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アジア紀行~ベトナム・ホーチミン⑦~

フォー・ボー(Phở Bò)

昼過ぎにホテルに戻ったあと、シャワーを浴びてベッドに横になったら眠ってしまった。1時間ほどして目が覚めて、スッキリ。
ベンタイン市場のすぐそばにあったフォーの店「フォー2000」に向かう。
奥の方の席にすわり、メニューを見て「フォー・ボー」と「アイスティー」を注文する。「ボー」とは牛肉のことである。

牛肉はスライスしてある。別皿の香草は自由。スープは牛骨の出汁をベースにしてある。とても美味しい。この味なら、何度も通いそうだ。アイスティーと合わせて17,000ドンということは、150円もしない。

ブラブラ町歩き

初めてのフォーに大満足して、店を出る。
近くにヒンドゥー寺院があるはずだ。塀に囲まれた、そこだけ違う雰囲気の建物があった。名前は「スリ・マリアマン寺院」。そびえたつカラフルな外壁が人目を引く。

「マリアマン」というのは女神の名前で、南インドのタミル地方農村部の地母神とされ、医療や収穫、結婚と家族、そして子供の神として崇拝されているそうだ。
どこの寺院でも敬虔な信者がいて、熱心にお参りしている姿を見かける。日本でも神社にお参りすると、拝殿の前で長い間手を合わせて祈る人の姿を見ることがある。一方、日本の有名な寺院は観光地化しすぎている気がする。

通りを歩いていると、いろんな光景に出会い、いろんな人とすれ違う。
路上の散髪屋、学校帰りの小学生、物売りの女性、写真を撮ってくれと声をかけてくる男たち。

みんな明るく陽気で気持ちがいい。

サイゴン川が見たくて、その方向に歩き始める。途中でニューラン(Nhu Lan)という名前のベーカリーがあった。ホーチミン市では有名な老舗らしく、客が多い。パンやサンドイッチはもちろん、肉類やお菓子、飲み物など、いろんなものを売っている。
ここでベトナム風肉まんを1個買ってみた。サイゴン川のほとりのベンチで食べる。まだお腹がすいてなかったうえに、とても大きな肉まんだったので、半分ぐらいでもう十分だ。残りをどうしようかと悩んだが、ホテルに持ち帰るほどではないので、もったいないがゴミ箱に捨てた。

サイゴン川の川縁に立って、何枚かカメラのシャッターをきるが、レンズの内側に小さなホコリがついているのが見える。気になるので、グエンフエ通りに何軒か並んでいた写真屋に持っていく。
最初に入った店はCanonの店だったので、これで何とかなると思ったが、「技術者が病気で今はいないので、明日もう一度来てほしい」と言われる。仕方なしに、別の店をのぞく。主人とおぼしきおじさんにカメラを見せると、「大丈夫」と言う。レンズをはずして空気を吹きかけて、ホコリをとばしてくれる。
おじさんは、「ジャパニーズ、ナンバーワン!」と言いながら、カメラを返してくれた。
「フリー?」とたずねると、にっこり笑ってうなずく。
こんな簡単なことだったんだと思う一方で、おじさんの親切に、とてもうれしくなる。

再びサイゴン川のほとりに向かう。
途中にキン・ドー・ベーカリーというパン屋があった。ベトナムはかつてフランス領だったせいか、パン屋が多い。夜に食べようと思ってパンを2個買っておく。
時刻は6時。まだ空は明るいが、もう少しで日没だ。空いたベンチに腰を下ろして、暗くなるのを待つ。涼みがてらに川縁に人が集まってくる。

いろんな物売りが何度も前を通る。立ち止まって、買ってくれと声をかけてくる。
ヤシの実ジュース売りの少年、トウモロコシ売りの女性、揚げ菓子やせんべいを売る女性、タバコ売り・・・
ガムを片手で差し出して、「買って」と言ってきた小さな少女が、袋に入ったパンを見て、一つほしいという。お腹をおさえて空腹だというしぐさをする。近くにいた大人の女性もパンをくれと言ってくる。ほかの子どもたちもこちらを見ている。
これには困ってしまった。パンの入った袋を外に出していたのがいけなかったのか。パンをあげるのは簡単だが、それでいいのだろうか。それに、たった2個しかないパンを、どのように分ければいいのか。安易な施しはよくないのではないか。瞬時にいろんな思いが頭の中を駆け巡る。
彼女たちも、是非ともほしいという感じでもない。もらえればラッキー、という雰囲気である。
結局、「ごめんね」と言いながら、パンの袋をカバンに入れて、ベンチを立つ。ちょっと前に肉まんの残りを捨ててしまったことに罪悪感をおぼえる。

なんとなく居づらくなったので、暮れかけたサイゴン川に停泊する水上レストランの船の写真を撮って、ホテルに戻ることにする。

川のすぐそばに半円形の小さな広場がある。メーリン広場という。中央にチャンフンダオというベトナムの英雄の像が立っている。ここから町の方に、放射状に道路が伸びている。暗くなってきたので、道がわかりにくい。そのうち、自分がどこを歩いているのかわからなくなってきた。昼と夜とでは町の姿がまったく変わってしまう。不安になってきた頃、やっと見覚えのある建物を見つけた。市民劇場だ。ホテルはすぐそこ。
時刻は午後7時前。4時間近く歩き回っていたことになる。もう汗びっしょりだ。
シャワーと洗濯。そのあと、先ほどのパンを複雑な気持ちで食べる。

明日はベトナム中部の古都フエに旅立つ予定だ。


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