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東北紀行4日目

4日目の朝

この日は朝から何だか天気が冴えない。曇り時々晴れの予報。
1泊2日の行程が2日間とも雨だと何だか運が悪い気もするが、10日間も旅をしているとそりゃ雨の日もあるよね~。って感覚になる。仕方ない。
強いて言えば、カッパを脱ぎ着するのが面倒なのと夏場は暑い。
宿はエントランスの屋根の下にバイクを置かせてくれたので、朝露も降りてなくて快適。今日は観光地が入るので290㎞程度の移動。
バイクは身体を自然に晒して乗るものなので、雨なら雨のルールに従う。そして、雨の景色を楽しむしかない。
雨の景色も悪くないのよ。
ケセラセラ。
出発の皆さんから次々に声がかかる。特におじいさんからバイクについての質問多数。ただ、大体の方はハーレー至上主義でハーレーを褒め称えるか、お話されてきた人の俺は昔、乗っていたと言う何の確かめようもないマウントに付き合わされるか、なので適当に聞き流す。
まあ、旅は人をハイテンションにさせる。老若男女問わずに。
今日は岩手の山中からまた少し太平洋を経由して、青森のまさかりの柄の部分、ゴールはむつ市だ。Ride to North.
事前に今日の宿にはコインランドリーがある事をチェック済みだし、珍しく夕食無しのビジネスホテルの為、少し早めに到着してもいいかも知れない。

八幡平アスピーテライン


先に結論から言おう。
何も見えなかった。本当に、本当に何も見えない。
暗中模索、五里霧中。
先の見えなささは、来月から違う会社に行く私の人生並み。

真っ白(白黒にしてます)

出発時は曇天。国道282号の続きを走ると、安比高原辺りから暗くなる。多分、視界が良ければ広い高原が広がっているのだろうが、何も見えないまま長いスノーシェッドを通る。そのまま県道45号アスピーテラインに入り、高度を上げて行くと視界は10m程度。気温は20度を割り、寒いし何も見えない。途中でレイングローブと上だけカッパを着る。カッパは敢えてオレンジ色を買っているので、ちょっとでも目立つ様にの意味もある。
霧はシールドにも細かな水滴を徐々に付け、視界を奪う。ザーザーと降る雨の方が視界は確保しやすい。
何度もグローブで白くなったシールドを拭う。それでもジャケットとパンツの隙間から、風と共に侵入し体温もあっと言う間に奪っていく。過去にも富士山麓の有料道路にわざわざ行ったら、何も見えない事があったが、その比ではなかった。
廃墟マニアでもあるので、晴れていれば松尾鉱山跡にも気づいていたかもしれないが、こんな状況なので対向車と足元の白線を追う以外、何も考えられなかった。
自分の周りは白い霧だけ。白、白、白。自分の存在が薄くなる様な感覚になる。時に視覚では斜度や傾きも分からない。これはバイクに取って大変危険で、真っすぐ走ってるつもりが僅かに車線を離れて行く。10m先くらいでヘッドライトが反射されてちょっと黄色いぼんやりした塊が見える。
だんだんと緊張が過ぎるともう、逆に楽しくなっちゃって、ア、ハハハァ~ン♪って感じ。
バイクで一人旅の人なんて、大体変態です。

上の写真は敢えて白黒で現像してますが、カラーのままでも

こんなもん

更に陰影が分かり辛くなるだけで、何も見えない。厳しい自然を感じさせてくれる道でした。

時々、初心者ライダーの方からどうしたらツーリングは上手に走れるようになりますか?と聞かれるのですが、私はこう言った状況を含めて経験値を積む事しかない。と言っています。
RPGのゲームと一緒です。
万全のバイク整備と考えられるだけの装備を持って、ありとあらゆる気象条件の下で一人走る事。それが答えだと思ってます。実際、どれだけ乗ってもこんな時は緊張しますが、慣れていれば案外何とかなるもんです。
トラブル対応は…その時に考える。

