小説 桜ノ宮 ⑲

可南の誘導により、紗雪は美里の実家へと向かった。
広季は公園で待機している。
いきなり会ったばかりの子どもとふたりきりになって不安だったが、可南が明るい子だったので紗雪はほっとしていた。
「探偵さんは、友達おる?」
「あー、いるっちゃあいるけど、最近会ってないなあ」
「じゃあ、彼氏は?」
「うーん」
修とよりを戻したわけではなかったので、紗雪は考え込んでしまった。
「おるんや!」
可南は黒目を輝かせた。
「え?かっこいい?」
もう、「彼氏いる設定」になってしまったので、そのまま話し続けることにした。
「おっちゃんやで」
「まさか、パパやないよな」
上目遣いに可南がすごんでくる。
「ちゃうちゃう。絶対違う」
紗雪は手を大きく振って全否定した。
「よかった!」
母親の友達の話を信用したくないのだろう。心が軽くなったのかスキップまでしている。
本当のところはどうなのだろう。
紗雪は広季のことを考えた。
曲がりなりにもそこそこ大きな企業の会社役員だ。
女と遊ぶくらいの金銭的余裕はあるだろう。また、若くして出世する男性はだいたいエネルギーが有り余っている。
「英雄色を好む」を地で行く男性を紗雪は今までの人生で何人も見てきた。ただ、広季の妻や子に対する愛情は本物であり、暑苦しすぎるくらいであることは、今までの様子から紗雪もじゅうぶん察していた。
自分は結婚しなくて正解だったかもしれない。
他人の結婚生活を傍目から見ているだけでもストレスを感じる。
紗雪は可南の背中を眺めながら、何かが吹っ切れたような気がしていた。
「ここ。おじいちゃんとおばあちゃんの家」
可南が指さす。
古い建物ではあるがモダンなデザインの家だった。
高い塀から桜の花びらがこぼれ落ちている。
可南が背伸びをして塀に備え付けられているインターホンを押した。
「はい」
「ママ。神様のお友達が来てるよ」
紗雪はマスクを少し上げてレンズに向かって会釈した。

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