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『新しい年』 #短編小説

 1月4日午前9時
 小学校に、野球部員16名と、監督、コーチ5名が集合した。
「行くぞ!」
 ヘッドコーチの声を合図に、1列で、小学校横の小道を歩いていく。
 向こうに小さな鳥居が見える。その奥は池。そして、池の中には龍の彫刻が立っている。
「あ! きん○ま!」
 3年生のハルが、龍が持っている玉を指差して言ったので、みんなが笑った。

 池の横に手水舍があり、それぞれ手を清める。上級生は、1、2年生の手に水をかけてやる。
「みんな、ハンカチ持っとるか?」
 コーチが声をかける。
「上着脱げ!」
 上着を階段の手摺にかけ、池の向かいの境内に上がった。
 ユニフォーム姿になった部員達が横1列に並んだ。
 パン、パンッ
 柏手が神社内にこだました。
 
 小学校のグランドに戻り、今度は酒と塩で各ベースのお清めを行う。
「新キャプテンから、今年の目標の発表や!」
 5年生のユウトが前に出た。小さな紙をポケットから取り出し、黒板に文字を書いていく。

 5年生の部員はユウトだけだった。次期キャプテンがユウトになることは去年から決まっていた。
「次期キャプテンなんやから、もっとしっかりしろ!」
「おいおい、次期キャプテン。そんなエラーして大丈夫かあ?」
 と言われ続け、正直、泣きたい、逃げ出したい気持ちしかなかった。

 でも、もう決めたのだ。
 このチームは、オレがひっぱっていってやる!
 12月で引退したリョウ キャプテンのようにカッコよくなるんだ。
 一部金色に染めた頭に、太陽が差し込む。

 目標を叫ぶ。

勇気と革新
最後まで全力プレー

 
 部員達も復唱する。
 
グランド外の保護者達から拍手が沸いた。

 新しい年がはじまった。