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金融緩和の効果について~初歩的な経済モデルを使って~

金融政策動画を! 見て! ください!!

https://youtu.be/mni4LXgGJyM

【高校政経】小春六花の高校政経 『日銀の金融政策』

 上の動画では、金融緩和の効果について「お金まわりが良くなる」と超絶誤魔化して語っておりました。それをもうちょっと経済モデルに添って解説してみようというのがこのnoteです。
 なお、あくまでもIS-LMモデルの範囲にとどめますので、実際の経済状況とは大きく異なる(可能性が高い)ことをご了承ください。

 また、動画内と若干用語が違うかもしれませんが、良い感じに脳内変換してください(え
 だいたいはこんな感じのはずです。たぶん。

noteで使った用語 動画で使った用語
マネーサプライ マネーストック
ハイパワードマネー マネタリーベース 
利子率 金利 

IS-LMモデルとは?(下準備)

 簡単のため、政府が存在しない小国閉鎖経済のIS-LMモデルを考えましょう。これは以下の2つの均衡式で書くことができます。

① Y=C(Y)+I(i)
② M/P =L(Y, i)

 ここで、Yは国民所得を表します。C(Y)は消費関数であり、ある国民所得Yの下での消費量を表します。I(i)は投資関数であり、ある利子率iの下での投資量を表します。国民所得は国民生産と同値ですから(∵三面等価の原則)、つまり左辺は財(・サービス)の供給を、右辺は財の需要を表しているのです。したがって、①は財市場の均衡式です。
 一方、Mは名目マネーサプライ、Pは物価水準ですから、M/Pは実質マネーサプライを指します。「サプライ」の通り、これは貨幣の供給を表します。L(Y, i)は貨幣需要関数であって、ある国民所得Yとある利子率iの下での貨幣の需要を表します。したがって、②は貨幣市場の均衡式です。

 とくに、①式を

Y-C(Y)=I(i)

と変形すると、左辺は貯蓄を表しますから、これをSと置くと、

I=S

の関係を表しているとも言えます。以後、この式をIS式と呼びます。

 同様に、②はマネーサプライMと貨幣需要関数Lの均衡式ですから、以後LM式と呼びます。

 さらに、それぞれを検討してゆくと、両式は次のように表現すると当てはまりがよいことがわかっています。

IS式:Y=C₀+αY+I₀-βi
LM式:M/P=kY+(μ-i)

 ここで、C₀+αYの部分は消費関数を、I₀-βiの部分は投資関数を、kY+(μ-i)の部分は貨幣需要関数を、それぞれ一次式で表現していることに注意してください。なお、α, β, k, μの定数たちは正です。
 これで下準備は完了しました。では本編へどうぞ!

預金準備率操作の効果

 動画内でも言及した通り、マネーサプライMとハイパワードマネーHの関係は、

M=[貨幣乗数]×H

という関係を持っているのでした。ここで、それぞれの定義が

マネーサプライ=現金通貨+預金通貨
ハイパワードマネー=現金通貨+準備預金

であったことを思い出すと、貨幣乗数は次のように書くことができます。

M/H=(c+1)/(c+r)

 ただし、cは現金通貨を預金通貨で割った比率(現金預金比率)、rは準備預金を預金通貨で割った比率(預金準備率)です。なお、当然のことながら、cもrも0より大きく、1より小さい正の数です。したがって、貨幣乗数はふつう1以上の正の数となるのです。

 そこで、預金準備率rを変化させる金融政策の持つ意味を考えましょう。
 簡単のため、他の条件はすべて一定とします。ただし、(あからさまですが)Yとiは内生的に決まるものとします。
(これはズルをしているわけではなく、ふつうIS-LMモデルではYとiが内生変数なのです)

 預金準備率をr₀からr₁(ただしr₀>r₁)に下げる操作は、どのような効果をもたらすでしょうか。まず、前述の貨幣乗数の議論から、マネーサプライがM₀からM₁に変化することがわかります。さらに、

(c+1)/(c+r₀) < (c+1)/(c+r₁) より、M₀<M₁

ということもわかりますね。すなわち、預金準備率を下げる操作は、マネーサプライの増加をもたらします。

 それでは、マネーサプライの増加は、IS式、LM式にどのような効果をもたらすでしょうか。

LM式:M/P=kY+(μ-i)

 LM式を思い出すと、物価が負であることはありませんから、左辺のマネーサプライ増加は、右辺の増加をもたらすことがわかります。つまり、Yの増加、もしくはiの減少、またはその両方です。
 しかし、IS式を思い出すと、他の条件が一定であるならば、両方をもたらしていると考えるほかにありません。

IS式:Y=C₀+αY+I₀-βi

 具体的に、iが減少すると考えてみましょう。iの係数である-βは、明らかに負です。したがって、他の条件が一定であるならば、右辺は増加しますから、左辺のYも増加していなければなりません。
 Yが増加する際も、ふつうαは1以上にならないことを考慮すれば、iが減少しなければならないことがわかります。

 したがって、他の条件が一定であれば、預金準備率を低下させる操作は、マネーサプライを増加させ、それがために、国民所得を増加させると同時に利子率を減少させるのです。

(なお、預金準備率を増加させた場合は、ちょうど逆のことが起きます)

