大塚真祐子

元書店員。 毎日新聞文芸書評欄、出版社「港の人」HPにて「まばたきする余白ー卓上の詩と…

大塚真祐子

元書店員。 毎日新聞文芸書評欄、出版社「港の人」HPにて「まばたきする余白ー卓上の詩とわたし」、朝日出版社WEBマガジン「あさひてらす」にて「何を読んでも何かを思い出す」を連載中。 執筆のご依頼はこちら→komayukobooks@gmail.com

最近の記事

  • 固定された記事

書店員の仕事はシット・ジョブなのか?

【近刊告知】 発売までは少しだけ先ですが、前もって告知しておきたいので、書くことにしました。 長くて申し訳ありませんが、こちらに関してはかいつまんででもいいので、読んでいただけるとうれしいです。 9/18取次搬入の、月曜社の不定期刊行誌『多様体』6号に原稿を書きました。 タイトルは「書店員の仕事はシット・ジョブなのか?」です。 店舗の形態も会社もさまざまですが、書店の仕事を、アルバイトも含めて30年近く続けました。 その間、書店員の仕事は楽になるどころか、どんどん厳しく

    • 地図とその分身たち、バリ山行、この世の道づれ

      8/28(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されました。 次の3冊をあげました。 ①東辻賢治郎『地図とその分身たち』講談社 ②松永K三蔵『バリ山行』講談社 ③高橋順子『この世の道づれ』新書館 東辻さんのお名前を知ったのは、レベッカ・ソルニットがきっかけだったと思います。 ①を読むのには、とても時間がかかりました。書かれている内容がとても広汎で、自分のもっている知識では、すぐには追いつかなかったこと、かつ文章の濃密さに、読み飛ばすという行為が一切できなかった

      • スイマーズ、その猫の名前は長い、月日のおとなひ

        お知らせが遅くなりましたが、 7/31(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されております。 次の3冊をあげました。 ①ジュリー・オオツカ『スイマーズ』(新潮社クレストブックス) ②イ・ジュへ『その猫の名前は長い』(早川書房) ③大木志門・徳田秋聲随筆集編輯部編『月日のおとなひ 徳田秋聲随筆集』(手のひらの金魚) 日系移民を描いた前作『屋根裏の仏さま』も話題となった著者の新作である①は、さまざまな人々が集まり思いおもいに泳ぐ市民プールを舞台にはじまり、やがて「

        • ミツバチと幻

          気づいたら半年ぶりでした。 朝日出版社WEBマガジン、あさひてらすの連載「何を読んでも何かを思い出す」が更新されています。 第20回は「ミツバチと幻」です。 是枝裕和監督の初長編作品『幻の光』は、わたしにとって長らく意味深い映画で、今回のエッセイではまずそのことを書いています。 「何を読んでも…」のタイトルに反して、今回は映画作品が中心で、読んだものについてはほとんど…『幻の光』の原作くらいしか出てきません。 が、まあ「読む」という行為はすべてにともなうものなので、別にい

        • 固定された記事

        書店員の仕事はシット・ジョブなのか?

          別れを告げない、若い男/もうひとりの娘、なめらかな人

          すっかり投稿を忘れていました… 6/26(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されております。 次の3冊をあげました。 ①ハン・ガン『別れを告げない』(白水社) ②アニー・エルノー『若い男/もうひとりの娘』(早川書房) ③百瀬文『なめらかな人』(講談社) あまりに知らなさすぎたので、「四・三事件」についても、参考文献をいくつか読みましたが、仮に出来事に詳しくなかったとしても、斎藤真理子さんの訳文には、おそらく原文からにじみ出る「静寂」や「沈黙」のようなものが含

          別れを告げない、若い男/もうひとりの娘、なめらかな人

          私の身体を生きる、長い読書、わからない

          5/29(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されております。 次の3冊をあげました。 ①西加奈子他『私の身体を生きる』(文藝春秋) ②島田潤一郎『長い読書』(みすず書房) ③岸本佐知子『わからない』(白水社) 小説や詩歌でとりあげたいと思うものが3冊そろわず、今回はあえてエッセイで3冊あげてみました。 17名の「私」が自らの身体と向き合うリレーエッセーとうたわれた①について、一見してジェンダーやフェミニズムの気配を感じつつ、最近多く刊行されるようになった「

          私の身体を生きる、長い読書、わからない

          白水社「エクス・リブリス」小冊子に寄稿しました

          白水社「エクス・リブリス」15周年を記念した小冊子に寄稿しました。 パク・ソルメさんのインタビュー、 翻訳家である木下眞穂さん、 木原善彦さんの寄稿とともに、 大塚の文章が掲載されているという… なんと、なんと、畏れ多い… 実物が届き手にとって見て、あらためて青ざめた次第です… 「エクス・リブリス」には、特別な思い入れがあり、 アレハンドロ・サンブラ『盆栽/木々の私生活』に関する記憶が、 その「思い入れ」につながっています。 小冊子では「「わからない」という扉」という

          白水社「エクス・リブリス」小冊子に寄稿しました

          『本の雑誌』6月号に「柴崎友香の10冊」を書きました

          発売中の『本の雑誌』6月号に、 「物語と一体化した目」と題して、柴崎友香さんの作品を10冊紹介しています。 年明けに読んだ『続きと始まり』がとんでもなく素晴らしくて、柴崎友香の10冊なんて書いてみたいなあ、と軽くつぶやいたところ、ありがたいことにご依頼をいただきました。 選んだ10冊はスタンダードだと思います。 個人的な好みから言えば、あれもこれも入れたかったのですが、柴崎作品への入口となるべく、代表作、受賞作を中心に選んでいます。 自分なりの、かなり踏みこんだ読解もして

