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東北紀行3日目

この日は何となく、余り写真を撮らなかった。
撮れなかった、と言うべきか。カメラを向けられない私はきっとカメラマンには向いていない。
津波被害の所は写真で見るべき場所ではない、と自分では思っているからだ。画面だけで知った気になってはいけない。TVに映らなかった至る所にもその日の悲劇があるからだ。気になる人はあれからの復興具合を含めて、自ら足を運び見るべき物だと思う。
あの日TVや写真で見た光景が、土地の人たちの努力によってどう変わっているのか。そしてまだ変わっていないのは何か。
そのギャップを自分の記憶に留めるのがいい。そこから感じた事が一番正しいと思うから。
偽善、大いに結構だと思っている、しない正義よりする偽善。東北に出かけてお金を落として行く事は、歓迎されるべき事だと考える。ガソリン代、宿泊、食事、お土産。旅の途中で色々と現地でお金を使う。例え自販機で飲料を買っても、近くの誰かの収入になる。
都会部からお金を東北に落としに行くことで、復興への応援になると信じている。
3日目は昨日と逆に、太平洋側から山側に向かう。凡そ320㎞の予定となっていた。

コバルトライン~女川

東北では有名な峠道らしい。とても走り応えのある道。アップダウンが大きく、かつタイトなコーナーが多い。
朝は森の中でとても涼しい。わずかに寒く感じるほど。
置いたのか、捨てたのか道の真ん中に空き缶が転がってて、もし後続のバイクが踏むと危険なので拾って捨てた。
ちょうど捨てる時に後続のバイクが通り、訝し気な雰囲気で通って行った。
良い事をするって難しい。多分、あの人は私が空き缶をポイ捨てしてると思っていただろう。
ちょうど女川の港に近くなった所にセブンイレブンがあったので、一服。
1年前に来た時よりも復興が進んでいた。店があるってなんだか暖かい。
品川ナンバーが珍しいのか、地元の二人の男性に声を掛けられた。みんな明るくて気さくだった。東北楽しんでってよーって感じ。
単純に人として凄いな、って思う。

強固な堤防を作っていた

もし何も知らなければ、女川は静かで綺麗な海に面した漁村だと思う。中学で習ったリアス式海岸がよく分かる。港も立派だ。
魚が苦手私でも、ここで何か食べてみたいとさえ思える。
よくある漁村の風景は、どこも防潮堤があって内側に道があり、その道沿いに家が建ってる事が多い。
しかし、女川は元々から港と道が隔てなく、広がっている。
勝手な想像だが、入江になっていて波も普段から穏やかなので、必要に迫られなかったのだろう。
エンジンを切ると、車の通る音こそすれ、静かな入り江の美しい海が広がるだけだ。人も海も山も穏やかだ。

8年経っても漁具が山腹に引っかかったまま


まだ国道398号線を北上する。女川を出るとすぐに石巻市に入る。

北上川


ここは全て水に浸かった

女川から海岸線を少し走って、一山超えた位で一気に景色が広がる。
北上川河口だ。
川幅はかなり広く、穏やかな川が流れる。
橋の袂には悲劇となった震災遺構がある。
大きな橋を渡り、北側の川岸を走ると左手にまた山が見える。
通常、津波は狭い所に入り込むとその高さは増す、しかしここは幅は数100mもあるかなり広い場所だ。しかし、津波到達の高さ表示はその想像を遥かに超える高さに設置されている。

美しい田園風景


その常識の様なものが、先ほどの小学校の悲劇を生んだのだろう。
東北を旅していると、何度か涙が溢れたり、何とも形容し難い恐ろしさに触れ背筋が寒くなる。この場所はその一つだ。
常に大型ダンプが行き交い、復興作業の大変さが分かる。
もう8年が経っているが、津波被害の地域では、ダンプが巻き上げる砂埃は独特の臭いがする。
通常の埃っぽい土の臭いではなく、海辺の土が乾燥した臭いだ。どれだけの泥が海から運ばれてきたのかが良く分かる。