寒い~、見えない~と文句の独り言を言いながら下山。国道との交差点でトイレらしき物を発見して一服。トイレは閉まってました。
車の皆様は、見てはいけない物扱いしてくださいます。可哀想に…なんでしょうね。

十和田湖

国道341号に入った辺りではもう秋田県。しばらく行くと「キャメルマート」なるコンビニっぽいお店が1件。秋田なのにキャメル?
お店のトイレをお借りすると、登山客が汚して行くだけの公衆トイレ化しているのか、張り紙に「ここはお客様専用です」と書かれていた。
私は中に入り、コーヒーを購入。これで使用権利発生。
すると、車で来た観光客がトイレだけ使用して去って行った。毎日あれを見て、掃除する側になれば腹も立つだろうな。
張り紙を見ても、まあ自分達くらいはいいだろ、と思える神経を私は持ち合わせていない。
なお、まだ夏休みシーズンでもないからか、店の棚はスッカスカ。買う物もそう無い感じ。

白いホンダの最高級バイクが横に止まる。挨拶の後、お互いにこの先の道などの情報交換。これがとても大事で、人によっては穴場や食事なども教えてくれる。
バイク乗りは年齢が離れていても「仲間」なので、敬意を持って丁寧に話していれば初心者もベテランも関係ない。初対面でも大体仲良しだ。
そして、別れるときは「またいつかどこかで」とお互いの安全を願う。
長話で相手のスケジュールを乱したりもしない。
この方も私への質問が「お若いのに平日にこんなに休みを取るなんて、何のお仕事なんですか?」だった。辞めて家に帰る途中だと答えると、何とも微妙な顔をされたのをよく覚えている。

いよいよ風景は、陸奥らしくなってくる。
国道341号線を北上し、鹿角市に入りまた国道282に乗り換える。
左右を山脈に挟まれ、中央に米代川が流れる。真夏なのに、冬は相当寒いのだろうと想像出来る雰囲気が漂う。陰鬱とまでは言わないが、静か過ぎると言うか、人が住まわせて貰ってる雰囲気とでも言おうか。神々と自然が中心で、ちょっと人間が間借りしてる雰囲気。
この辺りまで来ると、確実に家もお店も入り口は二重扉になっている。
この辺りから今日の次の目的地「十和田湖」の看板が出て来る。遠くまで来たな、としみじみ感じる。市内はいかにも街道沿いの、のんびりした商店街。今は店を閉じている所も、昭和の頃はさぞ華やかなだったのだろうと思わせる。そんな時を見てみたかった。
すぐに国道103号線に右折。この交差点には珍しい歩道橋が架かっていた。交差点の1辺だけにあるのも珍しいが、屋根が付いている。吹雪避けだと思われるが、北国の心遣いだなと気になった。
地面から数m上空だけど、国道は風が抜けるし、吹き曝しだと冬は相当きついのだろう。
そこに居ると当たり前になる事でも、旅の人の目には珍しく映る。まだ秋田県内だが、周辺はリンゴ畑が広がり始める。青森は目前だ。
平地が終わると突然原生林の中の道へと変わる。どの国道もそうなのだが、これだけ山深いところは、少しでも手入れを怠ると、あっという間に雑草が道に広がって来る。東北の少し広い国道は、どれも脇の手入れがされていて見通しも良い。大事にされているのだろうな、と思う。特に家がある地域は草刈りが行き届いている。これだけの広さを草刈りするのに、一体どれくらい時間が掛かるのだろうか…
場所によっては、自宅の周りに花をたくさん植えている家もある。東北に取って、花は春そのもの。桜並木も多いように感じる。春への喜びの大きさが関東以南とは全く違うのだろう。
通常、自然豊かな土地では、花に交じり膨大な雑草が生えて来るはずなのに、見分けて手で摘んで管理されているのだろう。
草刈り機では、花も雑草も一緒くたに吹き飛ばしてしまうはず。
きっと働き者で、優しいおばあちゃんが住んでるのかな。なんて想像する。
一緒に庭の花の手入れをする老夫婦なんて、想像するだけで可愛らしくてしょうがない。
いいな、何だか都会に生きてきた自分より、便利じゃなくても凄く羨ましく感じてしまう。

