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梅すだれ

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恋も仕事も頑張る江戸女子、お千代の物語!ですがサイドストーリーの猿彦や松之助など天草の隠れキリシタンのストーリーから、姉妹の物語(浦賀→雑賀→御船)を展開中。有料連載中です。
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#オリジナル小説

29-2 梅すだれ 雑賀-旅立ち/ 木花薫

マサにお桐も一緒にと言われたお滝であったが、お桐に九州の話をすることはためらわれた。雑賀の人間だと言ってもいいほどにお桐は雑賀に溶け込んでいる。そんなお桐が聞いたこともない西の果ての九州へ行きたいと思うだろうか。お桐に言い出せないまま数日が過ぎた時、三日後に出る船で九州へ行けることになったとマサから告げられた。

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26-3 梅すだれ 紀国雑賀/木花薫

寺へ着くとお滝は以前のようにお桐の隣に座った。お桐の向こう隣に座っているお孝がお滝を見てうれしそうな顔をした。お滝が「おはよう」と声をかけると「おはよう」と返したのだが、その声の大きさにお滝は驚いた。お孝は無口で声も小さい。お桐とは喋るがお滝と話すことはほとんどない。そのお孝から歓迎するような挨拶をされてお滝はここにいていいのだと、居心地の悪さが消えたのだった。

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25-3 梅すだれ 雑賀

おふみは店の前の坂ではなくて、店の裏の畑の横にある坂を上った。紀ノ川と雑賀川に挟まれたこのあたりには村が八つある。これをまとめて雑賀荘という。げん爺は雑賀壮の西の端にあるこの村の頭をしている。

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25 梅すだれ 雑賀

雑賀には夕暮れ前に着いた。荷下ろしが始まる前に荷物庫にいる娘二人を外へ出さなければならない。タカベはすぐに荷物庫へ行った。昨日と同じように二人は荷物庫の隅に座っていた。昨日は「父ちゃん!」と立ち上がってきたが、今日の二人はぐったりしている。朝あんなに騒いだお滝もうつむいたままだ。こんな暗いところに二日も閉じ込められていたのだから無理もない。二人を不憫に思うタカベの心は痛んだ。

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24-4 梅すだれ 相模の国

次の日の朝、タカベはほかの乗組員たちよりも早くお滝とお桐を連れて船へ向かった。途中お滝が「村へ帰るの?」と尋ねると「村へは帰らねえ」と早口で答えた。

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24-3 梅すだれ 相模の国

荷物庫から出ると空は真っ赤だった。ちょうど夕日が山の端に落ちていく。ここは紀国の東にある志摩の国の港、鳥羽である。 「お姫さんを二人も乗せてたから、伊勢の神さんが早う来いって船をひぱってくれたわ」

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24 梅すだれ 相模の国

滝は相模の国の生まれである。生まれてすぐに母親が亡くなり、母の妹であるお網とその夫、タカベに引き取られた。お網はちょうど妊娠中でほどなくしてお桐を産み、滝と桐は姉妹同然に育てられた。

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23-3 梅すだれ 肥後の国

庄衛門を見るとお菊はいつものように嬉しそうに「上がりなされ」と家に上げた。庄衛門の大好物の湯葉を皿に盛って「食べなされ」と置いたが、この日の庄衛門は手を付けない。いつもなら話をする前、お菊の顔を見るよりも前に食べ始めるというのに。「腹でも壊しなすったと?」と顔色の悪い庄衛門を心配するお菊に、庄衛門は探るように尋ねた。

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23-2 梅すだれ 肥後の国

ヤズは庄衛門と同じ年ということもあって、魚を売ったあとも帰らず庄衛門の脇で話し続けることが多い。忙しく頭の中で計算をする庄衛門はいつもは聞き流してやり過ごしていたが、今度ばっかりは違った。「なんで潰れたと?」と魚を数える手を止めてヤズをじっと見るものだから、ヤズはここぞとばかりに話し始めた。

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22-4 梅すだれ 肥後の国

どうやって計算しているのかと不思議に思う番頭に、庄衛門は「頭ん中の玉が勝手に動くと」と言った。「どんな頭ん中をしとるとか」と干物屋の誰もが庄衛門の秀でた算術に一目置きながらも、相変わらず庄衛門を「不器用で大食らいの坊ちゃん」として可愛がるのだった。

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20-6 梅すだれ 肥後の国

有明海からの流れ者である与兵衛を見張っているのは天草藩の役人、源蔵である。夜明けの光に目を覚ました源蔵は与兵衛を見て仰天した。十日間も飲まず食わずでこのまま死んでしまうだろうと思っていたのに、憔悴して俯いたまま動かなかった与兵衛が目を開けて空を見ているのだ。子どもの頃に婆ちゃんから聞いた鬼が今目の前にいるのかもしれぬと、源蔵の背筋は凍り付いた。

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19-1 梅すだれ 肥後の国

村は五、六家族を一組にして七つの組に分けられていて、各組には作之助が選んだ組頭が一人ずついる。土着の天草の民や九州地方からの移住者が多い四つの組をまとめるのは大頭の太郎兵衛で、それ以外の三つの組をまとめるのがこれまた大頭の馬四郎になっている。

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18-7 梅すだれ 肥後の国

自分のしでかした罪に直面した松之助は気怠さに襲われた。これから自分はどうなってしまうのか、家族は村はどうなってしまうのか。答えなく悩み苦しみ、まるで今まさに磔にされているようであった。そんなんだから、この苦しみを分かち合えるイエスへの想いは消すどころか、ますます強くなってしまう。

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18-6 梅すだれ 肥後の国

深くイエス・キリストに心酔する松之助であったが、懸念もあった。あの集まりに一緒に行った五人のうち二人は同じ村の者だったのだ。それに加えて村は違うが埋め立て作業で見たことのある者が一人いた。

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