しかし、自然は強い。
完全に塩水に浸かったはずの田んぼには、既に米が生育しており、川辺にはどこでも見かけるような花が咲いている。
倒れても、起き上がろうとするのは決して人間だけではない、と勇気を貰った。

花はまた咲く

南三陸ー気仙沼ー陸前高田

南三陸の手前で国道は398号から45号に変わる。
並走して高規格道路の三陸自動車道である国道45号線も走っている。無料なので、厳密には高速道路ではない。敢えて、そこを通らず旧道になるであろう一般道を走る。
非常に長い区間であるが、敢えて美しい海岸線を走った。とだけ記す。

遠野

陸前高田から海岸線を離れ、国道340号に入り遠野市に向かう。
途中、敢えて県道238号に入る。豪雪地帯らしく家々の屋根の形も変わる。傾斜が急角度で2段になっていたり、1階だけコンクリート剥き出しで2階部分にも出入り口があったり。
優に人の背丈ほど雪が積もるのだろう。
峠に向かって高度を上げて行くと、すぐに2車線から1車線に変わる。
地表面に近い所にには、笹やシダ類が茂っており、ここでも雪深い事が分かる。
ここら辺は、有名な遠野物語の舞台だ。
ここ遠野に限った話ではないが、東北でしか感じられない日本らしさがある。伝承であったり、祭りであったり。
そこに日本人が持っていた畏れと言う感覚が残る。
インバウンドブームの今、遠野を始め本来伝えるべき日本の良さは著者柳田邦男さんの意志に通じるが、秘してこその良さなのか、また大勢が訪れるべきなのか、非常に悩ましい所だと思う。
例えば、今回の旅では訪れていないが、平泉の集落も当時を思わせる田んぼや、畦の様子が残る。ちょうど私が訪れたのが春だったのもあったのか、遥か昔、厳しい冬が去り同じような光景を目にした藤原氏が、ここが浄土の様だと思ったのは非常に納得が行った。
この景色こそが、日本人が想像した浄土なのだと思った。
花がそこら中に咲き乱れ、生き物たちが命を咲かせ、水は清らかに流れ、輪廻を繰り返す。
まだまだ美しさを表現するには言葉が足りないが、歴史を知り文化を知り、初めてあの光景に感動できるのではないかと思う。
それらを海外に発信し理解してもらうのは、ブームの数年では不可能だろうと思う。
さて、少し話が逸れたが、全てに於いて古きが良し、とは思っていないものの、伝えていくべき日本が東北にはある。東北に出かける前に遠野物語と宮沢賢治の世界観は知っておくべきだと思う。旅の印象が全く違う物になると断言出来る。
先の沿岸部では復興の忙しさからの活気があったが、遠野を始め、内陸部に移動すると元の東北らしいゆったりとした光景に戻る。
点在する集落、取り囲む森と田んぼと川。本来人が生きて行く上で必要な物は全て揃っていると思う。
遠野手前で国道283号に戻り、また信号のない国道を盛岡に向かう。

盛岡

国道は盛岡に向かって、396号に移る。
この辺りは「南部曲り家」が有名。道沿いからも何軒かそれらしき家が見れた。
曲り家は、厩舎や牛舎と家がL字型に一体になった家らしい。寒い地域で大事な家畜と共に生きる知恵なのだろうか。
バイクツーリングとは北海道が究極、の様な固定概念があるが、私は北海道をバイクで走る事に余り興味がない。確かに自然が豊かで信号も少なくて走りやすいと思うが、人家が少なすぎて面白みに欠ける。
その点、東北は信号については同じく少ないが、程よく人家も点在、そして程ほどカーブがあるし、大通りを逸れれば未舗装路にも行ける。
ただ、少し細い道に入ると携帯が通じない所も多い。一日何台の車が通るのか?くらいの所も多いので、自損事故でも起こそう物なら白骨化するまで見つけてもらえないかも知れない。
なお、ガソリンについても入れられる時に入れておかないと、次がいつかは分からない。更に、ハイオク仕様の場合は売っていないスタンドもある。ハイオクは20㎞先のスタンドで売ってるよ!と実際言われた事もある。

