Yさんに言ってしまったとっさのひとこと
職場でYさんという女性と働いていた時期があった。新型コロナ対策の厳しかった頃で、昼休みを共にもせず、あまり会話をする余裕もなかったが、何かの折に彼女が男の子二人のママだという話を聞いた。ふたりのうちひとり、小学校に上がったばかりのお子さんに発達障害があって、大変な状況なのだという。わたしにも息子がふたりいて、ひとりが発達障害と言われた体験があったので、なつかしさと、大変さへの共感のようなものが胸に湧き上がってきて、とっさに
「きっと大丈夫。こんなしっかりしたママを選んで生まれて来たんだから」と言ってしまった。しまいまで聞き終わる前に、彼女の表情が冷えて、心を閉ざしてしまったのがわかった。しまった、と思ったが遅かった。
そんなコメントは、Yさんもお子さんもその問題を乗り越えて、あの頃は大変でしたと笑って振り返っている時にでもかけることばであって、今現在問題に直面して困っている人、苦しんでいる人に対して言うことではなかった。「それはあなたが選ばれたんだから引き受けなければ」だなんて、よくそんな無神経な発言ができたものだと思う。己の浅はかさが恥ずかしかった。自分がこどもの問題で悩んでいた頃、他人からの無責任なコメントくらい嫌なものはなかった筈なのに――。
子育てを終えてすっかり気楽になった外野からの安っぽい意見はさぞ不愉快だっただろうと思う。このやりとりについて謝る機会もないまま、彼女は別の会社に正社員として転職していった。
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