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「料理本の読書会」連載14回目のテーマは、お弁当

双子のライオン堂書店の店主、竹田信弥さんとライターの田中佳祐さんの2人による連載、「料理本の読書会」14回目です。今回は「お弁当」をテーマに話を進めていきます。取り上げた本は、さまざまな職業、年齢の人たちのお弁当とその人へのインタビューを収録した『おべんとうの時間』。お弁当から、その人の暮らしや人生の一端を覗くようなこの本を読みながら、2人もそれぞれのお弁当にまつわる思い出を語り合います。家族が作ってくれたもの、手探りながら自分で作ったもの、味わいはさまざまですが、その記憶から、よみがえってくる思いや気づきがあるようです。また、突然の最終回にはなりますが、2人が紹介してくれたおすすめのお弁当レシピにもご注目を! どうぞ楽しみながらご自身のお弁当エピソードを思い描いてみてください。

お弁当の時間です


田中
 みなさん、こんにちは!レシピ本から調理の歴史の本まで、さまざまな料理本を紹介する「料理本の読書会」が始まりました。ライターの田中と双子のライオン堂書店の竹田の2人が、わいわい本と料理のお話をお届けします。
竹田 なんだかお腹減ってきちゃったなあ。
田中 読書会が始まったばっかりじゃないですか。でも、そんなことだろうと思って、お弁当を買ってきましたよ。
竹田 わ! 津多屋の「のり弁」じゃないですか。芸能人がよくロケ弁で食べるやつ!
田中 家の近くに津多屋があるんですよね。子どもの頃から食べていました。
竹田 海苔が二段になってる! このかぼちゃのサラダみたいなやつ、めっちゃ美味い!
田中 僕はそぼろ弁当にしました。津多屋はお弁当だけじゃなくて、唐揚げとかコロッケも美味いんですよね。
竹田 うちは母が料理好きなんで、外食も少なくお弁当も買わない家でしたね。
田中 僕は、大学4年生の頃に毎日お弁当作ってたなあ。
竹田 えらいですね。お弁当のことを考えると、なぜか過去の思い出がよみがえってきますよね。
田中 というわけで、今回は『おべんとうの時間』(写真・ 阿部 了、文・阿部直美 木楽舎)を紹介します。

『おべんとうの時間』(写真・ 阿部 了、文・阿部直美 木楽舎 2010)
全日空機内誌『翼の王国』の人気連載をまとめたフォトエッセイ集。現在第4集まで発売中。
『翼の王国』eライブラリはこちら


たった一つのお弁当


田中
 『おべんとうの時間』は、たくさんのお弁当とそれを食べる人々を紹介する本です。本を開くとお弁当の写真とエッセイが掲載されていて、手延べ素麵職人や高校生、アイヌ歌舞手、幼稚園児などさまざまな人生に触れることができます。
竹田 お弁当の写真を眺めるだけでも楽しいですよね。梅干しを乗っけたTheお弁当を持っている人もいれば、サンドイッチを詰めてる人もいれば、付け合わせにトマトを丸ごと持ってきてる人もいる。
田中 僕はデカいおにぎり1個をドン! と持ってきていた「集乳」を仕事にしている人のインタビューが気に入りました。
竹田 握りこぶしよりも大きなおにぎりを、黙々と食べている写真が印象的でした。
田中 「集乳」という仕事を初めて知りました。牛舎を巡って牛乳を集めてJAに届ける仕事だそうです。
竹田 このインタビュー、想像が膨らむね。おじさんが早起きして大きなおにぎりを握って、牧場へと出かけていく姿が目に浮かびましたよ。
田中 僕は街を歩いている人たちが、どんなお弁当を持っているのか気になるようになりました。
竹田 おにぎり1個だけお弁当で思い出しましたけど、鉄火巻きだけシンプルお弁当もありましたね。
田中 大学教授のお弁当ですね。このインタビューも、僕好きだったなあ。鉄火巻き一本を竹の皮で包んで持っていくのが洒落てますよね。
竹田 このお弁当を作るエピソードがいいですよね。9匹の猫を飼っていて、猫が食べるマグロの余りが出たときだけ鉄火巻きのお弁当を作る。
田中 巻き寿司は良いアイディアだなって思って真似しました。
竹田 お弁当箱の洗い物出ないし。
田中 なんとなく、忍者感が味わえるし。
竹田 え? 忍者って巻き寿司食べてたっけ?