1台も車を見なかった

北上川に近づくにつれ、視界は広がり平野が広がる。車も人家も増え市街地が近い事が分かる。遠くに新幹線の高架も見える。
次の都市は盛岡だ。市街地手前で更に大きな国道4号に入る。
この国道4号は東京から青森まで東北を縦断する、東北における最長で最大の基幹国道だ。総延長は836㎞。久しぶりの片側2車線道路を走る。
余談だが、国道1号はご存じ旧東海道、東京ー大阪で、2号は山陽道西国街道、大阪ー門司、3号は北九州門司から鹿児島である。
1号から5号まで走破すれば、鹿児島から札幌まで行ける。
市内を観光する時間の余裕がなく、雰囲気だけ味わいながら盛岡市内を迂回するバイパスを走る。バイパスには見慣れたチェーン店が並び、安心する。
日本全国、同じ値段で同じものが提供される物流とは凄いと思う。
左手奥には壮大な南部富士、岩手山が見えて来る。
市街を抜けてすぐ、周辺はなだらかな丘陵地帯が広がり農業試験場や、牧場らしき土地が広がる。道との境界には大きな木が一列に植わっている事が多く、冬場の暴風雪への対策なのだろうか。
福島北部と新潟北部から北では、道沿いに鉄製のカーテンの様な物が設置されている。吹雪避けだそうだ。

吹雪避け


この辺りまで北上してくると、夏の日光は肌をジリジリと刺してはくるものの、日中でも気温は30度前後しなく、日陰は涼しい。朝晩は防風のインナー着用を考えるほど涼しい。

八幡平

まだまだ真っすぐな国道282号を走り、道の駅「にしね」にて休憩。
ここからも岩手山が良く見える。地元の若いライダーが数人休憩をしていた。みんなスピードが好きそうな雰囲気だ。
ケガしたり、命を落としたりしないようにね。と。
そのまま道沿いに行けば今日の宿に到着予定だが、敢えて少し狭い道へ。県道227号に入る。
道沿いには住宅と商店が並んでいる。どんなに小さなお店でも駐車場が広いのは、さすが車中心の生活なんだなと思いながら。
昔はきっと、集落に数軒は雑貨屋さんなどがあり、徒歩でも買い物が可能だったのだろうけど、今となってはコンビニ形態のようなお店が1軒あればいい方だ。
今はインターネットも通販も便利になったので、やりようによっては左程不便無く暮らせるかも知れない。
道路が舗装化された次の革命は、やはり光ファイバー網なのかも知れない。
後から知ったが、この道は「七時雨カルデラライン」と言うらしい。この辺りは1日に7回も時雨れる程、天候が変わりやすい事から付いた名前だそうだ。3-4時間に一度は時雨れると言う計算になる。
実際、ずっと晴れていたが小さな雨雲が近づいて来た。八でも六でも無く、七と言う数字を選ぶ所が、昔の人のネーミングセンスって素晴らしい。

