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梅すだれ

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恋も仕事も頑張る江戸女子、お千代の物語!ですがサイドストーリーの猿彦や松之助など天草の隠れキリシタンのストーリーから、姉妹の物語(浦賀→雑賀→御船)を展開中。有料連載中です。
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#江戸時代

23-5 梅すだれ 肥後の国

お菊は立ち上がると廊下へ出た。この廊下は中庭をぐるりと囲んだ長い廊下だ。左手に庭を見ながら足早に歩き、角を左に曲がるとすぐに右手の部屋の前で止まった。 「お義母さま、よろしいですか」

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23 梅すだれ 肥後の国

珍しい魚や数の少ない魚を番頭が買い取り、残りを庄衛門が買い取るという区分けが自然とできていった。毎日たくさんの魚の買い取りをさばいていく庄衛門であったが計算を間違えることはなかった。冴えた頭で計算しながら漁師たちとの会話も楽しむ庄衛門は、次第にこの仕事が自分に合っていると思うようになった。熊本へ売りに行くことへの未練もなくなり買取に励んで三年が経った時、買取担当の者が一人増えた。それと同じくして新しい漁村が魚を売りに来るようにもなった。干物屋の主人がまた規模を大きくしたのだと

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22-5 梅すだれ 肥後の国

御船の路上で庄衛門が干物を売るようになったために、栄太がお得意様を回って最後に道で売ろうとしてもてんで売れない。客を取られてしまっては酒を買う銭も手に入らない。困った栄太は庄衛門に熊本へ売りに行けと指導した。

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22-4 梅すだれ 肥後の国

どうやって計算しているのかと不思議に思う番頭に、庄衛門は「頭ん中の玉が勝手に動くと」と言った。「どんな頭ん中をしとるとか」と干物屋の誰もが庄衛門の秀でた算術に一目置きながらも、相変わらず庄衛門を「不器用で大食らいの坊ちゃん」として可愛がるのだった。

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22-3 梅すだれ 肥後の国

紐で魚を結わえることさえうまくできない庄衛門であったが、石でうろこを取り除いたり開いた魚を水で洗って海水に漬けたりと毎日忙しく働いた。そして三年が経ったとき魚の開き方を教わった。腹に切り込みを入れてはらわたを取り除き、背骨に沿って刃を動かして切り開き、頭を割ってえらを取る。やって見せてくれる者は一呼吸の間でやってしまうのだけれど、期待を裏切らず不器用な庄衛門にはもちろんできなかった。腹へ切り込みを入れようとすると腹を切り落としてしまうし、開くはずが身を二つに切り裂いてしまう。

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21-4 梅すだれ 肥後の国

「ぼっちゃん!ぼっちゃん!」と何度呼び掛けても目を開けることもなく息もしていない。しかしその夜は屋敷に残っていた布団の中で坊っちゃんを抱いて寝た。もう二人の坊ちゃんと使用人が何人もいて賑やかだったお屋敷では夜だろうと誰かしらの気配を感じるのが常であった。なのに音ひとつしない。坊っちゃんと二人冥土の入り口に取り残されたようで淋しさが体の奥から湧き上がってくる。お菊は布団を頭からかぶると「奥さまぁ」とすすり泣いた。

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21-2 梅すだれ 肥後の国

日が昇りしばらくすると直忠がふんどし一丁の爺やを連れて来た。死体の処理をさせるために川で行水をしていた爺やに声をかけたんだそうだ。この寒いのによくも川の中にいたもんだと言われた爺やは雪解け水で身を清めると一年間元気に過ごせるのだと濡れた体で寒がりもせずに笑った。

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21-1 梅すだれ 肥後の国

話し終わった与兵衛は空か海かはたまた原城を見通すように前を向いている。直忠は胡坐をかかずに右膝を立てた体勢でいつもの木の下に座った。右手は腰にさした刀の鍔を触っている。与兵衛が鬼に化けて襲い掛かってきても切れるようにだ。

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20-6 梅すだれ 肥後の国

有明海からの流れ者である与兵衛を見張っているのは天草藩の役人、源蔵である。夜明けの光に目を覚ました源蔵は与兵衛を見て仰天した。十日間も飲まず食わずでこのまま死んでしまうだろうと思っていたのに、憔悴して俯いたまま動かなかった与兵衛が目を開けて空を見ているのだ。子どもの頃に婆ちゃんから聞いた鬼が今目の前にいるのかもしれぬと、源蔵の背筋は凍り付いた。

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20-5 梅すだれ 肥後の国

海に面した高台で木に縛りつけられた与兵衛は、幾日も海風に吹かれて過ごした。  隣の木の下に座り込んだ役人に、 「口を割らぬか。死んでしまうと。話せば解いてやると言うとっと。」 と何度言われようと、与兵衛は原城のことを話さなかった。  全部で何人いるのか?  どこに誰がいるのか?  益田四郎はどこにいるのか?

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20-4 梅すだれ 肥後の国

朝日が顔を出し、お柿と太郎を飲みこんだ暗闇を消し去った。海が太陽をを反射して輝き始めたと言うのに、そこに不釣り合いにも横たわる与兵衛がいた。 (いたずら好きのイルカがまた死体を運んで来たと!)

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20-3 梅すだれ 肥後の国

夜皆が寝静まると与兵衛たちは海へ潜った。有明海を二里半(10km)泳げば天草に着く。皆の食料の為にと女たちが海藻を採った時、妻のお柿は誰よりもたくさん採った。泳ぎが得意なのだ。そんなお柿なら十分泳いで渡れる距離だから安心して三人で海を渡り始めた。

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20-2 梅すだれ 肥後の国

原城は有明海に突き出していて三方を海に囲まれている。南北に十二町(約1.5km)、東西に五町(約500m)の巨大な敷地だ。出身の村ごとに本丸、二の丸、三の丸を守衛場所として割り当てられて、指揮者である元武士の統率に従いそこに住んだから、いくつもの集落が突如現れて大きな村を作ったかのようであった。

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19-3 梅すだれ 肥後の国

六郎太から明日絵踏みがあると聞いて、六一郎はがっかりした。三か月前、切支丹の集まりに新しい者が来た。顔を隠してはいたが、どう見ても松之助だった。

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