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大学で音楽サークルに入った話①

はじめに

家庭の事情で一年浪人し、某4年生大学に入学した。1998年の春の話です。
一年間アルバイトをして入学金を貯めた私は、大学で何をしたかったのかというと、社会人になる前の4年間の猶予を存分に謳歌したい、それのみでありました。
高い学費で遊ぶことを考えて誠にけしからんと思いますが、それでもあの時大学に進学して心から良かったと思うのは、今現在でも思い出す楽しい日々が過ごせたからなのです。


4月

大学に入学して最初の一週間はオリエンテーションばかりで本格的な授業もなく、新入生はみんな一様にそわそわしていた。
私たちの世代は学生が多く、たくさんの生徒があらゆる地域から集まって何棟にもわかれた広いキャンパスをうろうろ歩き回っていた。

二、三歩歩けば上級生がサークルに勧誘しようと声をかけてくる。大学生のおしゃれなお兄さんお姉さんが、つい一か月前まで高校の制服を着ていた新入生にちやほや声をかけてくる。
大学入学したてで、私服のおしゃれをがんばってる新入りたちはそんな浮ついた空気に飲まれてどこか危なっかしい。

私は一年浪人していたこともあり、そのふわふわした空気感を少し冷めた目で見ているところがあった。かといって本格的に距離を置くというわけでもなく、その場のノリを存分に楽しんでもいた。
たまたまオリエンテーションで同じクラスになった子たちで、なんとなくグループ行動をすることになった。気が合うかどうかもわからない、即席の仲良しグループ。私も声をかけられるままに固まって教室移動していた。

サークル勧誘

とある教室から出たとき、物陰からキノコカットの男が飛び出してきた。スピッツの草野マサムネに少しだけ似ていた。キノコカットはサークル勧誘のために新入生を待ち伏せしていたようだった。

私はサークルに入るつもりがなかった。大学のサークルは基本的にちゃらちゃらしていると先入観があったし、そんなの自分のガラじゃない。それに、ちゃらちゃらサークルは可愛い子だけ勧誘するのだろうから自分は縁がないだろうとも思っていた。そんなわけで、キノコカットを見た瞬間、私の脳内にはけたたましくサイレンが鳴り響いた。『厳戒態勢!厳戒態勢!怪しいキノコ男が出現!疑わしい勧誘をしてきたら即座に塩対応をせよ!』

身構えている私に、キノコカットが声をかけた。
「音楽サークル!興味ありますか!?」
私は、はぁ?音楽サークル?どうせダサい音楽やってるんだろと心のなかで考えていた。
当時、国内の音楽シーンではビジュアル系や小室哲哉系、モーニング娘などが流行っていて、私はあまり好みではなかった。なおかつ今みたいにインターネットが浸透していたわけではなかったので、地方都市においてニッチな趣味は本当に限られた人間しか知ることがなく、一般層とオタク層の間には深い深い溝が刻まれていた。
当時の私の趣味は、コーネリアスなどの渋谷系や、イギリスのオルタナティブロックであった。さらに大学入学時ピンポイントではまっていたのはBECKの名盤「ODELAY]である。
それまで私の周囲に同じ趣味の人はいなかった。
なので、音楽サークルの勧誘についても、私は見くびっており「どうせ普通のコピーバンドとかしているんだろう!」などと失礼なことを考えていた。

キノコカットは私にチラシを見せてきた。
60年代風のおしゃれな女の子のイラストが描かれていてセンスが良かった。エックスガールとかヒステリックグラマーのTシャツっぽい感じのチラシだった。
チラシのセンスの良さに少し興味を持ち、私は厳戒態勢をゆるめて話を聞くことにして立ち止った。
キノコカットは「君どんな音楽が好きなの」と聞いてきた。
私は、どんなリアクションをされるのかわからなかったので恐る恐る「今は、BECKを聞いてる」と伝えた。

するとキノコはぱあっと明るい表情になり、「えっ、君BECK好きなんだ!じゃあうちのサークルが一番趣味に近いよ!来なよ!」
エノキくらい青白いやつだと思っていたが急にエリンギくらい生き生きしだしたキノコが急に圧をかけてきた。
なんでも、この大学には4つの音楽サークルがあるという。
それぞれカラーが異なるが、キノコの所属するサークルがもっとも私の好みに近いんだという。
確かにチラシのセンスも良いし、このチラシを作った人に会ってみたいと思ったし、キノコカットもよく見たらセンスの良いキノコだと思えた。
すっかり興味をひかれた私は、放課後にサークル会館に行くことを約束し、キノコと別れた。
手に握りしめたチラシをよく見てみた。
サークル名は「民俗音楽研究部」だった。なにそれ・・・

つづく

作者注

かつて流行っていたJpopシーンも今は懐かしく、ビジュアル系も小室哲哉もモー娘も大好きです。当時世間知らずのバカタレだった私の偏った主張が文脈ににじみ出ていますが、あくまで当時のこととしてご理解ください!恥ずかしい。

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