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けつねうどん

仕事の取引先を怒らせて、一時期東京に単身赴任をしていた。
まあ、取引先に対して人事異動を迫る某大手の感覚もどうかと思うが、へいへい聞く自社にも怒り心頭だった。
会社としては、全く向かないやった事もない現場にいきなり放り込む事で、ほんなら辞めますわ~を期待していたようで、手続きに行った総務は知らなかった。

現場では多少役職が上なのに、全く何も知らない出来ないおっさんに、若い部下達がイライラで、忙しいのもあって研修なんてなかった。
そもそも、いい年してこんな人事異動させられる奴に関わった所で、良いことない。

ストレスで眠れない、汗が噴き出るそんな毎日だが、時間もあったし勉強もした、自画自賛で言っておくと、辞める時にはそこそこ必要としてもらってたし、頼られて気を使って貰えるくらいにはなった。

そんな単身赴任で、帰省費用は出ない会社だったから余り帰らなかったけど、時々帰った時は新大阪駅のコンコース奥にあるうどん屋に直行した。
そう、けつねを食べる為に。
バッテラとのセットが最高だった。(写真は頂き物ですが、正にこれ)
少し甘めの関西出汁と甘く煮た揚げ。これを食べると自分が関西に足を付けていると実感する。
それこそ、泣きそうになりながら食べる。
辛い毎日を思い出す。
負けるか!とか、そんな気力は無かった。ただ目の前で起きることをこなすしかなかった。失敗ばかりだし、覚えは悪いし、当然怒られ評価も下がる。若い人たちに勝てる要素がない。
入社時に現場は絶対にない、そこで必要じゃないから。なんて言われてたけど、会社なんてそんなもの、いつだって適当な理由をもっともらしく付けて前言撤回、朝令暮改。いいようにしてくれるなんて思ったら甘い。

東京では、本当に都会に住んだ。絶対に通勤電車に乗りたくないのと、圧倒的に孤独でいたかったから。
関西の比じゃないくらい、窓の外には24時間人が歩いてたし車も多かった。でも、全員知らない人で、何の関りもない。ただ、顔も知らずすれ違うだけの人々。
孤独は一人の環境で感じるのではないと、良く分かった。人が多ければ多いほど孤独を感じる。

そんな張り詰めた気持ちを解きほぐしてくれたのが、けつねうどん。
夏でも暖かいのを食べた。
何だかホッとして、毎日のあの都会の中に居る独特の緊張感が溶けた。
まさに融解。
東京に帰る時も食べた、一時の地元への別れの前にあの出汁を身体に染み込ませておきたかった。
1000円でお釣りが来るようなご飯だけど、都内の名店で食べるご飯より何倍も美味しかった。

暫くはあの味を食べることはないけれど、一生忘れられない。


自己肯定が爆上がりします! いつの日か独立できたらいいな…