途中、田代平に出ると少し景色が広がる。
白樺の木が増え、幾分木の高さが低くなり涼しくなる。
ここからは県道30号になり、一応片側に電線と電柱があるので安心だが、周辺にはそれ以外の人工物は全くなくなる。夜は絶対に通りたくない環境だ。
広い畑が広がっている。高原野菜を作っているのだろうか。道の反対側は原生林。きっと、大昔に誰かが木を伐り畑へと開墾したのだろう。
民家も周りにはほぼないし、牛や馬で森を畑にするのはどれだけの時間を費やしたのだろうか。
もし、自分が山林を持っていたとして、重機を使わずちょっとやったろうかな、とは思えそうにない。
広い高原の真ん中を道が貫いており、大きな木もなく山が遠くに見える。
ここの景色だけで十分観光地になれそうなレベルなのに、人が居ない。
ここで初めて、四方を山で囲まれており、今いる場所がカルデラの中だと気づいた。
みんな長期休みと言えば海外!と決まった様に答えるが、日本も広く知られてない絶景もたくさんある。もっと日本を知ればいいのにと、ここの様な景色を見た時に思う。
外輪山の峠を抜けると、道は緩やかな下りになり、また民家と田んぼに変わる。
県道を少し進むと国道282号にまた合流する。周辺にコンビニとガソリンスタンドがあるのは調べ済みだ。
丁字路の信号。止まった瞬間にデジャブに襲われる。3日目にしてどこかと似ていたか?と思い左折。
ローソンとスタンドを見た瞬間に思い出した。去年泊まった宿と一緒だ…色んな場所を見たい私に取って、余程の事が無い限り快適であったとしても同じ宿には泊まらない。だが、ここは完全に記憶がある。
とてもいい所なのだが、予算の無い私は旧館で部屋に風呂トイレ無し。寮生活で鍛えられているので、そこは平気だが窓に夏だけ付ける小さいクーラー。そもそも外が涼しいので建てる時に、冷房は必要が無いとなったのだろう。
しかし、そのせいで隙間があり窓を解放して寝ようとすると、多数の虫の襲来に合う。今回は掌サイズの蛾と多数のカメムシだった。

3日目を終えて

何度も泊りがけのツーリングをしていると、何となく道選びに鼻が利くようになる。自分好みの道を行った事がなくても上手く選んでしまう。
前日の夜に、紙の地図でルートの下書きを考えスマホのナビにセットする。自分の好きなルートに偏った結果と更に、予算の兼ね合いもあって、この様に同じ宿になる事もあるのだが。
宿選びもかなり適当。先に書いた通り、進む距離の兼ね合いでこの辺り、と場所を優先して決めており、詳細は余り見ていない。
正直、日本国内で写真より古い、新しい程度の差はあってもとんでもない宿は存在しないと言って良い。口コミなんてどうでも良い。
基本は、大浴場があってご飯があって個室で寝れる、これが全ての条件。なので、クリアしてない所はまずない。
なお、旅の予算は凡そ1日辺りで1万5千円程度。宿はその内1万前後で2食付きをなるべく探していた。今はもっと値段が上がっていると思う。
県庁所在地に泊まらない限り、食事できる場所を探すのに苦労するので、2食付きがありがたい。
後、300㎞前後の走行なので毎日ガソリンは15-20L程度、4000円で収まる計算である。結果、飲料の購入などを考えると豪華なランチは食べられない。
しかし、知らない土地のコンビニで食べていると、地元の方によく話しかけられる。観光用のレストランより、遥かに地元の人とのコミュニケーションが取れる。それも楽しさの一つ。
残念な事と言えば、コンビニでは方言が聞けない。決まった言葉のやりとりしかないからだ。時々、私語や駐車場で知り合い同士の会話が聞こえてくると、分からない言葉も出て来るが、何だか楽しくなる。
大きな温泉宿では、申し訳ないと思いつつも支払いは大抵カードで行う。大量の現金を持ち歩いていない為、地方ではカードの使えないお店に当たった時に困るのを避けている。小さな集落のスタンドでカードとか、申し訳なさすぎる。
そして、毎日豪華な夕食、朝食の後なのでコンビニご飯はチープで変わらない味、と言うのも飽きないようにするコツの一つだと思っている。
ほぼ2食のような旅をしていると、それなりに痩せるのは?とお思いかもしれないが、夜と朝にがっつりお米を食べるので全く痩せない。

約330㎞

天気にも恵まれ順調に進む。4日目に続く。


自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…