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「書く力」 加藤周一の名文に学ぶ 著・鷲巣力 読書感想文

思想家・加藤周一の名文を編集著述業である鷲巣力が紐解いた一冊。

出だしは加藤周一の文章を意識した小気味良い短文が続く。
加藤周一の文章を一つ上げては、内容の運び方を説明するパターンが繰り返されていた。

近年ビジネス雑誌などで「良い文章」として紹介される結果を先に置いて内容を明かしていく「PREP法」を始め、加藤周一の作品で取られている様々な文章の書き方が紹介される。

鷲巣力によってどんどん解体されていく加藤周一の文章を読んでいると、途中から気恥ずかしくなってきた。
何だか、加藤周一が脱がされているような気持ちになってくるのだ。ついでに恥じらう加藤周一の姿も想像する。いやん。因みに加藤周一は北方謙三系の昭和のダンディさんである。

抽象的から具体的、具体的から抽象的を繰り返すなど、読者に伝わりやすい文章を書く加藤周一だが、ただ一つだけそれをしていない分野があった。

恋愛対象を形容する時、彼はその人を「美しい」としか表現していなかった。「美しい」をどんなふうに美しいとは書いていなかった。少なくともこの本で取り上げられている作品においてはそうだった。 

見た目は昭和のダンディさんでありながら、中身はそれに釣り合ったものではなかったのかもしれない。
実は奥手で、恋愛対象においては素直になれない男性だったのではないかと邪な想像をした。

この本は優れた文章の「解体新書」であるが、同じ事が続くと飽きがくるもので最後の方は退屈であった。

また、序盤に記されていた井上ひさしの言葉である「むづかしいことをやさしく やさしいことをふかく ふかいことをゆかいに」「ゆかいなことをまじめに」になぞらえていたのは途中までで、そこからは読者の教養が要求されるものが多かったように思う。

読みながら自分で調べ学んでこそ「ゆかい」になれる本で、正直面倒くさいが、そのへんの文章読本などよりも身になる内容がこの本には込められていると言っても過言ではないはずと私は思う。


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