見出し画像

拝啓2018年9月13日のaiko様

久しぶりです。今日は1人で来ました。たまたま連れが来れなくなって。高校生の時に、陸上競技の大会前に初めて来たのも1人でした。あなたに会いにNHKホールに来るの何度目になるかな。最近たまたま近くの会社で働くことになって。今日は会社から歩いて来ました。

薄闇にそびえる丹下健三の遺物を横目にウキウキステップ気味で歩いて、会場着きました。入口、500人くらいワイワイしてます。春日部あたりに住んでそうな、50代の夫婦がいます。ロックが好きそうな寡黙そうな1人で来てる男性がグッズのタオル首に巻いてます。42歳にもなれば、ファンもいっしょに年老いていきますよね。あ。20周年おめでとうございます!

高校生もいますよ。あなたが『アスパラ』で描いた、あまずっぱい校舎の風景の中にいそうな女子。JCもいる。いちばん多いのは、相変わらず女子の2人組かな。恋愛を経験すれば、あなたが描く心象風景が女子の中に現れるんだろうと思います。「あのさ、aikoってヤバくね?」ってなる。きっと。うわ、親子連れもいる! いいなぁ! 俺もいつか娘を連れて来ます。絶対。最近、『カブトムシ』を車の中で流すと、「しょーおぉがぁいー♪」を裏声で歌うようになったんで、連れて来る日もそう遠くないはずです。

席についてiPhone閉じました。今日は3階から。長すぎるMCの前にいきなり3、4曲歌うスタイル、相変わらずですね。あなたはダメ押しの人ですよね。加減しようとしない。歌ってくれた『夜空綺麗』、今回のアルバムで2番目に好きです。「持ってないものはきっとあたしが持ってるんだよ もう充分だと言われてもあげる」。それがあなたのスタンスですよね。それが、こうやって今も、必ず緊張を解いてくれる。直前まで仕事のこと考えてても、必ずあなたの目の前に連れて行ってくれる。長年のファンも初めての人も、同じ空間に誘ってくれる。私、スキンヘッドになったんです。歌ってるあなたから見たら、あなたの譜面を揺らす声に乗せて不規則に揺れる私は、不気味にうねるアオダイショウのように見えたでしょう。

「あのなー、20年経ってそれなりに曲を作ってきたつもりだったんやけど、セットリストを作ろうとして並べた曲を見るとさー、まだ、『ここにほしい曲が足りひん』と思うんですよ」

そうか。そうなんですよね。2ちゃん民が打線を組むように、あなたはあなたのひとつひとつの足跡を、今の気分でセットリストに編み上げるんですよね。いつか、盤石のラインナップからセットリストを作る日が来るんですか? それでも、あなたは歌い続けるんですか? いつもあなたは、今のあなたです。だから私も、今の私です。

42歳の『二時頃』、すごかったよ。24歳の時につくったんですよね。恋愛の熱と陶酔でアンコントローラブルになったあなたの、「あたしのこと少しだけでも 好きだって愛おしいなって、思ってくれたかな?」の切ない願いを、42歳のあなたの声で再生するなんて、あなたは想像してましたか? めっちゃいいじゃないですか。72歳になっても歌ってください。

「永遠って言葉あるやん? 最近、あたしが永遠がほしいんだと思ってるって気付いたのよ。ずっと歌い続けたいし、みんなに新しい曲聴いてほしいねん。アホみたいなこと言うとるけど、デビュー当時のあたしじゃなくて、20年歌ってきた42歳がスポットライトの下で言うならええと思うで。でも、ほんとそう思う」

私も、あなたの曲を永遠に聴き続けたいって思ってます。永遠って、永く遠いだけで、終わりを否定してない言葉ですよね。あなたの中には、いつも終わりがあるんですね。終わりの中にある今を、いつもあなたは歌いますよね。

でも、友達に産まれる子どもに捧げた『瞳』は、数少ない未来を歌った曲ですよね。「すこやかに育ったあなたの真っ白なうなじに いつぞや誰かがキスをする」って、あなたらしいですね。でも、やっぱりあなたは「胸を体を頭を心をもがれるような別れの日も来る そんな時にもきっと愛する人が側にいるでしょう」って歌うんですね。娘が産まれた今、聴けてよかったです。