          『本の雑誌』6月号に「柴崎友香の10冊」を書きました

          生きる演技、死なれちゃったあとで、ひとが詩人になるとき

          4/24(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されております。 次の3冊をあげました。 ①町屋良平『生きる演技』(河出書房新社) ②前田隆弘『死なれちゃったあとで』(中央公論新社) ③平川克美『ひとが詩人になるとき』(ミツイパブリッシング) こんな小説を書いていたら、常人なら狂う。 かつて、大江健三郎『万延元年のフットボール』を読んだときにそう思ったのですが、それ以来でした。 この熱量で文章を、小説を書いていたら狂ってしまう、①を読みながら、強くそう思いました

          生きる演技、死なれちゃったあとで、ひとが詩人になるとき

          方舟を燃やす、散歩者の言葉、あなたの迷宮のなかへ

          3/27(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されております。 次の3冊をあげました。 ①角田光代『方舟を燃やす』(新潮社) ②新居格著・荻原魚雷編『新居格随筆集 散歩者の言葉』(虹霓社) (3)マリ=フィリップ・ジョンシュレー/村松潔訳『あなたの迷宮のなかへ カフカへの失われた愛の手紙』(新潮社) ①を読んで、橋本治『草薙の剣』を読んだときのことを思い出しました。 時代も登場人物も物語の構造も異なりますが、年表に記されるような大文字の「歴史」の向こうには、

          方舟を燃やす、散歩者の言葉、あなたの迷宮のなかへ

          『文學界』4月号に書評が掲載されています

          告知が遅くなりましたが、現在発売している『文學界』4月号に書評が掲載されています。 先月の毎日新聞文芸時評欄でも書いた、沼田真佑さんの『幻日/木山の話』(講談社)の書評です。 文芸時評欄の文字数では書き足りなかった、というのは事実ですし、そのように記しもしましたが、まさか『文學界』からご依頼をいただけるとは…! 『文學界』への掲載ははじめてです。 デビュー作であり、芥川賞受賞作でもある『影裏』で、初めての文庫解説を書かせていただいた沼田作品の書評ですので、本当に本当に

          『文學界』4月号に書評が掲載されています

          みどりいせき、ともしい日の記念、白い箱

          告知が遅くなりましたが、2/28(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されました。 次の3冊をあげました。 ①大田ステファニー歓人『みどりいせき』(集英社) ②片山廣子/早川茉莉編『片山廣子随筆集 ともしい日の記念』(筑摩書房) ③正岡豊『白い箱』(現代短歌社) ①は初出の『すばる』で目にしたとき、読めるかなあ、と、はじめは正直思いました。 読んでみたら、とくに季節や風景の描写がとても静謐で、饒舌な口語との対比に驚きました。 そして、とても切実に「いま」を伝え

          みどりいせき、ともしい日の記念、白い箱

          永瀬清子「彗星的な愛人」

          港の人連載「まばたきする余白 卓上の詩とわたし」の最新回が公開されています。 12回目にしてはじめて、「荒地」以外の詩人、永瀬清子の「彗星的な愛人」をとりあげております。 永瀬清子の詩には個人的な思い出がいろいろあって、以前に「何を読んでも何かを思い出す」にも書きました。 生活者であることと芸術を志すこととは、相反しないものだとわたしは思っています。 日常や暮らしときれいにむきあうかたちで、「苛烈な情愛」や「絶対的な孤独」も存在すると思っています。 僭越ながら、永瀬

          永瀬清子「彗星的な愛人」

          カーブする駅のホームと銀色の車

          朝日出版社WEBマガジン「あさひてらす」で連載中の、「何を読んでも何かを思い出す」、第19回目が更新されました。 タイトルは「カーブする駅のホームと銀色の車」です。 高校生のころを思い出したのは、間違いなく柴崎友香『続きと始まり』がきっかけでした。 ※3/22追記 柴崎友香さんがX(旧twitter)で、紹介してくださっていました。 https://twitter.com/ShibasakiTomoka/status/1770767074991751364?t=5Wvr

          カーブする駅のホームと銀色の車

          1/31(水)毎日新聞夕刊に書評が掲載されています

          1/31(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、2ヶ月ぶりの3冊書評が掲載されております。 次の3冊をあげました。 ①柴崎友香『続きと始まり』(集英社) ②沼田真佑『幻日/木山の話』(講談社) ③城水めぐみ『甘藍の芽 城水めぐみ川柳句集』(港の人) ①柴崎友香さんという作家は不思議だな、といつも思います。 ベテランの域なのに、どの作品にも新人のような新鮮さがあり、 『きょうのできごと』から、印象はそれほど変わらないのに、変わらない印象のまま、どんどん厚みが増している気がします

          1/31(水)毎日新聞夕刊に書評が掲載されています

          ブレイディみかこさん『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』の書評を書きました

          「週刊読書人」1月19日号に、ブレイディみかこさん『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』(KADOKAWA)の書評を書きました。 ブレイディさんの「小説」です。 6つの作品が収録されています。 推測できると思いますが、タイトルは「私小説」と「労働小説」をかけ合わせた、ブレイディさんの造語になっています。 「お仕事小説」というどこか軽い表現に対するアンチテーゼの意味が含まれていることも、すでにブレイディさんがインタビューで明らかにされています。 「初の自伝的小説」との謳い文句で

          ブレイディみかこさん『私労働小説 ザ・シット・ジョブ』の書評を書きました