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方舟を燃やす、散歩者の言葉、あなたの迷宮のなかへ

3/27(水)の毎日新聞夕刊文芸時評欄にて、3冊書評が掲載されております。
次の3冊をあげました。

①角田光代『方舟を燃やす』(新潮社)
②新居格著・荻原魚雷編『新居格随筆集 散歩者の言葉』(虹霓社)
(3)マリ=フィリップ・ジョンシュレー/村松潔訳『あなたの迷宮のなかへ カフカへの失われた愛の手紙』(新潮社)

①を読んで、橋本治『草薙の剣』を読んだときのことを思い出しました。

時代も登場人物も物語の構造も異なりますが、年表に記されるような大文字の「歴史」の向こうには、つねに数多の個人の暮らしやつぶやきがあり、その連なりの先にいまの自分があるということが、そのころ祖母を亡くしたばかりだった自分には、無性に響きました。

①に出てくる登場人物たちは、自分よりも少し年上ですが、彼らのたどってきた道、そのなかで育まれた考え方や価値観、現代への視線について、自分ごととして理解できました。
だれもがだれかの正しさのために、必死だったのだと。善悪でも正義でもなく、その必死さにひとときだけ、ただ寄りそいたい。
読みながらそんなふうに思い、物語のなかの登場人物ひとりひとりに、たしかに触れることのできた一冊でした。

②を編集された荻原魚雷さんのブログ「文壇高円寺」ではじめて目にしたのが、新居格の名でした。

パール・バック『大地』の翻訳者であることは知られていても、このような穏やかな筆致の随筆の書き手であることは、魚雷さんの紹介がなければ知ることはありませんでした。
穏やかさのなかに揺るぎなき芯があることも。

③は手にとるまで、書簡公開かと思っていたら、手紙を創作したというので驚き、読んでみてその寄り添い方の深さにさらに驚愕しました。

事実はひとつである、というのはまぎれもないことですが、真実はいくつかあってもいいのだと思います。それこそ人の数だけ真実があって、それが「ある」ということにかぎっては、他人から判断されるような類のものではないのだと思いました。

以上、有料記事で申し訳ありませんが、下記からお読みいただけます。

また、こちらの毎日新聞文芸時評欄の執筆担当は、任期延長につき、あと一年つづきます。
ひきつづきよろしくお願いいたします!



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