マガジンのカバー画像

梅すだれ

101
恋も仕事も頑張る江戸女子、お千代の物語!ですが現在、猿彦や松之助など天草の隠れキリシタンのストーリーから、雑賀の国の物語が展開中。
運営しているクリエイター

#オリジナル連載小説

27-1 梅すだれ 紀国雑賀 / 木花薫

墨絵を描かなくなったお滝は寺小屋へ行っても退屈なだけで、また通わなくなった。朝は畑の野菜の世話をして、昼は父ちゃんに見つからない場所をぶらついた。家の裏の竹林を歩いていたが、ある日飯屋の畑へ通じる坂のことを思い出した。「飯屋へは行ってはいけない」と父ちゃんから言われているが、坂くらいならいいだろう。村の人があの坂を下りていくのを見たことがない。誰も通らない道をお滝は下りて行った。

¥100

25-2 梅すだれ 雑賀

店には数人食べている客がいた。ハモは慣れた動きで座敷へ上がると、 「めしやめしや!この子たちにも腹いっぱい食わせたってくれ」 と叫んだ。その声に呼ばれておひでと呼ばれる女が茶を持って来た。そして「見かけへん顔やなあ」とタカベ親子を眺めまわした。

¥100

25 梅すだれ 雑賀

雑賀には夕暮れ前に着いた。荷下ろしが始まる前に荷物庫にいる娘二人を外へ出さなければならない。タカベはすぐに荷物庫へ行った。昨日と同じように二人は荷物庫の隅に座っていた。昨日は「父ちゃん!」と立ち上がってきたが、今日の二人はぐったりしている。朝あんなに騒いだお滝もうつむいたままだ。こんな暗いところに二日も閉じ込められていたのだから無理もない。二人を不憫に思うタカベの心は痛んだ。

¥100

24-4 梅すだれ 相模の国

次の日の朝、タカベはほかの乗組員たちよりも早くお滝とお桐を連れて船へ向かった。途中お滝が「村へ帰るの?」と尋ねると「村へは帰らねえ」と早口で答えた。

¥100

24-3 梅すだれ 相模の国

荷物庫から出ると空は真っ赤だった。ちょうど夕日が山の端に落ちていく。ここは紀国の東にある志摩の国の港、鳥羽である。 「お姫さんを二人も乗せてたから、伊勢の神さんが早う来いって船をひぱってくれたわ」

¥100

24 梅すだれ 相模の国

滝は相模の国の生まれである。生まれてすぐに母親が亡くなり、母の妹であるお網とその夫、タカベに引き取られた。お網はちょうど妊娠中でほどなくしてお桐を産み、滝と桐は姉妹同然に育てられた。

¥100

22-2 梅すだれ 肥後の国

干物屋へは毎日たくさんの干物が集まってくる。漁師たちが有明海で獲った魚を売りに来るのだ。番頭がその魚の数を数えたり目方を量ったりして買い取ると、残りの使用人たちが魚の腹を切って開く。その開いた魚を糸で結わえて竿へ干すのを庄衛門は手伝っていた。しかし生来の不器用から結わえるはずの魚のしっぽをちぎってしまう。そうすると庄衛門はめげることなくその魚の目玉をくりぬいて紐を通して干すのだった。

¥100

18-8 梅すだれ 肥後の国

朝は読経の後、字を習う猿彦の横で松之助は阿弥陀経を書き写した。字を知っているとは言え、お経の漢字は見たこともない難しいものばかり。一画一画、間違わぬように目を凝らして書いていった。

¥100