『陽と陰』、これはストレートに恋愛を歌わないほとんど唯一の曲ですよね。浪人の時、1人でシャノアールで世界史勉強しながら聴いた光景を15年ぶりに思い出しました。あなたの曲を聴いて過去を思い出す時、生きてて良かったなって思うんです。

「今日は天赦日?って言って、2018年の中でも最高の日らしいで?」
「aikoー!」
「え、なによ?」
「あたし、今日入籍したのー!」
「えー!ほんまー!おめでとうございます!」
「キャー!ありがとー!」
「指輪しとるの? あ、しとるしとる!」
「してるよー!」
「むかつくわ」
「aikoもできるよー!」
「ふっ」

こんなに有名になったあなたは、今も、ひとりひとりとの会話を続けるんですね。NHKホールでも横浜アリーナでも、もうすぐ建て替わる中野サンプラザでも茅ヶ崎でも、あなたの空間はいつも小さなライブハウスのようです。「この会場にいるひとりひとりのみんなと!」っていうの、あなたの定番フレーズですよね。昔は、「また言ってるよ」って思ってました。でも、あなたは本当にそれをやるんです。今も。これからも。

『格好いいな』、今回のアルバムでいちばん好きです。あなたの曲名をGoogleの検索窓に入れると、必ず「(曲名) 意味」って出るの、あなたは知ってますか? 恋愛の中で盲目になって客観的な視点を持てなくなった無数の男女が、あなたの表現を自分の心象に重ね合わせようとするんです。でも、調べてもなかなか出てこないんです。他人の解釈で「そうだったのかもしれない」と思っても、心の底から納得できるわけじゃないんです。だからまた聴く。何度も聴いているうちに自分だけの解釈のようなものがじんわり浮かんでくる。冷凍保存されたあなたの声じゃなくて、あなたが目の前で歌う姿に、声に触れたくなる。だから、あなたのライブに来るんです。ライブであなたが歌う一曲一曲に、聴き手一人一人の物語が交差してるのがわかるんです。もちろん私もその一人です。あなただけが知らない世界です。

「あたしの泣いた顔はブス それを見る笑った顔も格好いいな」って、正直怖いです。あなたの曲は、世界平和を願う世界中に響くロックじゃないです。でも、今日は珍しくリアムギャラガーのように、『大切な人』を歌う前に咳き込んでましたね。タバコやめて何年経ちますかね。歌うためにやめたんですよね。あなたはいつも、あなたと、あなたの前にいる誰かとの2人だけの世界を描くんです。あなたの世界には、あなたともう1人しかいないんです。でも、確実にもう1人いるんです。だからこそ、かろうじてたった1人の聴き手があなたの世界に入れるんです。自分はこの世にたった1人だと思っている人が、入っていいと思える世界なんです。

終わりました。でも、後ろのゲイの人が、アンコール叫んでます。あなたは、ずっと前から、「男子ー!女子ー!そうでない人ー!」って呼びかけますよね。後ろのゲイの人、「そうでない人ー!」に、めちゃくちゃ嬉しそうに「はーい!」って言ってます。あなたの閉じた世界は、誰にでも開かれているんです。見せかけのユニバーサルじゃないことがわかるんです。

最後は『ボーイフレンド』でくるのかー! あなたの中で、いちばんストレートにエロい曲ですよね。26歳ですもんね。あなたが紅白歌合戦であれを熱唱したこと、強く記憶に残ってます。テトラポッド事件、懐かしいです。あなたはあなたのまま、堂々としていた。

相変わらず、ライブが終わっても、ずっとステージに立って「ありがとう」って言い続けるんですね。あなたに引き際の美学なんかないんですよね。次が来るかわからない中で、今ここにいるんですね。

私は34歳になりました。今もあなたが大好きです。あなたの喉と肉体はいつか朽ち果てて、いつか聴けなくなる日がくるんですね。でも、あなたの心は、あなたが歌うたびに少しずつ色濃くなって、私の中に刻まれています。

あなたが大好きです。
今のあなたが、大好きです。

#aiko   #エッセイ #ラブレター #音楽  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?