見出し画像

「束縛」著・南口綾瀬 読書感想文

中年の女性ライターあやめは父親の訃報を受け、夫の豊とともに実家へと向かっていた。その間に自分の仕事や家族について回想をする。
その道中に弟から電話がかかってくる。
「父ちゃん、誰かに殺されたんだと思う」

文章自体はとても読みやすく、物語の中に自然に入り込めた。
また、主人公あやめの作品から物語へ導く手法や、時系列を不規則にしたり、それまでに無かったことを描いて引きつけた後にその内容を明かしたりする書き方は、読者をぼーっとさせず適度に頭を使わせるのでとても効果的だなと思った。

中盤に差し掛かった頃から、小説の持つ熱情の強さに圧倒させられた。
出だしはミステリーのようだったのだが、私はこの作品をそうとは思わなかった。たぶん、中盤の内容が純文学的であったから。

主人公はとても女性らしい。多くの男性に好かれるのはこういうタイプなんだろうなと思わせる。南口さんの作品を最後までしっかり読んだのはこれが2回目だが、主人公の女性のまじめさや思慮深さは男性の保護欲を掻き立てるに充足しているなと感じる。その分、利用もされやすいのではないかと心配になる主人公。それすらもとても「ヒロイン」らしい。

一方、一人称で書かれているからというのもあるが、主人公はものすごく自分を深く追求する。そこがとても純文学的だった。
つまり、途中でミステリーという大衆小説から純文学への揺らぎみたいなものを感じてしまったのだけど、そもそも文学に定型などはあってないようなものだし、その乱れみたいなものが終始作品に不穏さを漂わせていて、ああ小説を読んでいるなという気分に浸からせてもらえた。

また、その気分というのが、作者が小説に込めた熱情でひたすら強火に煮立たせられていたので後半に向けて読むスピードも上がった。
正直、気になる点があってもこの熱情だけで作品を高評価できてしまうなと思った。これが伸びしろで将来性ということなんだと改めて気づかされた。
私はこの熱情を失いがちだったので、いいな、すごいな、もっとやれーと読み進めた。

ラストは賛否わかれるのではないかと思う。ただ、そう思ったのは自分のなかで定型化したものがあるからだろうと思っている。
色んなものを集めて書かれたのか、一度壊してから書いたのかはわからないけど、この作品の持つ熱情にたくさんの人が炙られたり、のぼせたりしてみればいいと思うのだった。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?