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読了「ギフト、ぼくの場合」

✎‎𓂃𓈒𓏸書誌情報

読了日:2023年1月18日
書名:「ギフト、ぼくの場合」
作者:今井恭子
出版社名:小学館


✎‎𓂃𓈒𓏸あらすじ

両親の離婚により母子家庭となった6年生の優太。
ずっと専業主婦だった母親。
体の弱い妹の美咲。
母は職探しもうまく行かず、やっと就職できたのは小さなねじ工場のパート事務だった。
美咲を保育園にも入れられず、短い時間しか働けないーこども二人を育てるにはお金が足りない…優太の家はいわゆる「貧困家庭」だった。
当たり前のように新しい服を買ってもらい、修学旅行に行く費用があるのか心配することもない同級生たちのような生活はできなくとも、母と美咲とお互い支え合い家族のぬくもりを感じて暮らしていた。
自分たちを捨て養育費も払わない父親を憎み、
父親の好きだったギターは二度と弾きたくないと思う優太だったが、どうしてもギターに惹かれてしまう。
文化祭で演奏をする「不二見小バンド」に参加する優太が選んだ楽器は、ソロパートを与えられた華やかなギターではなくオーディションすら受けなくていいその他大勢のリコーダーだった。

✎‎𓂃𓈒𓏸感想(ネタバレあり)

なんの前情報もなく読み始め、テーマの重さと、ショッキングな展開に思わず涙。
貧困のためにこどもの学ぶ権利や命さえ脅かされてしまう。
家庭の金銭的にも厳しいことを知っていて、まだ小さい妹の美咲を置いていくのもかわいそうだと、優太は修学旅行に行かないことを母親にも相談せずひとりで決める。
同じく修学旅行不参加の同級生の三田口は父子家庭で、父親によるネグレクトで次の食費がいつもらえるかわからない生活を送っている。
片や、バンドでギターに抜擢された水谷は高いギターを買ってもらったり、ギター教室に何年も通ったりしている裕福なこどもだ。

ひとりの大人として、本当に歯がゆく、恥ずかしい思いをして読んだ。

父親の養育費不払いができない制度があれば、金銭的に楽になったかもしれない。
美咲が保育園に入れていたら母親は正社員として就職できたかもしれない。
ねじ工場のパートだけではまかなえない生活費を得るためにもうひとつパートをかけ持ちして長時間働く母が、家にいる時間がもう少し長ければ美咲の病気に気づけたかも知れない。
体面を気にする親戚がいなければ実家を頼ることができたかもしれない。
あちこちに通知がいくことがなければ生活保護を申請できたかもしれない。
そもそも母親がいわゆる社会的弱者になってしまったのも、母親の家庭の貧困、中学生の頃の母をヤングケアラーとしてしまった問題があったからだった。
このような貧困の連鎖を断ち切り、手を差し伸べる制度が整っていない、福祉制度の落とし穴にはまってしまう家庭がたくさんある。

そのような家庭の居場所となるべく活動されているこども食堂のことにも触れられているが、優太の家からそのこども食堂に行くにはバスに乗らなければならず、バスに美咲と二人乗るお金がない。
また、優太の学校にはスクールカウンセラーも配置されているがそれもうまく機能していない。逼迫した優太や三田口の状況とはかけ離れた温度差を感じる存在として登場している。
私のこどもが通う学校にもスクールカウンセラーの方がいらっしゃるけど、月一回しか来られないので、緊急性の高い相談などはしにくいと感じている。
同じように優太の学校のスクールカウンセラーの湯河原さんも、自分の仕事に真摯に取り組みなんとか優太の心に寄り添おうとしている様子は読み取れるが、ほんの数分の会話では限界がある。
優太はカウンセラーの湯河原さんや、担任の先生は頼れないと心のシャッターを閉じてしまう。
また、心配をかけたくない、と母親にもほとんど相談もする様子がなく泣き言も言わない。

福祉制度が未熟であること。
一番身近な存在である親や先生にこどもが甘えたり頼ることのできない環境であること。(多くは労働環境の悪化によりおとなに余裕がなくなっていることに起因していると思う)
また、体面を気にする親戚の圧力や、1万円札がなくなった事件で顕になった同級生からの差別も、ありふれたものだろう。

それらがとても恥ずかしく、また、自分の行動や発言によってこどもたちを傷つけてはいないか、我が身を振り返ることとなった。

優太が作中でリミッターを外して感情をあらわにしたのが、ただの「美咲が下校中に寄り道して交流していた白い大きな犬がいる家」の見知らぬ大人や、似たような環境で同じような経験をしてきた三田口の前だったことが全てを物語っていると思う。

ギターがたくさん並ぶ楽器店のオーナー、ねじ工場の老夫婦、数年前に家族で訪れた地で出会ったしぼり染め職人のおばあさん。
文化祭のバンドで指揮を執るジョー先生と、その友人のギタリストの村木さん、美咲のことばを気にかけて文化祭を見に来てくれた白い犬の家の梅本さん。

そういった学校の先生でも家の人でもないおとなとの交流が、優太を動かし未来に希望をもたらしたことに救われる。

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