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小説|春の境界線

 君の部屋を僕は今もまだ片付けられないでいます。あの日からめくられていないカレンダーは十一年前の三月のまま。今日で二月が終わります。明日から三月になりますが、まだ冬は続いている気がしてなりません。

 少し調べてみました。暦の上では二月四日ごろの立春から春とされます。天文学では三月二十一日ごろの春分の日から春だとされています。そして、気象学においては明日、三月から春と区別されているようです。

 あたりまえのように過ごしている季節でさえ、境界線は曖昧なのですね。温かい日が続いたかと思えば、とつぜん寒くなり、やがてまた暖かくなる。そうやって少しずつ、少しずつ、春は来るのでしょう。

 三月になったからといって、十一年が経ったからといって、僕は明日から君のいない日々を暖かくは思えません。それでも僕は君の古いカレンダーを明日、片付けようと思います。少しずつ、少しずつ、春に近づくために。






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ショートショート No.373

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