、父が自分で働いて得たお金があったから。母がこつこつ医療保険を払い続けていたから。でなかったら、私たちの力では無理だったかもしれない。

父は自分がこうなることを知っていたわけではないし、元気なころは、病気になっても入院なんかしたくない、そのまま放っておいてくれ、とさえいっていたけれど、いざというとき私たちが困らないよう、自分のことは自分のお金でどうにかできるだけは残してくれていた。まだ生きているし、これからもっとお金がかかって底をついてしまうかもしれないけれど、今はすごくありがたい。





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