お弁当で世界を巡る


田中
 竹田さんが印象に残ったお弁当はありますか?
竹田 この本って、お弁当の中にその土地の名産物や郷土料理が混じっていたりして、ほんのり地域を知る楽しみがあると思うんですよ。
田中 見たことのない具材があって、食べてみたい! って思ったのがいくつかありました。
竹田 その料理について、あまり説明がないんですよね。
田中 そうなんですよ。それで、竹田さんはどのお弁当が印象に残っているんですか?
竹田 英語講師をやっている人のお弁当ですね。外国の方なんですが「お弁当」っていうキーワードから、全然違う文化が浮き上がってきて、驚きました。
田中 クスクスでしたっけ?
竹田 そうですね。お弁当の中身もそうなんですが、インタビューでは母国でのお弁当事情にも触れられていて、勉強になりましたね。
田中 カナダ出身でしたっけ?
竹田 はい。この方の出身の州では小学校、中学校と給食がないのに、お弁当を持っていく習慣もない。一度、お昼ご飯を食べに家に帰るんです。なので、家で家族が作って待ってくれている。家族が働いていて用意できない場合は、シッターさんの家に行って食べる。
田中 料理を作る家族は大変だけど、ちょっと楽しそうですよね。
竹田 さらに、この方はお昼ご飯のために、転校と引っ越しを計6回もしたんです。理由は、シッターさんが見つからないから。カナダでは、珍しいことではないらしいけど……大変だよね、交友関係とか。多感な時期だしさ。
田中 どんな料理が出るか、シッターさん任せだから、バランスのとれた食事じゃなかったって振り返ってますね。
竹田 ジャンクフードを出すシッターさんもいるそうです。中学生くらいからは、自炊してシッター問題は解決したと言ってました。自分で作ると、今度は肉料理ばっかりになる問題が発生したみたいですけどね。
田中 自分だったら何を作るかなぁ。煮込みハンバーグか、牛すじの赤ワイン煮込みとか。
竹田 煮込んでる間に、お昼休みが終わっちゃうよ。


お弁当は好きですか?


竹田
 田中さんはお弁当の思い出ってありますか?
田中 冒頭でも話したけど、大学生の時に毎日のようにお弁当を作っていました。
竹田 僕は、お弁当と学食の二刀流だった!
田中 それはただの食いしん坊でしょ! 僕は一人暮らしをしていたので、スクリュータイプの蓋がついたプラスチック容器に汁物をいれて、冷凍ご飯と一緒に持って行ってましたね。ポトフとかカレーとか。
竹田 お弁当の定番、冷凍食品じゃないんですね。
田中 温かいご飯が食べたくて、いつも汁物にしてました。研究室の電子レンジでチンして、熱々を食べる。
竹田 土井善晴の「一汁一菜」を先どりしてたわけですね!
田中 でも、お弁当を作るのはあんまり楽しくなかったな。出来立てのアツアツの料理を食べるのが何よりも好きなので。お弁当はどんどん冷めて固くなっちゃう。当たり前だけど。
竹田 レストランとか行くと、料理が届いたら一番先に手をつけますもんね。
田中 出来た瞬間が一番うまいと思ってますから。特にご飯ものは。
竹田 そういえば、田中さんは、双子のライオン堂書店に来るときにパンを買ってきてますよね。
田中 パンは最初から冷めても美味いようにできてるから! サンドイッチは冷やしてもうまい!
竹田 でもトーストとかクロワッサンは、焼いた方が美味いよ。
田中 ぐぬぬ。


