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「音」の時代がやってきた|『ボイステック革命 GAFAも狙う新市場争奪戦』読書録

●今日一日の「音」時間はどのくらい?

あなたは今日、どのくらい「音」に時間を費やしただろうか。
「『音』って・・・?」と思われた方もいるかもしれない。ここでいう「音」とは、「音声のみで楽しむこと」を前提にしたコンテンツのことだ。

好きなアーティストの楽曲、ポッドキャストや音声ニュース、たまたま道ですれ違った人たちの何気ない会話・・・。それらはすべて「音」として感知され、私たちの気分を高揚させたり落ち着けたり、新しい知識を得るきっかけになったりする。

私はといえば、平日は毎朝Amazon Echoから目覚ましがわりにNHKラジオが流れる。リモートワークなので、「アレクサ、明るい曲をかけて」「アレクサ、この曲のタイトルは何?」とたまに話しかけつつ、会議前には「アレクサ、あと5分したら教えて」と頼むこともある。

人類は『情報を入力したり表示したりする「画面」に縛られた生活』から解き放たれるかもしれない。(p31)

と本書にもあるように、昨秋にタッチディスプレイ付きのAmazon Echoを購入して以来、 ディスプレイで操作を行なったのは数えるほどで、操作はほぼすべて「声」で行なっている。

昼食や夕食の準備中には、好きなポッドキャスト番組か最近勉強し始めた韓国語の単語学習用音声を流しっぱなしだ。家族や友人と、通話料金を気にせず長々とLINEでおしゃべりする時もあれば、よく眠れない夜に「安眠用BGM」を検索して聴くこともある。外出するときも、大抵イヤホンをして音楽や何かしらを聴いているので、私の耳は常に「音」に費やされているといえるだろう(今年初めのClubhouseの波にも一応乗ったことを今思い出した・・・)。

●「音」の時代がやってきた

今はまさに音声テクノロジーが勢いを増す時代だ。音声プラットフォームVoicy・Spoonのほか、音楽に特化したSpotify・Amazon Music・Apple Music・LINE Music、インターネットラジオのradiko・NHKラジオ らじる★らじる、オーディオブックのaudible・audiobookなどなど。

これらのどれか、もしくは複数を利用したことがある人も多いのではないだろうか。そんな中、「まさにこういう本を読みたかった!」という本をやっと読めたので記録を残しておきたい。音声ではなくテキストで、だけれど。

著者は株式会社VoicyのCEO・緒方憲太郎氏。Voicyは2016年に立ち上がった音声プラットフォームだ。日経や野村証券、ITビジネスニュースなどのメディア系チャンネルのほか、各界のインフルエンサーが個人のチャンネルを持っている。中には有料コンテンツもある。そんな日本の音声業界最前線を行く著者の本とあって、本作は国内外の豊富な事例とデータが満載だ。

ほんのさわりではあるが、たとえば国外の事例。

・アメリカでは2020年にスマートスピーカーの所有者が8770万人に。同国成人人口の34%を占めるほどになっている。(p32)
・Spotifyは世界92カ国、2億9,900万人のアクティブユーザーを抱える。(p34)

一方で日本はというと、

・日本における2019年のスマートスピーカー普及率は7・6%。2023年には24・4%、2025年には39・0%に到達と予測される(野村総合研究所調査より)。(p50)

この比較だけでも「音の世界の『今』」が垣間見える。

●「音」と最新テクノロジーの今

新しい技術が実際にどのように用いられているか、これからどのように用いられうるかについての具体的な事例も豊富だ。たとえば、「NFT(Non-Fungible Token / 非代替性トークン)」。

「このデジタルデータはいつ作られたか」「オリジナルの所有者は誰か」といった情報をブロックチェーン上に書き込んで権利を記録し、その権利の譲渡・売買を可能にしてくれる技術だ。

Twitterの共同創業者でCEOのジャック・ドーシー氏が2006年3月21日に投稿した初ツイートに、2021年3月に約291万ドル(約3億2,000万円)の値段がついたという事例も紹介されている。

NFTはデジタルデータであればすべて対象になるため、音声ファイルも対象になる。コピーされやすい様々なデジタルデータの所有権を担保するとともに、歴史に残る様々な「生の声」をコンテンツとして権利化することを可能にする技術だ。

思えば、歴史上のコンテンツは「音」による「口伝」から始まったものも多い。『古事記』も時の天皇が、稗田阿礼に詠み習わせた歴史を筆録させたものだという。また、何気ない会話のほとんども「口伝え」で広まり、文字化されずにいる。

技術があれば、サービスは広まる。サービスを実現させたいからこそ、技術が進化するとも言えるかもしれない。SONYのウォークマンが生まれたのは1979年。AppleのiPhoneが登場したのは2007年。本書のタイトルにもあるように、GAFAのすべてが音声テクノロジー市場に参戦していること、近年の私たちの生活の変化を考えると「音声サービス・テクノロジー」のこれからの進化はますます楽しみだ。

●ラジオとTikTokの同時展開:最近「耳」にしたシームレスなコンテンツ

最近、TOKYO FMの「リリー・フランキー スナックラジオ」が生放送&TikTokで同時配信されていた。「ラジオ生配信×TikTok同時配信」、つまり音声でも音声+動画でも楽しめる状態だったという訳で、「動画も見たいな」と思った人はラジオからTikTokに移動することが可能だったし、TikTokで番組を見つけ「今から音声だけに切り替えたいな」と思った人は耳だけで楽しむこともできたのだ。コンテンツをリアルタイムにシームレスに楽しめる時代が、すでに来ている。

各国で台頭する音声サービスの歴史と今、ワイヤレスイヤホン・音声認識・自然言語処理技術・声紋認証などのボイステックの最前線が気になる方は、是非本書を手に取ってみてほしい。

今日も「音」に満ち溢れた一日が終わる。とはいえ秋も深まってきた。虫の声にも耳を澄ますため、イヤホンを外すのも忘れずにいたい。

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読書感想文

ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。