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女性必見!江戸時代のお風呂に入るときの化粧法。『容顔美艶考』解読⑫

今回は、かげの化粧といって鏡を見なくてもできる化粧法と、お風呂に入るときの化粧法についてご紹介します。

1.かげの化粧

かげの化粧は鏡に向かうには及びません。
上質の杉原紙※をよくもんで、
お顔の脂をしっかり拭き取れば、
お肌に杉原紙の香りが移ってよいでしょう。

 ※杉原紙=兵庫県杉原谷産の和紙の一種で
  柔らかく、色の白いのが特徴。
  主に武家の公用紙として使用された。

そしてもう一枚で仕上げにさっぱりと清拭き※
すれば、自然と薄化粧をしたようになります。

 ※清拭き=仕上げとしてさらに乾いた布で
  拭くこと

さて、一寸(3cm)ほどの絹の袋を作り、
極上の薄おしろいに丁子ちょうじ※と甘松かんしょう
各々三分(1.125g)合わせて細かく刻み、
この袋に一緒に入れて口を糸でくくります。

 ※丁子ちょうじ(クローブ)=
  フトモモ科の常緑高木で芳香がある

丁子(ちょうじ)

 ※甘松かんしょう=オミナエシ科の多年生草本で
  根や茎から香料を採る

甘松(かんしょう)

そしてこの袋で鼻先から口のあたりを
しずしずと押さえます。
これを鼻叩きともいいます。

また、白木綿を三寸(9cm)ほどに切って
熱い湯に浸し、これに片紅※を
たくさん塗り付けてよく乾かします。

 ※片紅=紅の一種

そして先の鼻叩きで押さえたあとに
この紅をつけます。

木綿の切れ端を唾で舐めて、くちびるの上下を
拭けば、紅はほどよく移って美しくなります。

これは時と場所によって
鏡よ眉刷毛よと大騒ぎしなくとも使える
たいへん勝手の良いものですから、
必ず用意しておきましょう。

2.風呂に入るときの化粧

お風呂に入るときは、つねにハマグリの
貝殻におしろいの塊を少し入れて
お入りになるとよいでしょう。

身体が温まってきたときにこのおしろいを
手の中でよく溶いて、手水を使うように
首筋からお顔はもちろん身体中に擦りこみ、
しばらく経ってからお湯で
サッと洗い落とします。

このように毎度なさると
肌におしろいが染み込んで、
いつもおしろいをつけない人でも
よくおしろいが落ち着きます。

あまりお化粧をしない人は
薄化粧の仕方がわからないものですから、
その場合はかえってよいかもしれません。

お風呂でお使いになるおしろいは、
アクの強い安おしろいがよいでしょう。

しかし、きちんとお化粧するときは
上等なおしろいがよいでしょう。

さて、お風呂に入るとき常に
羽二重の小切れでお顔を洗いますと、
キメが美しくなります。

もっとも、そのときはツバキ油※をつけて
洗いましょう。

 ※ツバキ(椿)油=種子から採る油を
  整髪や化粧品として利用

糠袋※を使って洗い粉などを
直接お顔にこすりつけて洗いますと
お顔が荒れたりかぶれたりしますので、
それは避けた方がよいと覚えておきましょう。

 ※糠袋=木綿や絹の袋に米糠を入れ、
  入浴時にこれで身体をこすって洗う


【たまむしのあとがき】

お風呂に入るときにも化粧をするとなると、年がら年中化粧しっぱなしで、相当お肌に負担がかかるうえに、精神的にもほっとする時間がなくてストレス溜まると思うのですが・・・。

ここまでするのは上流階級の方だけでしょうが、大変そうですね。

ところで、今回ツバキ(椿)が登場しました。

ツバキオイルの存在は現在でもシャンプーに利用されていますので、ご存知の方も多いと思いますが、本文ではヘアケアに関することには触れられておらず、あくまでも顔につけることに特化しています。

「つばきにてするべし(椿にて擦るべし)」

ツバキは化粧水として利用するものと勝手に思っていたのですが、よくよく見直すと、お風呂の中で顔を擦るということを言っているので、おそらくこれは洗顔のことを意味しているのではないかと思います。

つまり、「ツバキにて洗うべし」ではないかと。

ツバキオイルは整髪・化粧下地・洗顔せっけん・クレンジング・ハンドクリームさらには全身の乾燥対策保湿クリームと、何にでも使える万能選手だったんですね!

各化粧品会社のHPでもツバキの効能についてたくさん書かれているので、たいへん勉強になりました。


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