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転校生のスミくんはいつもたんてきに話す。



「僕のことを端的に申し上げますと、つまり、たん的に話す人です。」



クラスのみんながキョトンとした目で見ている。



担任の先生が困ったような表情を一瞬して、微笑みながら、その場の空気を明るくさせようと口を開いた。


「スミくんはきっと、とっても頭の良い子なのね、好きな教科はなにかしら?」


「国語です。たんてきに申し上げますと、この本は面白いだとか、つまらないだとか、読んだ人によって、感想が異なります。


しかしながら、実際に味わった人にしか体験できないものがあります。


そして、本当に本が好きな人の感想は、信憑性が高く参考になります。


僕はほぼ毎晩本を読みますが、一枚一枚を大切に味わいながら、物語に浸るのが日課です。」



夢中になって話していたすみくんが、はっと、周りのまん丸な目が彼に向けられていたことに気がつくと、ぺこっと小さくお辞儀をして、席に座った。



すると、

「スミくんすげー!」

坊主頭の男の子が大きな声を上げて、立ち上がって拍手をした。


他の人もつられて、パチパチ拍手が鳴った。


「本ってつまらないと思ってたけどなんだか読みたくなってきた〜!

一番前の席に座っている女の子が、呟いた。



「うふふ、では、明日からの朝の読書タイムが楽しみね。」

と先生がみんなに語りかけた。



「えへへ。」

その子は朝の読書タイムで、お絵かきばっかりしていたらしく、自由帳を開いて、色鉛筆を握ったまま、笑った。


キーンコーンカーンコーン


「みんなスミくん来たばかりでわからないこといっぱいだから助けてあげてね。

スミくんこれから3年3組の一員としてよろしくね。

それでは、朝のホームルームを終わりにします。」


先生がニコっも微笑んで教室を出て行った。



「イエーイ!」


ドタバタ廊下に走って出て行く子や、友達の席にかけよる子たち、賑やかな学校生活の1日が始まった。


「スミくん、どっから来たの?俺は最近出たポケモンゲームにハマってる!

今度対戦しようぜ。あ、俺の名前は、中原ともや。ともって呼ばれてるよ。」


さっきの坊主頭の男の子がスミくんに話しかけてた。



するとスミくんが

「よろしくお願いします。なかはらともや、、、
たんてきに申し上げますと、ナカくんですかね。」

と答えた。



「?!俺ナカくん?!なんで〜?初めて呼ばれたー!笑
ナカくんでもいいよ〜面白いやつ〜。」



キーンコーンカーンコーン
予鈴がなった。




1限目は、算数。


「海苔が36枚あります。
鈴木さん家は4人家族です。
みんな平等に分けたら、1人分は何枚になるでしょう?」


スミくんはノートに計算式を書き始めた。


ん〜と


頭を悩ませて、書いては消してを繰り返した。



ようやく解決してスッキリした表情でノートを見つめている。

36÷4=9


たんてき=お父さん12枚、お母さん10枚、僕8枚、妹6枚


スミくんは嬉しくなった。




13:00

給食の時間が終わり、お昼休みになった。


給食が食べ終わらず、1人教室に残っている女の子がいた。
どうやら牛乳が苦手で、げっそりとした顔になっていた。



そこへ男の子が数人やって来た。

おい、くろげ、お前まだ牛乳飲んでないのかよ。だから鼻毛がでてるんだよ。」


彼女は、全く動揺せず凛とした立ち振る舞いをしていた。


すみくんの通路右隣にいたので、すみくんはその姿をぼんやりと見ていた。



くろげ、くろげ...


"黒毛 和子"
名札が見えた。


「くろげかずこ?!あなたは、くろげかずこさんとおっしゃるのですか?」

すみくんは思わず声をひっくり返して、聞いた。



くろげさんは一瞬驚いた表情をして、またからかうんでしょ?というように眉間にシワを寄せ、


「そうよ。」

と答えた。


「たんてにに申し上げますと、あなたのような高貴な方にお会いできるなんて、光栄です。とても素敵なお名前ですね。」



黒毛さんは、一瞬顔を赤らめて、照れてるのか怒っているのかどちらかわからない顔をした。



周りの男の子たちが、ぎゃははははと大笑いした。





なんやかんやで1日が過ぎていった。

スミくんは引っ越して来た2階建てのアパートに帰宅した。


お母さんが「おかえりなさい。新しい学校はどうだった?」と尋ねた。


あのね、あのね、とっても楽しかったよ。新しい友達ができて、、、!」


と興奮気味にすみくんが話し出すと、



お母さんが

「こら、たんてきに話しなさいっていつも言ってるでしょ。」

と叱った。



「はい、ごめんなさい。

たんてきに申し上げますと、

新参者の私のスペースをあけておいてくれて、凍るように緊張していた私を、じんわりとあたためてくれました。」


と答えた。



「そう。よかったわね!安心だわ。」


とすみくんのお母さんが頭を撫でた。









〜スミ君の本当の正体〜


実は、この ”たんてき”にいつも話す不思議な転校生スミ君

"端的" に話していたわけではないんです。


スミ君は、何でも "タン的" に話していたんです。


たん..


tann...


タン...



そう、あのタンです。




焼肉で食べるお肉の、あのタンです。




「転校生のスミ君はいつもタン的に話す。」



最後まで読んでいただき、どうもありがとうございました!