発荷峠展望台より

そして、相変わらず元気な相棒は発荷峠を越え、展望台に到着。十和田湖を望む。
曇り時々晴れの、曇りがちょうど来た感じになってしまった。
湖を渡ってくる風はとても冷たくて、日が差していないと少し涼しすぎる位だ。こんな地域に別荘があって、夏の間中過ごせるような大富豪に生まれたかった。少なくともスネ夫位になって、従兄弟の別荘が~って言いたかった。
たつ子姫の像に関しては、2回目だったので走行中に眺めて終えた。
感想は敢えてここでは伏せておくので、噂通りなのかどうなのか、是非現地に行って、ご自分の目で確かめて感想を持って欲しい。

奥入瀬渓流


いつも涼しい

まさか人生で2度来れるとは思っていなかった。さっきまで雲が広がっていたが、渓流に着くころには晴れていて、ご覧の通りの緑が見れた。

静かな流れ

緑の美しさもさることながら、急すぎない水量と、緩急を混ぜた渓谷で見ていて全く飽きない。車で来た方は止める所がない上に、観光バスが次々とやってくる為、最下流からハイキングされる人が多い。帰りはバスなのかな?
その点、バイクはこう言う状況には強い。少し隙間があれば停車は可能だからだ。遊歩道も一段下がった川沿いにある為、歩行者にも邪魔にならない。

あー夏休み

下手な写真が続き、お目汚し失礼しました。雰囲気だけでも味わって頂き、夏の旅行の計画に入れば幸いです。
ただ、どこを切り取っても絵になる事は確かです。
この時は2019年、コロナ前のインバウンドブーム真っ最中で、海外の方も多かった。特に香港、台湾の人が多い気がした。
秋の紅葉シーズンも相当に綺麗なんだろうと感じた。チャンスがあれば行ってみたい。

七戸ー六ケ所

奥入瀬渓流を涼しい涼しいと下り、高そうな星野リゾートを横目に国道を走ると、道の駅「奥入瀬ろまんパーク」がある。
日が差してきて暑いので、飲料購入の為に立ち寄る。
ここは、とんでもなく駐車場が広く、野外フェスでもするんか?って位である。トイレから出ると、全国を渡り歩いていそうなおじさんが、どこの名物でも無さそうな酒のつまみを3袋1000円で売っていた。
観光地とは言え、平日真昼間にそれは売れんやろ…と思いつつお茶を飲む。
おじさん、私は酒飲まないんでこっち見ないで欲しい。

道の駅を出て、そのまま国道でも良いのだがローカルな所を見たいので、左折して県道118号に入る。
失礼ではあるが、見事なほど何もない。ほぼ真っすぐな道、田んぼ、畑、時々家。次の家がどの辺りかは、背の高い木が集まっている横にあるのですぐに分かる。これも古くからある吹雪避けのためだと思われる。
そして程なく、大動脈国道4号に戻る。七戸町中心部に入るとイオンもあり、またいつも通りが見えてちょっと安心。
バイパス区間に入ると、延々と直線区間になる。とは言え片側1車線で地元の人もそこそこのペースで走っている上に、信号も少ないので市街地を走ってもそれほどストレスもない。色んなお店もあるので、暮らしの一部を見れて全く飽きることもない。
今日は前半で観光に時間を取りすぎ、宿に向けての時間が厳しくなっていた。その為、野辺地からは高規格道路の国道279号を利用。
むつ市への最短は陸奥湾沿いにそのまま国道を使うのが早いが、また太平洋側に出る事にした。
下北半島の中央部分は山になっており、湾と太平洋と行き来出来るルートは数本しかない。
六ケ所村を通る、国道394号に移る。