キャラ弁、親子の攻防


田中
 竹田さんは、お弁当にまつわる思い出はありますか?
竹田 幼稚園の母のキャラ弁ですかね。
田中 いいお母さんじゃないですか。
竹田 今思えばそうなんですけど、当時はまだキャラ弁なんて言葉はなかったですし、幼稚園の時って周りから「可愛い〜」って言われるのって、嫌じゃないですか。
田中 え? いい思い出じゃないの?
竹田 そうなんですよ。毎日嫌で嫌で……憂鬱でしたね。
田中 どんなキャラクターが描かれていたんですか?
竹田 僕が好きだったドラえもんとかミッキーとかだったと思いますね。母がイラストレーターをしていたこともあり、めっちゃクオリティー高かったんです。友達に褒められたりもしたんですけど、それも嫌だった……。とにかく、目立ちたくない、注目されたくない子どもだったのに、注目されちゃう。
田中 幼い頃って、親の思いと自分の思いが噛み合わないことってありますね。
竹田 僕は覚えてないんだけど、親が言うには、ある日突然「こんなお弁当嫌だ!」って叫んでお弁当をポイってしたらしいんですよ。
田中 フリップに絵と文字で「梅干しとご飯の量が反対」「海苔が虫の形に切ってある」とか描いて。
竹田 それは大喜利の時のフリップ芸人じゃん! ひどい話だよね。一生懸命作ってくれていたのに、恩を仇で返すような仕打ち。申し訳なかったな。
田中 そういう本があったの思い出した。『今日も嫌がらせ弁当』(ttkk(Kaori)著 三才ブックス)って、実話をもとにした話で、映画にもなってる。竹田さんも小説にして、映画化しましょう。
竹田 真正面からの二番煎じじゃん! その映画の告知見た時に、うちもあったなぁって思ったのを思い出した。『今日も嫌がらせ弁当』は、反抗期の娘が無視したり生意気言ったりするのに、母親の作る弁当は持って行くから、ちょっと嫌がらせをしようとして、海苔で「呪い」の文字を刻んだり、卵とカニカマで「木工ボンド」を作ったり、と変なお弁当を作り続けるっていう話です。
田中 娘の方も3年間、持って行き続けるわけですからね。その関係性もいいですよ。
竹田 たしかに。僕なんてたぶん数回ですからね。今だったら自慢してるかもしれないですね。
田中 次に実家に帰った時に、キャラ弁作ってもらったらいいんじゃないですか。
竹田 そうね。今ハマってるのはゾンビ映画だから、ゾンビ弁当ですかね。
田中 それ、嫌がらせじゃないの?

『今日も嫌がらせ弁当 反抗期ムスメに向けたキャラ弁ママの逆襲』
(ttkk(Kaori)著 三才ブックス 2015)
人気ブログの書籍化。2019年には篠原涼子主演で映画化もされ話題に。

最終回!?


田中
 ここでみなさんにお知らせです。今回でこの大人気の連載も最終回となります!
竹田 約1年間、楽しかったですね。著者の人もお呼びしてイベントもしました。
田中 料理を作って、本の話をしてる時間は最高ですね。
竹田 読者のみなさんにも、友人と料理本について語り合ってみて欲しいです。美味しいご飯を食べながらね!
田中 というわけで「料理本の読書会」は終了になりますが、良いニュースがあります!!!
竹田 僕たちの新連載がスタートします! 食と本をテーマにした連載になる予定ですので、お楽しみに。
田中 それではみなさんさようなら、またお会いしましょう!
 
