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あの日の勇気とチョコレート

私は今、LINEの画面とにらめっこしていた。画面には
『琴葉、ホワイトデーの放課後に教室で待ってて』
と書いてある。

私、琴葉が今現在片思いしている彼、れんくん。
バレンタインデーにチョコと一緒に思いきって入れた、ラブレターらしきものの返事をくれるんだと思う。

私はきっとフラれちゃう。
私にはれんくんと違って特に誇れることも無いから。
今やってる学級委員だって誰もやらないから引き受けただけ。
運動が得意でかっこよくて優しいれんくんには遠く及ばない。

それでも心のどこかで期待してしまい、さっきからずっとチャット画面を眺めている。

私の返信はとてもシンプル。
『わかった。待ってるね』
という文と了解って書いてあるスタンプだけ。
LINEでの会話は苦手だからこれで悪い印象を与えてしまったら嫌だ。
そう思っていつもはつけないスタンプを付けてはいる。

ホワイトデーは一週間後。
私はその日に向けて、長い髪の手入れやお肌の手入れをすることにした。
せめてしっかりとした格好でフラれたい。
バレンタインデーの少し前からバレンタインデーまでの間に使っていたヘアオイルと化粧水をまた使い始めた。

地味な学級委員じゃなくて、ちょっとかわいい女の子になれるように。

ホワイトデー当日。

帰りのホームルームが終わり、どんどん教室から人が出ていく。
まだ数人いるけどその人達もそろそろ出ていきそう。
私はお守り代わりのシュシュを髪に付け、お気に入りのハンカチをポケットに入れた。

教室からみんな出ていった。

れんくんは今日日直だから今は職員室にいると思う。

れんくんを待つこの短い時間がとても長く感じた。

ガラガラガラ。れんくんが教室に入ってきた。どこかいつもよりドアの開け方が丁寧だった気がする。

私と目が合うと気まずそうに目をそらした。

あぁ、やっぱりフラれるんだ。
目頭が熱くなる。
泣くのは返事を聞いてからにしないと。
そう心に言い聞かせ、なんとか泣かないで耐えた。

「なぁ、手紙の返事するからこっち向いて」

「うっうん」

一度深呼吸をした。
フラれる覚悟を決め、私はれんくんを見た。

「これ、お返し。母さんに教えてもらって作ったんだけど、初めてだから味は保証できないけど」

えっ、初めてって言った?
それにれんくんの手作り……。
これ、結構嬉しいかも。

「ありがとう。嬉しい」

「ならよかった。それで、そのー……。手紙の返事だけどー……」

あぁ、ついにくる。

「オレも好きだよ、琴葉のこと」

「えっ…………」

今、もしかして好きって言った?

「あー、だからそのー……。返事はYESだから。うん」

「本当に……?」

「本当に決まってるだろ。なんで嘘をつく必要があるんだよ」

れんくんは耳まで真っ赤だった。
じゃあ、本当に本当なんだ。

れんくんは私のことが好き。
これで両思いになれたんだ。

フラれなくてよかった。

気づくと瞳から涙がこぼれ落ちていた。

「おっおい、なんで泣いてるんだよ」

「ごめん、嬉しくって」

「……そっか」

「うん」

「これからよろしくな。一応、そのー……彼氏としてー……」

「うん……。彼女としてよろしくね」

「おう」

悲しく濡れる予定だったハンカチは嬉しさで濡れた。

バレンタインに、勇気を出して手紙を入れてよかった。

れんくんと目が合い、自然と笑みがこぼれた。

これからよろしくね。れんくん。

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