ここからは今までと違って、人工的に高い土手が左側の視界を閉ざしている。少し進むと視界が開け、左右にとんでもない広さの太陽光パネルが広がる。また、右奥と左の山手にはいくつもの風力発電機も立つ。左奥には原油備蓄の巨大タンクがいくつも並ぶ。この辺り一帯は全て原生林か、これらの施設だけだで、一大エネルギー集積所の様だ。

敢えて、賛成反対は延べないが有名な原子力施設への悪いイメージを少しでもかわすためのクリーンエネルギーPRだろうと思う。
ただ、素人目にも太陽光パネルは、こんな雪深い地域では冬季全く役に立たんだろう…とは思う。
これらの関連施設も含めて、青森県及びこの周辺への産業としての経済効果は凄まじいと思う。ただ、電力消費のトップでありそうな新宿から、事故のあった福島を通り、最終処分を何とかしようとしている六ケ所村まで続けて見ると、施設のある所の発展は周辺の町や市とは比べ物にならない程良いが、どうしても暗い部分も同時に見える気がする。
また、施設の警備は自衛隊の基地以上で、沖縄で見た米軍基地かそれ以上に厳重だった。テロの標的としては、相当恐ろしいと思う。
今まで東北に入ってから警察の姿など、一度も見たことがなかったのに何台もパトカーや自衛隊の車とすれ違う。
止めてカメラを施設に向けたりしようものなら、追いかけてきて職質は間違いないだろう。
資材搬入などで大きなトラックが行き来するために、広い道を整備する必要があるのは理解出来るが、この国道338号線は北上をすると、突然次の集落で道は悪くなり、更に出戸と言う地域で無理やり狭い所を折れ曲がる。所々バイパス的な真っすぐな道と、古い街道とを繰り返し、更に峠を抜け、むつ市街へ入る。

むつ市内

後半ペースを上げたお陰で、早めにホテルには到着出来た。
大変失礼を承知で申し上げると、市街はシャッター通りで全てに錆が出ている、赤茶けた感じがした。
この写真のビルも元下北バスターミナル。最盛期にはここに人が集まり、様々な方面に人が行き来し、人の交流があったのかと思うと何とも郷愁にかられる。また、ビルの前には現在1階しか営業していないスーパー?があるが、建物自体は多分デパートだったと思われる。
この通りに人が溢れていた時代があった、と言う事だ。

味のあるビル


ただ、少し離れた飲み屋街はレトロな感じで、今も原発関連の仕事の方々なのか、それなりに繁盛している感じであった。
こう言う時はもっと飲むのが好きだと、楽しめるのだろうけども、翌日も眠くなってしまったりするし、そもそも一人で居酒屋には怖くて入れない。
早々に洗濯機を確保して、街に出る。お祭りが近いのか、大きな通りには提灯が下がっていた。これもまたちょっと風情がある。


小高い所に神社が見えたので、登ってみる。夕日の時間だが少し曇り。

蚊が多くてすぐ逃げた
むつ市の夕暮れ


結局、近くの居酒屋に入ったは良いが、緊張のあまりピッチが速くなり、出て来た料理を片っ端から口に入れ、出て来てからもうちょっと散策。
名物を頼んでいたはずだが、何を食べたか全く記憶がない。
これからが飲み屋街の時間の様で、スナックの看板が灯り始めていた。
しかし疲れと慣れないアルコールが回り、眠たくなった私はホテルに戻り、洗濯物を取りにランドリーへ。
まだ生乾きだったが、予想通り洗濯機の競争は激しく、私の洗濯物は外に出され、一人の出来上がり待ちの人がいた。

なんだかとっても気になった
幽玄

ビジネスホテルだからか、朝食も早い時間から開いているとの事だったし、翌日は、いくつか観光地を回りたいので、早めの出発の準備をして就寝。

4日目 290km

5日目に続く

自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…