(その後、今までの料理本の思い出を語り合う竹田と田中であった)


おまけコーナー:2人のお弁当レシピ

「高いパン屋のオープンサンドイッチ」


竹田
 最終回ということで、突然おまけコーナーを始めてみました。2人のお弁当をレシピを紹介します。
田中 僕が出かける時に作るのはサンドイッチですね。
竹田 何を挟むんですか?
田中 まあ、慌てないでください。まずは、近所の高いパン屋に行って食パンを買います。
竹田 なるほど、そこからですか。
田中 それで、パンを片手に適当な場所にピクニックに向かいます。
竹田 仕事に持っていくお弁当とかじゃなくて、レジャーのお弁当ね。
田中 良い感じのデカい公園の最寄り駅に着いたら、まずスーパーを探します。
竹田 まだ、パンしか持ってないですからね。
田中 ハムとクリームチーズとレタスサラダとブドウを買います。あと、サンドイッチにしたいものを適当に買います。
竹田 現地調達なんですね。
田中 その後ピクニックをして、さっき買った食材を全部パンに挟んで食べます。
竹田 普通に美味しそう。
田中 これが僕の最高のお弁当です。

「パスタのお弁当」


竹田
 僕は、お店用に知り合いから電子レンジをいただいたので、パスタ弁当を食べてますね。
田中 パスタ弁当? なんですかそれは?
竹田 家から、耐熱タッパーに、半分に折ったパスタとシーチキンの缶、ネギとチューブニンニク、コンソメを入れて、お店に持ってきます。
田中 あっさり味ですね。
竹田 お店であったかい茹でたてのパスタが食べれるので感動してますよ。
田中 茹でてる、と言っていいのか疑問なところだけど……耐熱タッパーでパスタ作るの、少し前に流行りましたよね。
竹田 普段あまり電子レンジを活用してこなかったけど、これからは色々チャレンジしてみたいです。
田中 明太じゃがバターはレンジでやったら簡単ですよ。
竹田 今度、タッパーにじゃがいもと明太子入れて、行きますね。
田中 もし、持ち物検査されたら、お弁当ですって言っても信じてもらえないでしょうね。
竹田 持ち物検査なんてされないだろ、学生じゃないし!
 
(今度こそ、本当におわりです。ありがとうございました!)


文・構成・写真
:竹田信弥(双子のライオン堂)、田中佳祐
イラスト:ヤマグチナナコ


著者プロフィール:
竹田信弥(たけだ・しんや)

東京生まれ。双子のライオン堂の店主。文芸誌『しししし』編集長。NPO法人ハッピーブックプロジェクト代表理事。著書に『めんどくさい本屋』(本の種出版)、共著に『これからの本屋』(書肆汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)、『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)など。最新刊は、田中さんとの共著『読書会の教室――本がつなげる新たな出会い 参加・開催・運営の方法』(晶文社・写真下)。FM渋谷のラジオ「渋谷で読書会」MC。好きな作家は、J.D.サリンジャー。

田中 佳祐(たなか・ けいすけ)
東京生まれ。ライター。ボードゲームプロデューサー。NPO職員。たくさんの本を読むために、2013年から書店等で読書会を企画。編集に文芸誌『しししし』(双子のライオン堂)、著書に『街灯りとしての本屋』(雷鳥社)がある。出版社「クオン」のWEBページにて、竹田信弥と共に「韓国文学の読書トーク」を連載。好きな作家は、ミゲル・デ・セルバンテス。好きなボードゲームは、アグリコラ。

双子のライオン堂
2003年にインターネット書店として誕生。『ほんとの出合い』『100年残る本と本屋』をモットーに2013年4月、東京都文京区白山にて実店舗をオープン。2015年10月に現在の住所、東京都港区赤坂に移転。小説家をはじめ多彩な専門家による選書や出版業、ラジオ番組の配信など、さまざまな試みを続けている。

店舗住所 〒107-0052 東京都港区赤坂6-5-21
営業時間 水・木・金・土:15:00~20:00 /日・不定期
公式HP https://liondo.jp/
公式Twitter @lionbookstore

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