量的緩和の効果

 量的緩和は、ハイパワードマネーを増加させる金融政策でした。さきほどの議論を思い出すと、貨幣乗数は正なのですから、他の条件が一定であれば、ハイパワードマネーHの増加はマネーサプライMの増加をもたらします。

M=[貨幣乗数]×H

 預金準備率操作の際に議論した通り、Mの増加はYの増加とiの減少をもたらすのでした。

  したがって、他の条件が一定であれば、量的緩和はマネーサプライを増加させ、それがために、国民所得を増加させると同時に利子率を減少させるのです。

 あっマジで数行で終わってしまった。
(当然、量的引き締めはマネーサプライを減少させ、以下同様に真逆のことが起きます)

 ところで、IS式、LM式それぞれに国民所得Yと利子率iがあらわれていることが、マネーサプライ増加による効果の検討をほんのり面倒にさせていますね。そこで、もしこの2つを内生変数とするならば、両式を変形することで、

国民所得の決定式:Y={(C₀+I₀)+β(M/P -μ)} / {(1-α)+βk}
利子率の決定式:i={k(C₀+I₀)-(1-α)(M/P -μ)} / {(1-α)+βk}

という2式を作ることもできます。
 この決定式で考えると、マネーサプライ増加の効果はより明快です。

 いま、Mが増加しているのですから、βや(1-α)+βkが正であることを踏まえれば、Yは増加するほかありません。また、-(1-α)は、αがふつう1以上にならないことに注意すれば、明らかに負ですから、iは減少するほかありません。

 とまぁ、こういう議論を経由しても、結局どちらも「国民所得増加、利子率減少」をもたらすのです。

利子率の操作

 さて、外堀うずめて内堀うずめて、いよいよ本丸です。
 え、内堀が随分浅かった? ……ナンノコトカワカラナイナー

 ともあれ、利子率の減少(利下げ)がどのような効果をもたらすか考えてみましょう。

IS式:Y=C₀+αY+I₀-βi

 IS式が上記の通りだとすると、他の条件が一定であれば、やはり-βが明らかに負であることより、iの減少は投資を増加させ、Yを増加させることがわかります。

 しかし、LM式はどうでしょうか。

LM式:M/P=kY+(μ-i)

 iの減少とYの増加が同時に起きているとすると、kやμ(やP)はただの定数ですから、右辺は明らかに増加してしまいます。ゆえに、左辺、つまりマネーサプライMも増加してもらわないと困るのです。

 マネーサプライの増加はどのように説明できるでしょうか? 答えを求めるとしたら、おそらく貨幣乗数しかありません。とくに、rは変化させていませんから、現金預金比率cが変化すると考えるとよいでしょう。

M/H=(c+1)/(c+r)

 cが減少する(すなわち、人々が現金よりも預金としてお金を持とうとする)ならば、ハイパワードマネーHが一定という条件の下では、Mは増加します。
(これらの仮定が成立していれば、利上げは投資を減らしてYを減らし、cが増えるのでMが減る、ということになりそうです)

 しかし、これは非常にアイロニカルな回答です。なぜなら、利子率が減少するというのは、預金しても雀の涙ほどの利子しかつかないということですから、この側面からは、現金としてお金を持つインセンティブを高めると言えてしまいます。

 ちなみに、00年ごろ、日本がバブル崩壊以後ずっと低金利をやって、なおGDPが成長しない(Yが増えない)理由は、このせいかもしれないと考えられていました。悪名高い「タンス預金」です。そこで、お金をだばーっと供給してやれば成長するんだ! というのが、21世紀の日本の量的緩和だったのです。

 まぁ結局は30年続いてるんですけどね、低成長。


おわりに

 今回はIS-LMモデルに添って金融政策をお話しました。しかし、利下げをあまりうまく説明できなかったように、これだけでは十分に説明できるとは言えません。

 なにせ、政府も貿易も考慮していないのです。鎖国どころか完全閉鎖、さらには政府がいない、万人の万人に対する闘争状態です。
 ちなみに、政府や貿易を考慮したものは「マンデル・フレミングモデル」と呼ばれています。とくに、金利差という要素を考慮した場合、利下げ→自国通貨安→輸出増という経路で一応のところYの増加を説明できたりします。

 なお、今回のnoteと動画は、意図的に「物価」という要素を一切考慮しないようにしました。あの"悪魔"の複雑さは「30年間物価を思うようにコントロールできていない」という事実でお察しください。え、日本がバカなだけだろって? 残念、アメリカですら現在進行形でインフレに苦しんでいます。
 ……ちなみに、アメリカはちょっと前までは「日本みたいに物価が上がらなくなるぞ!!」と警鐘をガンガン鳴らしていたんですよね。
 やったねたえちゃん、物価が上がったよ!
(ちなみに、物価を考慮すると、利下げや利上げをインフレとデフレの観点からもう少しうまく説明できます……が、景気との絡みは結構複雑な話になります)

 とはいえ、動画でも強調しましたが、経済はとことん複雑なのです。それもマクロとなればなおさら……
 政府、貿易、物価を考慮しても、到底、完璧なモデルなんかではありません。

 しかし、重要なのは「説明できる」ということです。小魚を裁くのに斬馬刀を使う必要はありませんし、むしろ邪魔です。
 そして、今回の利下げのよう、「説明できない」となったときに、考慮する要素を増やしてみることを考えればよいのです。

 まぁ、今回の利子率まわりの話は金融論とかそっちな気がしますけど……言わなきゃバレないバレない。

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