見出し画像

最高の経営戦略構築へ学ぶ「企業戦略論」(1)

 新型コロナ禍において、残念ながら日本は、ワクチンの接種や開発などで世界に遅れ、全体を俯瞰する視野や、適切な戦略や制度設計の欠如等が露呈しました。けれども、日本の戦略や制度設計の弱みや欠如は、今に始まった事ではなく、80年近く前の、太平洋戦争時の日本軍を分析した著書「失敗の本質」に於いても、「あいまいな戦略目的」、「狭くて進化のない戦略オプション」、「主観的で帰納的な戦略策定」等々が敗戦の大きな原因として分析され、日本人に長年の歴史で培われた特徴とさえ言えるかもしれません。

 一方で、米英などアングロサクソン系は戦略の立案や構築を得意とし、 新型コロナ禍 のワクチン開発においては米ファイザー、米モデルナ、米ジョンソン・アンド・ジョンソン、英アストラ・ゼネカなどが世界をリードし、歴史的にも見ても「失敗の本質」でも描写される米軍の太平洋戦争勝利、海洋国家である大英帝国の18~19世紀の世界の席巻を初め、圧倒的優位性の枚挙に暇がありません。更に独自のビジネスモデルにより巨額の利益を生み出す米国の巨大IT企業GAFAや、経営分析手法デュポン・システム等から導き出される米国企業の高ROE経営も、巧みな戦略や制度設計の賜物と言っても過言ではないでしょう。世界最大のヘッジファンド創設者で、著名投資家のレイ・ダリオ(Ray Dalio)氏は、“Designing precedes doing . (設計は実行に勝る)”と述べていますが、優れた戦略や制度設計の構築は、企業競争で優位に立つ為には不可欠です。

 当投稿では、戦略論の大家である経営学者ジェイ・B・バーニー氏の著書「企業戦略論(上・中・下)」から学び、自社の経営に取ってベストとなる戦略を考え抜こうと言うのが趣旨です。(1)では、第1章「戦略とは何か」を題材とし、「企業ミッション」と 「創発戦略(emergent strategies)」 を取り上げます。

 まず「企業ミッション」ですが、 その会社の根本的な目的や長期目標等を意味し、 近年、日本の株式市場においても、その会社の存在意義は何か、何を目的として事業を営んでいる会社か、「経営理念」や「パーパス(目的)」は何かなどが、しばしば問われる様になりました。

 メガネ大手であるジェイアイエヌ(東証1部:3046)の田中仁社長は、経営が苦境に陥り、株価が41円を付けた2008年、雲の上の存在であったファーストリテイリング (東証1部:9983) の柳井正社長を紹介され、面会したところ、「御社の事業価値はなんですか?」、「ミッションはなんですか?」などと矢継ぎ早に質問され、返答に窮し、「志のない会社は、継続的に成長できない」との言葉を突き付けられ、そのショッキングな出来事が、会社に取っての大きな転機になったそうです。ビジョンを定めると、確固たる背骨が打ち立てられ、失敗しても納得し、自信を持ってアイデアを実行できる様になったそうです。

 現実の経済状況に即していない場合など、必ずしも全てのケースで当てはまらないものの、ミッションに基づき行動する企業は、平均的な企業に比べ、長期的な収益性が極めて高いと言う検証結果が示されています。

 次に「創発戦略(emergent strategies)」ですが、時間の経過とともに「出現、発現」してくるか、当初実行に移された時からは原型をとどめないほどに変容した戦略を言い、当初実行しようとした戦略を「意図的戦略(intended strategy)」と言います。

 当初、アメリカの二輪市場で、大型二輪で戦う事を決めていたホンダが、実際の市場と直面し、小型スクーターを軸とした事業展開に方向転換したり、医療用製品で勝負する事を念頭に置いていたジョンソン&ジョンソンが、偶然の重なりによって一般消費者向け製品を広く手掛け、売上高構成比の4割を占める至った例などが本書で取り上げられていますが、非常に成功している企業の戦略の多くが「創発戦略 (emergent strategies)」であるとの分析結果が出ています。裏返して言えば当初からの「意図的戦略(intended strategy)」 に固執していては成功の可能性はむしろ下がってしまい、現実の市場の中で、戦略や仮説を何度も組み直す柔軟性を持ち、本当に必要とされているニーズを掘り当てた企業こそが成功していると言えるのかもしれません。

 今回は以上となりますが、是非皆様の会社と照らし合わせ、志のある「企業ミッション」を抱いているか、伸び悩む事業や製品・商品があれば、戦略や仮説を何度も組み直す「創発戦略」は取れているか、振り返ってみて下さい。御一読頂き、どうもありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?